「ツクヨミの話になると、アナタは目の色が変わるのね」
ニガ笑いしながら、紙魚子さんが、レイムさんに向かって言う。
「そういう訳じゃないけど。でもね」
レイムさんは、人差し指を立てて言う。
「今回、ミクさんの“リンリン・はっちゅーね”の仕事が無くなった事。それは、ツクヨミの月光企画にとって、かなりな“痛手”なわけです」
「うん、そうですね」
暦君はうなずいた。
レイムさんは続ける。
「月光企画っていう会社は、いつでも商品を“たくさん売る”ことを目指しているんです。そして」
彼女は暦君とミクさんの顔を見た。
「商品が売れるその後ろには、つねに商品を買う人の“大きなパワー”があるの」
「大きなパワー?」
ミクさんが尋ねた。
「ええ。商品のファンたちの持ってる、大きなパワーです。とくに、月光企画は、世の中の“鬱積したパワー”を、あやつる力に、長けているように思うの」
レイムさんが答える。
●買う人のパワーをブームに...
「うっせき?」
暦君が聞き返す。
「ふーん、そういうパワーというか、ニーズを、世の中の流れや、ブームにする...それがツクヨミの“月光企画”ってわけ?」
紙魚子さんが、自分も納得したように、つぶやいた。
「じゃ、いつか、アナタがツクヨミさんにひどい目に遭った、というのは? 鬱積したパワーが、アナタにあったの?その時」
いたずらっぽく尋ねる紙魚子さんに、レイムさんは口をとがらせた。
「それは、置いといて。また今度の話」
4人とも、月光企画についてもっと話していたかったが...。
レイムさんと紙魚子さんは、ここで席をはずした。
●パワーは、恐ろしい
ツクヨミの噂で、話が長引いてしまったが。
暦君は、自分の店である「カンテイ団」の仕事の話を、ミクさんとするために来たのだ。
新製品の「リンリン・はっちゅーね」の仕入れの話だ。
彼はすでに新製品を、少量、自分の店に並べている。
それがお客に大変好評だった。そこで、追加でたくさん仕入れようと考えている。
「ミクさんの“リンリン・はっちゅーね”ですけど、すごく売れているんですよ」
「まあ、うれしいです」
ミクさんは、顔をほころばせる。
「せっかく売れ出してるのに、その販売促進や、プロモーションを、月光企画がやらない、となると...」
暦君は、少し首をかしげて言う。
「バクハツ的な売れ行きというのは、なくなるかもしれませんよね」
「いいんですよ。私は、商品の良さをわかってくれるファンや、売り場の人と一緒に、きちんと育てていければいいんです」
ミクさんは、にっこり笑って言った。
「そうですか。そういえば、この間も、ボクの店に遊びに来ていた人が言ってました」
暦君は、うなずいて言う。
「リンちゃんのファンと思われるお客さんが、いつも店にいっぱいなので、ゆっくり商品も見られない、って」
「あらまあ」
「“ほんとに、すげえパワーだよ”って。霧雨さんが」
ミクさんは、目を見開いて聞く。
「雑貨作家の、霧雨さんが?」
暦君は、苦笑いをした。
「あの人、口が悪いですからね。“オタクさんのパワーは、恐ろしいよ”って。」
ミクさんは、繰り返した。
「パワー?」(・・。)
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