ほぼ同じ時刻、ここは野口の家。
「ケン、安田研究室のほうはどうなの?」
野口と飯田はキッチンのテーブルでコーヒーを飲みながら話していた。
「今の所問題はねえ。俺はやり方がマサとは違うから、そこに最初は戸惑っている学生もいたが、あっという間に俺のやり方に適応してくれたな。流石安田研究室だ、本当に良い学生しかいないぜ」
「なら、大丈夫ね」
「ああ、担当がマサから俺に変わったせいで、留年した学生がいた、とはいわせねえさ」
微笑む野口、そんな野口を見て、飯田は何か思いついたらしい。
「ねえ、ケン。ケンと雅彦君の話、聞きたいわ」
「マサとの話か?どんな話だ?」
「雅彦君は私よりケンとの付き合いが長いでしょ?それだけ付き合って、どんな印象を持っているの?」
しばらく考える野口。
「一言でいえば、良い奴だな。マサの頭の良さとか、今まで残した実績を考えれば、もっと威張っても良い位に頭は良いし、ミクちゃんの恋人という、ミクちゃんを独占できる立場だけど、マサは絶対に威張ったり、ミクちゃんを独占するってことをしねえな。マサ曰く、ファンあってのミクちゃんだから、マサだけが独占できる訳では無いし、そうする気もないそうだ」
「そうね、とっても謙虚で、好感が持てるわね」
「あと、あいつは恐ろしく利他的な奴だ。例えばミクちゃんやボーカロイド、或いは俺のためなら自分が苦労することに何のちゅうちょも無え。あの感じだと、例えマサが死ぬ結果になっても、ためらいすらしなさそうだな」
「…それって少し、度が過ぎないかしら?」
「俺もそう思う。だが、マサだとそうする気がしてな。今回の刺されたことだって、きっとミクちゃんやMEIKOさん、KAITOさんのことを想って自分から犠牲になりに行ったんじゃねえかな。いや、マサはあの場にいたのが俺だったり、マサの研究室の学生だったとしても、間違い無く同じことをしていると思うぜ、ただ、それはマサなりの考えだろうけど、周囲からすると理解できねえかもしれないが」
「確かに、この前のことはそう解釈できるわね」
「あと、マサはかなり義理堅え。昔、俺がマサにしてやったけど、俺がすっかり忘れていたこともちゃんと覚えていて、礼をされた時はかなり驚いたぜ。俺はマサに礼をして欲しくてやった訳じゃねえ。俺はマサの先輩として、同然のことをしただけだと思っているけどな」
「その時計も、そのお礼の一環ね」
「だろうな。実は、この時計、ちょっと値段を調べてみたんだ。…マサのことだから、安物をプレゼントするはずがねえとは思っていたけどな。そしたら、どうやらこいつはオーダーメイド品で、恐ろしく高い時計みてえだ。マサは高給取りだが、それでもかなり高い買いものだったはずだぜ。…そんなことに金を使う位なら、ミクちゃんに何かしてあげたほうが良いと思うけどな」
「それはケンが色々と雅彦君にしてあげたことがとても雅彦君には大きなことだったのよ。きっと雅彦君のことだから、この贈りものをしても、まだ十分お礼になっていないと思っているはずよ」
「ああ、マサはそういう奴だからな。こいつは、マサの俺に対する信頼と感謝の証だと思っている。大事に使わねえとな」
そういって時計を見る野口。
「おっと、そろそろ夕メシを作らないといけねえ時間だな」
「本当ね。だったら、二人で作りましょう?」
「おう」
そういって、野口は調理器具を出すために、飯田は夕食に使う食材を見るために立ち上がった。
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