ダンボール箱を開けながら、レンくんが言う。

「わあ、この“進撃の騎士”、なんか可愛いね。デフォルメ・タイプのやつですね」
箱の中の、大きなビニール袋の中に、小さなカプセルに入ったフィギュアがいっぱいつまっている。

「夢中になって、仕事忘れないでよー」
袋を手に持って、ためつすがめつしているレンくんに、横からゆくりさんが言う。

「はい、分かってますヨ。でも、ボク、この漫画大好きなんですよ」
そう言って、袋を机の上に置く。

ゆくりさんのお店「ゆっくり」に置いてある、「ガチャ販売機」の中身なのだ。
発注した分が納品され、いまそれを筐体に入れる作業を、彼はやっている。

「えっと、こっちが“進撃の騎士”で、ええと」
彼は、隣にあるダンボール箱を引き寄せた。
「こっちが“シドニアの巨人”のフィギュアか。ウン、どっちもいい漫画なんだよね！」

独り言を言いながら、袋を開封している。


●自分はどうなんだよ

ゆくりさんは、キャラクターの箱を売り場の棚に並べながら、言う。
「うん、君がオタクなんで、売れ筋の商品がわかって、助かるわー」

レンくんは、カプセルを筐体に入れる手を止めて、口を尖らせる。
「あれ、ボクはオタクじゃないですよ。そういう友達は多いけど…。ボクは属性は三次元です」
「そういう用語を知ってる時点で、立派なオタクよー」

ちぇっ、自分はどうなんだよ、と彼は思ったが、口には出さなかった。

ふと、彼は思い出して、言った。別に話題を変えようとしたのではないが。
「そういえば、テト・ドールの新製品、すごく評判いいですけど」
売り場に並んでいる、ドールとポーチ・パスケースの新製品を見やりながら、続ける。
「テト・ドールの“ガチャ”商品を作るっていう話、ありましたよね」

ゆくりさんは、手を止めて答えた。
「そうなのよー。この前、ホソノさんが話してたものでしょ？」
彼女は、ちょっと残念そうにつぶやいた。
「きのう、用事があって連絡したときに、ガチャの話はなくなったらしいのよー」


●あいつ、最近ちょっと？

「ふうん、そうなんですか。ガチャにすれば、人気も広がりそうなのにね」
レンくんも、首をかしげて言った。

こんどは逆に、ゆくりさんが彼に尋ねた。
「そうそう、ルカさんのところの“リンリン・はっちゅーね”も、人気になってるらしいわねー」
レンくんは、それを聞いて、ふと作業の手を止めた。

ゆくりさんは続ける。
「ドールのモデルになった、あなたの妹のリンちゃんも、喜んでるんじゃなーい？」

レンくんは、ゆくりさんの方に向き直って、答えた。
「ええ、それがね。喜んでることは、喜んでるんだけど…」
珍しく、真剣な表情で、つぶやくように言った。

「あいつ、最近、家で様子が変なんですよ、ちょっと」(ｏ´・_・｀ｏ)