…初音ミクと鏡音レン。
2人の物語が先へと進む前に、少しだけ時間軸を巻き戻そうと思う。

所はヴァーレーヌ。ギルド本部の置かれた極寒の地。
石造りの堅牢な要塞であるギルド本部では、その時、円卓会議が行われていた。




「それでは…鏡音家の動向について、『青』より報告を」
「はい」

凛とした声と共に、仮面をつけた円卓会議の面々の内、青髪をした細身の男性が立ち上がった。
『青』という偽名で呼ばれた彼は、淀みない口調で報告を始める。

「鏡音家…もとい、鏡音家次期当主である鏡音レンについては、マトリアにて傭兵の初音ミクと接触したとのことです。目的は不明ですが、最終目標は姉との合流と見て間違いないかと」
「初音ミクと言えば、最近ランクA-に上がった魔術師か…」
「あの『歌姫』の弟子であろう。何を考えているやら分かったものではないわ」

レンの名よりもミクの方に反応して騒ぎだす面々に、『青』は表情を変えないまま言葉を重ねる。

「姉である鏡音リンにつきましては、もはや分離は不可能と技術局が判断しました。副作用が落ちつき次第、最終処分に移るとのことで、円卓会議の承認を得たいとのことでしたが」

「反対だ」

『青』の言葉に即座に反応した人物に、ざわついていた場が静まり返った。
その人物は、円卓の上座から一同を見渡しながら、顔に落ちかかってきた紫の髪を優雅に払う。
1人だけ仮面をつけず、鷲のように鋭い瞳で『青』を見るその男の名は…神威がくぽ。

ギルドの現代表だった。

「しかし代表…」
「彼女に罪はない。分離せずとも生存する方法は存在するのだろう。それを試さぬうちに処分することは許さぬ」

きっぱりと、拒否することを許さない口調に、『青』が押し黙る。重ねてがくぽは続けた。

「鏡音リンについては、暴走せぬようにこれまで通り技術局で管理を行え。それ以上の手は出すな。…これは決定事項だ」

重々しい言葉に、しばらく沈黙が落ちた後、ゆっくりと『青』が頭を下げる。それを見届けて、がくぽは瞑目した。

その後、いくつかの連絡事項が通達されたが、終始重たい空気のまま、会議は終了したのだった。




会議終了後、円卓にはがくぽと『青』だけが残っていた。
他の誰もいないことを確認したうえで、『青』が丁寧に仮面を外す。下から現れたのは、先程までの凛とした声とは裏腹に柔和そうな、整った面立ちだった。

「キツイことを言ったな、カイト」
「いや、気にしなくていいよ。僕の立場では、表立って彼等をかばうことはできないんだから」

ニッコリと、陽だまりのような笑顔を浮かべて、『青』…もといカイトは、申し訳なさそうに柳眉を曇らせるがくぽに言う。その口調も先程までとは違う、朗らかなものだった。

監査役『青』。それがカイトがギルド内で与えられている役割だ。ギルド所属の傭兵、及びギルドを支援する国家群において、国際法に引っ掛かるような違反が為されていないかを調査する内偵。その立場上、誰にも肩入れすることは許されない、地獄のような仕事。

その役割に彼がついた理由は多々あるのだが、最も大きな理由は、「誰が見ても、普段の彼が内偵には見えない」ことだった。

内偵は見破られてしまっては意味をなさない。その意味では、彼はまさにうってつけの人選だと言えた。

「それよりも、僕としてはレンくんのことが気になって仕方ないよ。リンちゃんを捜して家出した彼が、どうしてマトリアなんかで油を売ってるのかな…?」
「初音に護衛を頼んでいるという所ではないのか?マトリアからバイアルまでは、護衛がいなくては越えられないだろう」
「そうなんだけどね…わざわざミクちゃんに依頼できるような伝手を、彼が持ってたとは思えないんだけど」

不思議そうに首を傾げるカイトに肩をすくめて見せて、がくぽはふと、詩の一節を諳んじる。

「『青は黄と混ざり緑を生ず しかして逆はなさず 壊れた時計は時を刻まず しかして途切れた歯車はまた時を刻む』…か」
「僕らはずっとそれに縛られているんだね。何百年も、ただただ待って…」

目を伏せたカイトの声に苦いものが混じる。それを聞きながらも、がくぽは彼には目をやらずに、会議場の細い窓から覗く空を見上げた。

灰色の壁から仰いだ空は、皮肉なまでに青く、澄み渡っていた。




時は戻り、マトリアの宿屋。
仕事を終えたメイコと、ミクとレンの3人が、ミクの部屋で車座になっていた。

「ふ~ん、じゃぁ、ミクはレンくんを護衛してバイアルに行くんだ」
「そういうことになるみたい。氷山さんの情報だと、指輪を奪った人はバイアルの貴族らしいし、レンくんのお姉さんもそこにいるらしいから」
「バイアルかー…あそこ、治安が悪いので有名よね…」

何とも言えない顔になったメイコに、ミクも重々しく頷く。レンがギョッとした顔でそんな2人を見比べた。

「ち、治安が悪いって…どの程度…」
「女の子が1人で歩いてたら大通りでも攫われる」
「え…」
「ご飯を食べよう~ってお店に入ったら会計時に10倍の値段でぼったくられた」
「えぇ…!」
「強盗被害を訴えに警察に行っても、警察がもはやチンピラ上がりだったり」
「えぇぇ…!!」
「傭兵の中で性質が悪い奴も、その9割はバイアル出身…レンくんの指輪を奪ったみたいな」
「えぇぇぇ!!!ちょ、何でそんな危ない所にリンが!?指輪が!?」
「いや、それは分からないけど…」

交互に並べ立てる女子2人に半泣きになったレンは、「行きたくない行きたくない行きたくないぃぃ…」と呟き始める。

そんな根っからのお坊ちゃん体質なレンに苦笑して、ミクはメイコの顔を見上げた。

「今回の仕事はちょっと時間がかかるかもしれないけど…戻ってきたら、久しぶりに師匠とハクの所に行こうと思うの。メイコも行かない?」
「いいわね!勿論行くわ!いつでも大丈夫だから…気をつけてね」
「うん」

心配そうな笑顔を浮かべるメイコに、ミクは安心させるように力強く頷いて見せる。

和やかな空気の2人をよそにして、レンは1人、重たい石でも背負ったかのように項垂れていたのだった。




出発は、明日。




<NEXT>

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】Gulid!!! 1-6

出発できなかった…

次回こそ出発します

閲覧数:304

投稿日:2012/06/25 23:42:29

文字数:2,564文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    出発できなかったwwwwww

    リンちゃんがまずいことになってる!
    分離ってなに?!

    まさか…リンちゃん、戦隊もののロボットにでもなったのか!?ww
    敵が巨大化するたびに合体してたら、分離できなくなりそうだもんね!←バカ

    2012/06/29 02:58:11

    • とうの。

      とうの。

      >しるるさん

      リンちゃんが巨大ロボ、に…!?
      なったら楽しいですね?(意味深
      どんな姿で登場するのかは想像してみてください♪当てられたら私がちょっとびっくりしますww

      次こそ出発です!次こそ!^^

      2012/06/29 12:39:21

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    鏡音家!?
    ってギルドの総本山で話題に上っちゃうようなとんでもない家柄かいな!!
    そしてリンちゃん気になるぞ。何々分離って?カイト兄アイスあげるから教えて(おい

    バイアルあかんて!!警察がチンピラ上りと10倍値段でぼったくりめっちゃ吹いたwwwww
    治安悪いどころかワルがワルを呼ぶ『類は友を呼ぶ』『ハエがゴミに集まる』状態になってるんじゃないだろうな?www

    読むのが止まらないwwwこれでいいのか受験生(ダメだろ

    2012/06/26 20:10:45

    • とうの。

      とうの。

      >TUrndogさん

      鏡音家は後々出てきますよー…多分
      今回の話じゃなくて第2章以降かもですけど…

      リンちゃんについては、あとちょっとで本人がちゃんと登場します!絶対!
      期待して待て!←

      バイアルの治安の悪さは、私が想像しうる最高ランクの治安の悪さを想定してます^^
      ミクはともかく、レンは苦労するんだろうな?

      受験勉強?そんなもの気合いですよ気合い!(オイ
      体調やら成績やらに差し支えない程度にお付き合いくださいませ^^

      2012/06/29 12:37:48

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