2~ギブソンと下僕




あの事件から1日が立った。

「今日も憂鬱だぁ」

夕方の街中で呆然とギターをかき鳴らしている俺がいた。

しかも今日は1925縛り、余計身が入らない。



あの事件の日・・・



「とりあえず了解したからなんか弾いてみろよ」
「う、うん」

神妙な顔になりやがった、こいつ。

ぺこん。

「うぅ、指痛い」

ぺこん。ぺこん。

全然音も出てねぇし、ストロークできてねぇ・・・。
しかもチューニングが狂ってる。

「ギター初心者なのか?」
「うん、買っただけ」

全くの初心者かよこいつ!!さっきのあの態度はなんだったんだよ!!!

「まさかその腕前でJ45Mを?」
「じぇーよんじゅうごえむ?」

しかもいいギターと知らずに買ったのか・・・。

「そのギターの名前だ、覚えとけ」
「ジェーくんなんだぁ、ジェーくん」

名前つけやがった、プロミュージシャンかよ。

三久はギターに頬ずりした。

「一体全体どこで買ったんだ?そのギター」
「楽器屋!!ピック付きで10万でいいって」

高けぇ。しかも初心者にギブソン売りつけるとかとんだボッタクリだな。

もうツッコミが追いつかない・・・。



「ごほん・・・とりあえずチューニングから始めてみるか」
「うん」

俺は自分のギターケースのサイドポケットからチューナーを取り出した。

「これなに?」
「チューナー。ギターの弦チューニングに必要な道具。いろんな形のものがあるけど、このクリップ型が使いやすいかな」

クリップの上にデジタル時計みたいな文字盤がある、これがチューナーだ。
おそらく初めて見たであろう三久はキョトンとしている。

「どうやって使うの?」
「こうやって、ギターのヘッドに着ける」
「ヘッド?」
「ここだよ」

俺はギターの弦が巻いてある所を指さして言った。

「う、うん・・・」

チューナーのスイッチを入れてやる。

「6弦を鳴らしてみ?」
「うん・・・」

三久が6弦を弾いた。

ボーン、と低音が部屋に響いた。ギブソンの重みのある低音だ・・・。

「パラメーターが動いたろ?これをEの文字の真上、要するに真ん中になるまでペグを回す」
「ペグ?」
「そこの弦を巻いてる横のツマミの事だ」
「・・・わかった」

ボーン、ボーン、ヴォーン。

「できた!あとどうすればいい?」
「あとは5から1の弦もチューニングしていく」

ヴォーン、ボーン、ヴォーン、ボーン。

無言の空間が二人を包んだ。

木漏れ日がゆらゆらとカーテンの間を踊っている。



「よし、全部できたよ!!」
「とりあえず鳴らしてみ」

ジャラーン・・・。

うわ、いい音。
深みのあるかと言って深すぎない。でもアメリカンテイストのカラッとした音も入ってる。

そんなことを俺は考えていた。

「ジェーくんいい音~!美声類~!!」

初心者でも分かるほどいい音なんだな。でも、完璧なチューニングを教えた俺を褒めてくれよ。



「で、基本のコードは・・・」
「基本のコードより、1925のコード教えてよ」
「ほかのコード覚えておいたほうが・・・」
「うっさい、早く教えろ」

ハイハイ、サーセン。

でもさっきの集中してた時の方が清楚な感じして俺の好みでしたけどね~。



こうして、俺はとりあえず1925最初の基本となるAmとEmを教えた。

三久は飲み込みが遅いほうだが一生懸命やる方なので、夕方までの3時間でとりあえずコードの音は出るようになった。

ぐぅ~。三久のお腹が鳴る。

「おなかすいた~今日、なんも買い物してないから出前のラーメンでいい?」
「別にいいよ」

三久が悪戯を企んだ顔で微笑んだ。嫌な予感がする。

「ラーメン代は出世払い&ツケで、後で500%金利で返してもらうから」
「ひでぇ、他に方法ないのか?」
「う~んと、手ぇついてお願いしますって言えば食べさせてあげるケド」

やりました。やりましたよ。もう俺、下僕でいいや・・・。



こうして俺は玄関にある電話でチャーシューメン(多分三久の分)と普通のラーメン(きっと俺の分・・・)を頼んだ。

三久は奥で着替えをしているらしい。

「30分位かかるらしいぜ」
「あ、ちょっとこっち来ないで、来たら殺すから」

俺は初対面の女にギターを教え、ラーメンを頼まされた挙句殺されるのか。別にもういいや。

「もういいよ」

そこには私服姿の三久が立っていた。

かわええ、と率直に思ったその時、コンポから音楽が流れ出す。

〈いたいけなモーション~振り切れるテンション~〉

誰が歌っているのだろう。このロボ声は。

「これって1925じゃね?」
「そう、本家の1925。あんたの馬鹿らしい歌とは大違い」

ひでぇ・・・がもう慣れた。

「でさ、その本家は誰が歌ってんの?このロボ声」
「ロボ声言うな!!初音ミク!!!」
「はつね、みく?」

初めてギターの名前聞かされた時の三久みたいな発音だった。

「アニメキャラ?」
「違う!この子が歌ってるの!!」

三久がゴソゴソとカバンをあさって俺に見せたのは、アニメキャラみたいなストラップだった。

「この子自身が、色んな歌を歌ってる。初音ミクはみんなのアイドル」

俺が初めてボーカロイドというのを知った瞬間だった。



その後ラーメンを食ってる時もそれから寝るまでもず~っと、ボーカロイドの話しかしなかった。

俺は最初疑問符ばかりだったが、話を聞くにつれ少しずつ分かってきた気がする。

三久はベッド、俺は布団も枕もない床で寝た。

女の家に泊まったてのにこんなにドキドキしないなんて・・・。



こんな感じだ。

挙句、次の日朝起きて、
「あたし、ガッコいくから」
と合鍵も渡さずに俺に俺のギターだけ持たせて、追い出しやがった。

俺は人生をあいつに支配されてしまったのか?

「進むべき道なんて自分で決めるのさ~」

あー、歌っている歌までこんなに矛盾してるとは・・・。

「不安や恐れに足元を~いだっ」

また足を強く踏まれた。もう犯人は分かってるし目の前にいる。

「下手な歌歌ってんじゃねーよ、バーカ」
「うっせえ」

三久の手は大きなスーパーのレジ袋を持っている。

「なんだよその袋は」
「今日せっかくごちそうでも作ってあげようと思ったのに、その態度じゃ作れないかも・・・」

ちっ、変なときだけ可愛いんだからな。



夕日が歩いてく2人の影を映し出す。
照れ隠しでお互いそっぽを向いている二人の影を・・・。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

1925から始まるストーリー~その2~

ここまで妄想いっぱいの物語にお付き合い頂き、誠にありがとうございます。

三久デレキタ━(゜∀゜)━!

今回は1925要素少なめ回でございます。

この物語に出てくるJ45Mの親戚のギターが、ネットで20万していてとっても驚きました。
定価はもっと高いらしいです。

1925から始まるストーリー
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閲覧数:224

投稿日:2013/03/10 09:32:09

文字数:2,720文字

カテゴリ:小説

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