足元も覚束ないまま、浬音は涙を零していた。彼が消えたドアから目を逸らす事無く、声を上げずただ止め処なくポロポロと涙が流れていた。
「…どうして泣くんですか…?!あんな目に遭ったのにどうして…?!あの人と居たって
傷付くだけじゃないですか!」
「…るさい…。」
「え?…うわっ?!」
急に胸を強く押され、そのままベッドに倒れこんだ。
「浬音さ…?!」
「うるさい…うるさい!うるさい!!勝手な事言わないで!!近寄るなとか…傷付くだけ
とか…そんなのどうして貴方に言われなきゃならないのよ?!」
「けほっ…けほっ…!そ…それは貴女の…!」
「貴方には解らない…ちゃんと愛して、待っててくれる家族がいる貴方に…私の
気持ちなんか解る訳無い!!」
見上げる瞳から大粒の涙がぱたぱたと落ちて来た。まるで玩具を取られて駄々をこねる子供の様だった。真っ直ぐに、それだけしか見えなくなって、感情のままに言葉をぶつけて…。似ているのかも知れないな、家族を知らずに育った彼女には、自分に手を差し伸べる人間は何としてでも失いたくない物で…。
「私は貴女が傷付くのを見たくないだけです。そんな小さな身体で、そんなに泣いて
いるのに…放って置くなんて私には出来ません。」
手を伸ばして後から後から流れる涙を両手で拭った。一向に泣き止んではくれなくて、温かい涙が時折頬に落ちた。どうすれば泣き止むのか、皆目見当も付かないまま、涙を拭い続けた。私は間違っているのだろうか?余計な事を言わず、浬音を茅ヶ崎さんに預けた方が良かったのだろうか?だけど彼も何か引っ掛かる所がある。少なくとも今の状態で2人をこのまま放って置いては良い結果にはならないだろう。
「寂しいんですか?」
「…え…?」
「私は貴女を軽々しい人間だとは思いません。帽子屋に対する気持ちも確かな物
でしょう。だけど今の貴女は彼を…茅ヶ崎さんを求めています…優しく手を差し
伸べて、貴女を愛してくれる彼を。」
「…っ!!」
「私から見れば弱味に付け込まれている様にも思えますよ。」
涙が止まって、触れていた顔がカッと熱くなるのが判った。
「…からない…寂しいかどうかも…よく…判らないんです…。」
「ならどうして会いたいんですか?」
「元気付けてくれたから…。」
「それだけですか?」
「辛い時一緒に居てくれた…。」
「他には?」
「…鳴兎が泣きそうな顔してたの!いつも笑ってるけど凄く弱ってる顔なんか
するから…!だから…!」
真っ赤に染まった顔と荒げた声に思わず顔を強く引き寄せた。
「なら同じ事をすれば私でも構いませんか?」
「…っ?!なっ…?!や…!!放し…!!」
「どうなんですか?」
「…放して!!」
「痛っ…!」
猫の様に両手を引っ掻くと浬音はそのまま後ろに飛び退いた。顔がゆでだこの様に赤いまま、何を言おうか言葉に迷っている様子だ。
「…失礼。体調も戻った様なので部屋に帰ります。」
「………………………………………。」
「そう警戒しないで下さい。前にも言ったでしょう?敵意は無いと。」
「じゃあ何があるんですか…?」
問い掛けに答えられずに部屋を後にした。…敵意が無いなら…何が…あるんだろうか…?
DollsGame-86.カラー-
これは…ヤバイかも
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