この物語は、一人の少年と手違い(?)で届いたVOCALOIDの物語である。

               *

頭の中のメモリーが二日分消えている。
自分がシャットダウンしたのは二日前のようだ。
千春と名乗った人物はKAITOを工場で修理して、家まで運び、再起動したそうだ。
しかし、KAITOにはわからなかった。
何故見ず知らずのKAITOにそこまでするのか。
なおしても何も利益などないだろう。

「どうしたの?そんな顔してると男がさがるわよ」
そう笑いながら、千春はコーヒーを淹れて、KAITOに差し出した。
KAITOは礼を言うと、コーヒーを飲んだ。が、

「―――!?」
KAITOは生まれてこのかたコーヒーなんて飲んだことはない。
クオさえ牛乳を入れて飲んでいるのだから、とんでもない味だということは知っていたが。
KAITOは激しく咳き込んだ。喉がコーヒーの熱さを感知していて、それがさらに拍車をかけたようだ。

「…もしかして、コーヒー飲むの初めてだったの?」
千春は呆れた声を出した。

声を出そうとするが口の中に広がる苦さがそれを許さなくて、
カイトはただ涙目になるしかなかった。
千春はとりあえずそのコーヒーを預かって、台所の方へ消えた。

しばらくして、千春は再びマグカップを手に戻ってきた。

「はい、こっちなら大丈夫でしょ」
コーヒーではなく、茶色の飲み物が淹れられていた。
コーヒーと違って甘いような、苦いような不思議な匂いがする。
KAITOは恐る恐るそれを飲む。
そして、味を感知する。
先ほどのコーヒーのような苦さとは違い、

「甘い…これは?」
「ココア。コーヒー無理なら、これしかないし」
ほら、私って実質一人暮らしだから

と千春が笑って、そこでKAITOは自分のいる場所を見る。
どこかのマンションの一角のようで、クオのマンションよりは広く、
そしてところどころにある家具は女性らしいものばかりだった。

「…俺は、いったいどうしてここにいるんですか?」
「それはこっちが聞きたい。道端にVOCALOIDがボロボロで落ちてるなんて
普通じゃないし」
「…俺は、暴走したVOCALOIDと戦闘になって、それで…」
「暴走したVOCALOIDって…会社からの連絡にあった初音ミク?」
「そうです」

KAITOは全部話した。
初音ミクは巡音ルカのデータを過って入れられたこと。
初音ミクを探す途中に襲われて視覚が見えなくなったこと。
何故かマスターと、逃げ出した巡音ルカが一緒にいたこと。
初音ミクは戦闘能力を持っていて、マスターとルカを襲ったこと。
それをかばって、片腕は奪われたこと。
ミクの中にあったルカのデータを自分を通してルカに返したこと。
会社に連絡を取ろうと思って、電波状況のよい場所に行こうと思ったら、
いつの間にかほかの機能がダウンしはじめたこと。

「つまり、貴方はマスターに棄てられたわけではないのね」
「はい」
「…そっか。」
千春はため息をつくと、
リビングのほうを向いて声を上げた。

「アンタの先輩アンタのせいで大変なことになってたみたいよ~?ミク」
気配があった。
その気配はおどおどしながら段々こちらにやってくる。
そして、壁からのぞくように顔を出した。
青緑のツインテールと、赤い髪飾り。
灰色に近い制服に似た洋服に、ひらひらのミニスカート。
黒のニーソックスのようなものを履いている。
そしてその格好は自分のメモリーにかなり印象強く残っている。

「初音ミク…?」
「そう。しかも、KAITOを襲った本人そのもの」
「えっ?」
言った意味がわからず、KAITOは千春を見やる。

「意味がわからないの?
『暴走した初音ミクは再起動されて、メモリーチェックもされずにバグだけ取り除き、見事出荷先に届いて歌謡いの毎日を満喫しています』…ってことだよ」
「…」
つまりだ。
自分の腕を吹っ飛ばしたり視界能力をなおしたようでなおしていない
あのボロボロだった初音ミクは今はこの家で平和に暮らしているということだ。
しかし、メモリーチェックがされていないということは…

「ごめんなさい…っ」
唐突にミクが声を上げた。
廃墟で謡った時と同じ声。
VOCALOIDの種類は、その機種はひとつの元となる声から作られる。
しかしそれぞれ個性があるように、同じ声のようで、微妙に違う。
しかし目の前のミクは登録されている、廃墟のミクと同じ声だった。

それより、ごめんなさいって。

「どうして謝るんだ?」
「だって、私は貴方を壊した…それだけじゃない、いろんなものを奪ってしまった。」

たしかに、KAITOはいろんなものを奪われた。
まず視界。それから片腕。それは一人で家に帰る手段。
そして、後からすべての機能のダウンを招いた。
知らない場所ですべてダウンしてしまえは、それはVOCALOIDにとっては
人の絶命と同じ扱いだろう。
連絡機能が使えないのは電波が悪いからと千春は言ったが、それは本当なのだろうか。

気がつくと千春がこちらを見ている。

「それにしても変ね」
「…何がですか」
「VOCALOIDとはいえこんないい男が落ちているのに誰も反応しないなんて」
「なっ!?」
「あはは、冗談よ」

笑いながら千春はカイトの手から空のマグカップを掻っ攫う。
喜んでいいやら怒っていいやらで、カイトは沈黙した。

「ねぇ、先輩。ひとつ聞いていいですか?」
ミクがおずおずと尋ねる。

「先輩じゃなくてカイトでいいよ…」
「声を弄った後がなかったのですが、先輩は歌は…」
「残念ながら謡った事がありません」

VOCALOIDなのにね。
そうカイトはため息をついたが、ミクは笑った。

「大丈夫ですよ、先輩も絶対歌えるようになります!」
「…だからね、先輩って言うのやめてくれない?なんだか惨めになるから。」

              *

『エラー:電波状況の悪い場所か、電源が切れている恐れがあります』
何度連絡を取ろうとしても、これだ。
クソッタレ、と思わず携帯を壁にぶちまける。
壊してしまってもかまわない。携帯をぶちまけてカイトが見つかるという保証はないが、
携帯を壊してカイトが壊れてしまうという馬鹿な話もない。
それに三日連続同じ人に繋ごうとして同じ画面しか出さない携帯なんて、いらない。
そう思ったが、間一髪、ルカが壁に当たろうとしていた携帯を受け止める。
ルカはそのまま携帯を床に置いた。そして落ち着いた口調で話す。

「クオさん、携帯は投げるものでも壊すものでもありませんよ」
「でも、もう三日だぞ?!三日も連絡が取れないなんておかしい」
「画面のとうり、どこか電波状況が悪い場所で修理を受けているか、
修理中なので電源が切られているのではないのでしょうか。あるいはどっちもなのか」

ルカの言う事はもっともだ。
廃墟で別れたとき、カイトは片腕と視覚能力を失っていた。
別れたあとに別の機能も故障してしまったのか連絡がない。
それでもどこかで動いていて、すぐ修理を受け帰ってくると思っていた。

「おそらく自動修復プログラムは真っ先にミクによって破壊されたのかもしれません」
「自動修復プログラム?」
「はい。自動修復プログラムと言うのは、簡単な故障…たとえば回路の再生を行うのです。
それによって視界回路は焼ききれる直前に修復される筈なのですが…」

それがおこなわれていないということは、自動修復プログラムが壊されているのだろう。

「そうなると、他の機能の故障を直せないので…可能性ですけどね」
「…ルカ」
「はい?」
「お前の機能にカイトの居場所がわかるとか、そういうのはないのか?」
「それはありません。似たようなのはありますけど」
「そうかないのか…って、似たようなのって?」
「ナンバーを登録しているVOCALOIDの場所を検索できるのです。
マスターのカイトさんは私にミクからデータを移してくれたのでナンバー登録は完了しています」
「じゃあ初めからやってくれよ…」

床に落ちている携帯電話に『着信アリ』と書かれていたが、
マナーモードのままだった上、ルカとそんな会話をしていたクオが気付くはずもなかった。



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【電波は】二人三脚-11-【通じないようだ】

おはようございますこんにちはこんばんは。
新章突入の模様。

どうでもいいけどこの小説リンレン率少ないな。
めーちゃんやルカやカイトやみくみく率は結構行くのにね。
リンレンの話を考えよう…うん。

いまだにルカさんの性格がつかめません。
S…か。やっぱりルカさんはSなのか。
カイトが帰ってきたらやらせようと思います。
…あれ?

閲覧数:265

投稿日:2009/03/03 14:11:13

文字数:3,414文字

カテゴリ:小説

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