ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#08】



 結局、あの長い手紙は書きあげたものの、そのまま屑籠に放った。
 いまさら、あんなこと――手紙に綴った思いの丈、私がこれまで何を思い生きて、どれだけかいとを想って生きてきたか、なんて――を言われても、かいとだって困るだろう。十年も会っていない女を、もう他の家に嫁入りのきまっている女を、ここまで追ってきてほしいだなんて、私もそこまでわがままではない。それに、こんなになってしまった私を、かいとには見せられない。絶対に、会うことなんてできない。想いを伝えるなんて、傲慢もいいところだ。
 そっけない一筆箋に「前略」からはじめて、用件だけ述べ、「草々」で閉じた手紙をポストに投げ入れ、私は溜め息を吐いた。長かった夢の終わりは、呆気なくポストの口に飲み込まれていった。
 もう、これで、おしまいなのね。ほんとうに。
 あれほど心躍るようなやり取りは、もうこの先きっとないだろう。けれど、手を離したのは、自分の方――それが、望むと望まざると、手を離したのは、私の方なのだ。そうして、かたちだけ他のひとの手を取って、そのじつ、誰とも手を取り合わないまま、私は生きていこうと決めたのだ。
 陽射しが強くて、思わず手をかざす。その手の向こうに、幼いころの面影を残す、見たことのない笑顔が見えた気がした。
 この手を重ねたいのは、今も昔もあなただけなのよ、と言っても、信じてくれないでしょうね。
 そう胸の中だけで呟いて、苦笑する。私は、この期に及んでなにを期待しようと言うのか。信じてもらえないほうがいい、恨んでもらえる方がよっぽどいい。こんなに自分勝手なひどい女よりも、きっと彼にはもっとふさわしい女性がいるはずだ。――それなら、さしずめ私には、あの紫の男もお似合いと言うところかしら? せりあがってきた吐き気には気づかないふりをして、従者としてついてきた女中とともに屋敷に向かって歩き出した。

 屋敷に帰る道すがら、空き地から、ぎゃ、とも、ぎゅう、とも、なんとも形容詞がたい声が聞こえて、ふと視線を向けた。赤毛の猫が、白黒のぶち猫と対峙していた。
「……あの赤毛」
 家出した日に、庭で女中に追いかけられていた仔猫に瓜二つだ。しかし、それにしては身体も大きいし、毛並みはよくないし、傷も多い。もしかしてあの仔猫の親猫じゃないかしら、と口に出す前に、目の前で、猫同士の乱闘が繰り広げられはじめた。
「なにしているの……!」
 唸り声を上げながら、お互い掴みかかるように爪を振りかざす二匹を見て、思わずそちらへ向かおうとすると、女中は私の袖を捕まえて、お待ちください、とひとこと言った。
「お譲さま、お待ちください」
「でも」
「あれは、きっと縄張り争いですわ。人間がどうこうできる類の争いではありません、下手に手を出しては猫といえど恨まれますよ、お嬢様!」
 中年のその女中は、迷信まがいのことを口にしたが、狐も狸も烏でさえも祟るといわれる世である。咲音の家でも、年に一度、盆にあわせて供養の祈祷をしてもらう。昔の時分こそ、ばかばかしいと思っていたその儀式は、しかし、すくなからず他人の不幸を踏み台にしてきた咲音家にとっては、必要なことだったのだと今ならわかる。
 余計な業は背負うなと、この女中は言いたいのだろうか。
 それなら、と、納得して身を退いたが、やはり猫といえど、諍いは気になる。
「……あの赤毛、うちの猫ではないのかしら?」
「あら、お嬢様は忘れてらっしゃると思っていましたのに」
 たしかに、この間の一件があるまで、ずいぶん長い間忘れていた。それも今になっては、思い出さない方がよかった、なんて思ってしまうほど、きれいな思い出と一緒に鮮明に思い出されている。
 なんとまあ、たくましくなったこと、と思いながらその勝敗の行く末を眺めていると、女中はべつだん気にした風もなく、言葉をつづけた。
「あの赤い方は、多分、つばきでしょうねえ」
「つばき?」
「あの子の名前ですわ。誰が言い始めたのか知りませんけれど」
 あのどこか潔い感じが、どことなく椿に似ている気がしません? と、女中は目を細めて赤毛の猫を指した。赤毛の猫は、白黒ぶちに劣勢のようだった。執拗に目を狙われている。
「大丈夫なのかしら」
「大丈夫でしょう。お嬢様はご存じないかもしれませんが、つばきは、ここいらの猫をまとめる大親分なんですのよ」
 そうして女中と会話しているうちに、ひときわ甲高い猫の鳴き声が聞こえ、私ははっと空き地に目を向け直す。先ほどの位置に、赤毛と白黒ぶちはいなくなっていた。どこにいるのだろう、と、探す間もなく、白黒ぶちが、塀伝いに空き地の向こうに消えるのが見えた。
 赤毛の猫はと言えば、積まれた土管の一番上で、毛並みの手入れなどしている。
 なるほど。つばき、とは名が体を表しているというか、そうして見るとまさしくあの猫にぴったりの名前だと思った。茶色というには赤すぎるその毛をもつ猫がふてぶてしくしている様は、どこか椿の印象に通じるものがあった。
「つばき……」
 ぽつりとつぶやくと、赤毛の猫は、一度だけその耳と目をこちらに寄越しただけで、また背中の手入れをはじめた。つくづく、ふてぶてしい猫だと思う。
 しかし、そのふてぶてしさは同時に、とても好もしいものだと思えた。すこしだけちくりと胸に刺さるこの感じは、もしかして羨望だろうか。
 私の失ってしまったものを、彼女はもっているのだろう、きっと。
「あのぶんじゃ、今日もつばきは家に帰ってきませんね。さ、わたくしたちも屋敷に戻りましょう。今日は久しぶりに神威様がいらっしゃる日ではありませんでしたかしら?」
 そうだったかしら。そうだとしたら、家には帰りたくないものね――なんて、軽口を叩く気力もない。
 空き地に悠然と寝そべる猫を横目に見て、私は言われたまま屋敷への道を歩き始めた。

 ふと空を見ると、東に黒い雲が見えた。女中もそれに気がついたようで、あらいやだ、と、心底迷惑そうな顔をして口をとがらせた。
「雨になるのかしら」
 屋敷に帰ったら、洗濯は中に干すよう言わなければ、と、ひとりごとのように言う女中に適当な相槌を打ち、私は、今日こそしぐれを散歩に連れて行こうと思っていたのに残念ね、などと考えていた。
 それよりも、頭上をぎゃあぎゃあと鳴いて飛んで行った烏の方が目についた。
 烏は忌鳥だ、と、書いてあったのはどの本だったか。暗雲に烏なんて、なんだかよくない組み合わせのような気がする。けれど、そんな不安をあおるようなことは考えなかったことにして、女中とともに足を急いだ。

 今雨にぬれても、きっと、蕗の傘を差し出してくれるような優しいひとは、この街にはいないのだから。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#08】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、赤い猫を羨むの巻。

かいと編の表題が青犬なのは、だいぶ初期からきまってたんですが、めいこ編の
表題がうまいこと思いつかず、たすけさんが「紅猫ってどうでしょう」と言ってくれて、
やっと決まった表題でした。で、9話にしてやっと件のにゃんこ登場。遅え!(笑

ちなみに、つばきの女番長設定にはモデルがあって……。
金管アンサンブル曲に、ヘイゼルという方が書いた「猫組曲」と呼ばれる
曲集があるのですが、その中に出てくる「クラーケン」という名前の
にゃんこさんをイメージして書いてるんですよね。
気になる人は、「ヘイゼル 猫組曲」でぐぐってみて下さい。

青犬編では、かいとくんがなにやら意気消沈しているようなので、こちらも是非!
……私もたすけさんに握手を求めとこ(つ´ω`)ノ<詳しくはたすけさんの投コメで!

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かいと視点の【青犬編】はたすけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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つづくよ!

閲覧数:684

投稿日:2009/09/02 04:57:38

文字数:2,967文字

カテゴリ:小説

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