Labyrinth in the world プロローグ

投稿日:2010/08/31 01:07:21 | 文字数:2,053文字 | 閲覧数:81 | カテゴリ:小説

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やべ、完結まで間に合わなかった。
続きはミク的なイベントが終わり次第あげます。

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 一年に一度しか訪れず、誰もが当然のように持つ記念日。これを誕生日という。今日は8月31日。俺は友人でも知り合いでも、ましてや人間でもないのに、それらと同じくらいに大切な存在の誕生を祝うために今日という日を待ち望んでいた。
 携帯に財布、そして忘れてはならない大事なライブチケット。今日はボーカロイド初音ミクの誕生日兼ライブの日だった。
 一年振りにやってきた記念日は珍しく晴れていた。
「今日はあつくなりそうだな……」
 俺は空を仰ぐと二重の意味を込めて囁いた。

 駅を目指し歩き始める。夏の熱気と蝉の声、どちらも俺にとって煩わしいものであるが、今日という記念日の前には、記念日をより鮮明に惹きたてるものでしかなかった。
 ふと行き交う人々に目を向け思う。俺にとって大切な日も隣を行き交う人々には何でもない他愛無い日なのだろう。そしてその逆もまた然りだ。
 それぞれがそれぞれの人生を生きている。何が大切かは自分で決めればいい。それだけのことだ。
 
(ん?)
 切符を買おうとして手が止まった。見慣れた何かが駅を出て角を曲がった気がしたのだ。緑のあれであったら、否応なく周囲の注目を集めるはず。だが俺以外の誰かが気付いた様子はない。
(そういうこともあるのか……)
 俺は切符を買うのをやめ、軽い気持ちで何かが曲がって行ったであろう角を覗き込んだ。
「おっ!」
 やはり見間違いではなかった。ミクの特徴的な緑のツインテールが駅裏の路地へと吸い込まれるように消えて行ったのだ。
(まさかな……。きっとコスプレか何かだろう。でもそれにしちゃ、ちょっと普段見かける髪質とは違う感じだったぞ)
 冷めた気分とは裏腹にそれを確認したいという衝動に駆られ、俺は路地へと足を向けた。

 路地に人気はなく、蝉の声だけがうるさく響いていた。まるで世界の片隅に切り取られたかのように存在している場所だった。当然のようにミクのコスプレをした人らしき人影もない。
(まあ実際はこんなもんだろ)
 秘かに期待していた『何か』も無く。路地はひっそりと静まり返っている。

 キィ……。

 ふいに何かが軋むような物音が聞こえた。
 よく見ると少し奥に内側に向かって僅かな隙間が空いている鉄の扉が見えた。時間的にもミクのような人影が消えた場所はここ以外には考えられない。不法侵入になるけれど、少し覗くくらいなら大丈夫だろう。俺は扉にそっと近づいた。

 ノブを掴み、その冷たさに驚く。真夏日であるにも関わらず扉はひんやりと冷たかった。
「うわっ!」
 まるで力を入れていないのに、触っただけで扉は滑るように奥へと開いていった。俺は無防備にも転がり込むようにして建物の中へと進入してしまった。
「イテテッ……。クソ、一体なんだっていうんだ」
 俺は悪態をつくと、部屋の中を見回した。今入ってきたところは、裏口か何かだったのだろう。入った場所は殺風景なところで目に付くものはどこかに通じているだろう三つの扉だけだった。
 右手に豪華な装飾の施された薄紫色の扉が、左手には左右対称の模様が描かれた黄色の扉が、そして正面には透明感のある一際目立つ緑の扉が、それぞれに威風堂々と存在していた。
 俺は左手にある黄色の扉に近づくとノブに手をかけた。
「ん……。こいつはダメだな」
 ノブはピクリとも回ろうとしない。壊れているのか鍵でもかかっているのか。残る二つの扉も気になったが、これ以上の不法侵入は本意ではない。俺は回れ右をすると入ってきた扉に向き直った。
(あれ? この扉いつの間に閉まった?)
 入ってきた鉄の扉はいつの間にか音も無く閉まっていた。ほんの少し違和感を感じつつも、俺は入ってきたノブを掴んだ。
(うっ……)
 心臓の鼓動が跳ね上がる。鉄の扉は黄色の扉と同じように、ピクリとも動かなかった。
「冗談じゃねぇ。俺はミクのライブに行かなきゃならないんだよ!」
 俺は仕方なく残っている二つの扉から脱出することにした。誰かに見付かった場合、正直に話し謝ることにしよう。
 
 俺は薄紫色の扉から先に確かめる事にした。ノブを掴むとやはり固い感触。この扉も閉ざされているようだ。俺は最後の望みを託し緑色の扉の前に立った。
(チッ。頼むから開いてくれよ)
 俺は意を決してノブを掴んだ。

 ガチャリ。
 
 ノブは重い音と共にゆっくりと回った。

(た、助かった……)
 俺は扉を押し開けて飛び出した。扉の先はどうやらゲームセンターか何かの廃墟らしく、埃っぽかった。出入り口らしきものも見える。俺は焦っていた心を落ち着かせると、外へと向かって歩き出した。

 ふと後ろを振り返ると、閉めた覚えのない緑色の扉が閉まっていた。
「半自動ドア? なわけないよな」
 薄ら寒いものを覚えた俺は、少しだけ足早に出口へと向かった。

 外に出ると、あれだけうるさかった蝉の声が止んでいた。空を見上げると鉛色の雲が青色の空を侵食し始めていた。

活動停止中。

もうダメ。疲れてしまった。

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