その日の日中、安田研究室。いつもどおり、学生たちが研究なり授業の予習をしていた。そんな中、
「すみません、メンテナンスに来ました」
ミクがやってきた。今日はミクの定期メンテナンスの日である。
「やあ、ミクちゃん、こっちへどうぞ」
部屋にいた武本がミクに話しかける。
「はい」
そう言って、メンテナンス室に案内されるミクだった。
メンテナンスも無事終わり、ミクがメンテナンス室から出てくる。
「ミクちゃん、今度のワールドツアーってどうなの?」
「ええっと、色んな演出とかがあって、初めての人でも、何度も見ている人でも楽しめると思います。ただ、まだツアー前なので、詳細は明かさないように言われていますけど」
練習の様子を思い出しながらミクがこたえる。
「まあ、しかたないね。…練習は順調かい?」
「はい、問題なくできています」
「毎回、ワールドツアーは長期に渡って大変だね」
「いえ、もう何度もやっていることですから、なれました。…あの、すいません、ちょっと用事があるので、おいとましていいですか?」
「ああ、用事があるのか。時間取らせちゃって申し訳ないね」
ミクの言葉に、謝る武本。
「いえ」
そう返事すると、そそくさと安田研究室を出て行くミク。ミクを見送った武本に、西野が声をかける。
「…あ、ミクさん来てたんですか」
「ああ、今日はミクちゃんの定期メンテナンスの日だ。今日はワールドツアー前の最後のメンテナンスだからな、気合を入れてメンテナンスしたぜ」
そんなことを言いながらも、武本は何か気になることがあるようだ。
「武本先輩、どうされたんです?」
「…なあ、ヒロ、今日のメンテナンスを振り返ってみたんだが、おかしいことが二つある」
「そうなんですか。出て行くミクさんを見ましたが、僕にはいつもと変わらないように見えましたが」
「まず一つは、ミクちゃんがメンテナンス後、すぐに研究室をあとにしたことだ。いつもだったら、俺たちの他愛無い、どんなつまらねえ話でもつき合ってくれるのに、今日に限って用事があると言って、俺との会話を早々に切り上げた。まるでここにいたくないかのようだった」
「でも、ミクさんのワールドツアーも近いですから、その関係で用事があったのかもしれませんよ」
「確かにそうかもしれん。…もう一つおかしいのは、メンテナンス中に研究室に安田教授が来られなかったことだ」
その武本の言葉にはっとなる西野。
「…確かに、安田教授はミクさんのメンテナンスにはいつも顔を出してらっしゃいますね」
「だろ?安田教授は、ミクちゃんのメンテナンスの時間は、例えば授業とか、教授同士の打ち合わせとか、どうしても外せない用事がない限り、たとえ論文作成等でお忙しい場合でも、いつも顔を出してらっしゃる。だが、今回、それがなかったのはおかしいとは思わねえか?今日がミクちゃんのメンテナンスの日ということは安田教授は当然ご存じのはずなのに」
「…ですね。以前武本先輩がおっしゃられていたように、安田教授とミクさんとの間に何かあったのかもしれませんね」
「かもしれんな」
そういいながら、しばらく武本はミクの出ていった扉を見る。
「…そういやヒロ、お前、受けている授業で、分からない所があるって言ってなかったか?」
「ええ、そうですね。教えていただけるんですか?」
「何言ってんだ。俺はヒロのサポートをしているんだぞ。何かあったら教えるのが当然じゃねえか」
そう言って自分の胸を叩く武本。
「すみません、それでは、僕の机まで来てもらえますか」
「あいよ」
そう言って、西野の机に向かう二人だった。
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