06
たくさんのCDを聞かせた中、創られたココロは「この人の歌を歌いたい」と笑顔で告げた。
だがその矢先、彼女は事故に合った。
歌えなくなったんだという男に対して、決して人に従順であるようにとはプログラミングされなかった擬似的な魂の主は酷く愚図った。
それなら、自分が彼女の変わりに歌いたいと。
「・・・こういうAIって、勿論勝手なイメージですけど、人に従うようにしません?普通」
彼が自分のところへ来た経緯を聞いた彼女は、先ほどまであった息苦しいまでの怒りをすっかり忘れ、むしろ間の抜けた顔で「一般的」なイメージを口にした。
ロボット三原則といったか。
元々SF小説出身の設定が普通に一般化されているというのも奇妙だが、それを組み込んでいないのだという話。
「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
って奴だな。
まぁ最近は新がついたりロボット倫理憲章‎なんてのも出歩いてるんだが・・・
まぁ人を殺すな、人に有利であれ、が基本か。
けどそしたら、それこそ"お人形"じゃないか」
つまんないだろー?それじゃ。
え?そんな理由なんですか?
そんな理由なんです。
けれど、と彼女は首を傾げた。
男は、彼がわがままだといったけれど・・・
「・・・・・・、でも、カイトって素直ですよ?すごく」
「それはお前さん相手だからだろ」
「だって社長にだって」
「とーさん」と言ってすごく懐いている。
本当に父親を尊敬する子どもそのもので、笑えるエピソードもあったが、大半「とーさんかっこいい」という話も彼女はいくつも聞いていた。
あれは「従順」じゃないと駄目なんじゃないだろうか?と考えてから、はたと気がつく。
彼らに心があるといったのは、自分ではないか。
いや、でも三原則は(二条はともかく)基本的に人の倫理と変わらない。
あれ?
混乱しかけた頭の中、ノー天気な男の声。
「俺の躾に間違いはないっ」
「ちょっ?!」
思わず上がったツッコミの声に、にんまりとした笑みの形をした返答。
「実際、俺が教育してきたんだぜ?
"親"としては尊敬されるべき生き方をみせてきたつもりだ」
「・・・・・・社長・・・・・・」
だからおかしくないのだと、男は胸を張る。
なのにふと表情を崩して、ふぅ、と少し長いため息をついた。
そうして告げる。
ロボット三原則を組み込まない、その本音を。
「まぁ実際、カイトとメイコのモデルパーソナルは俺の子どもだ」
ぽろりと零れた言葉に彼女は息を呑んだ。
十年前、事故でなくなったのだ。
彼の奥さんも、息子さんと娘さんも・・・
有名な事件だが、その頃まだ男の関係者ではなかった彼女は詳しくない。
だが、なんとなく理解ができた。
アレだ。某漫画の神様の、以下略。
「ん。そういう意味じゃ反抗期も見せなかった"理想の子ども"だったのかもしれねぇけどなぁ・・・
ちょっと、やっぱ違うんだよ。
あいつらの優先するものはいつだって"唄"。
もっと成長してきたら、もしかしたらお前が提示する音にも注文つけてくるかもしれない」
「・・・・・・・・・ッ」
それは、不安を本来なら沸かせるはずの言葉。
なのに、虚をつかれた彼女の目は輝いていた。
カイトが、私に・・・、挑戦する!
「それでも、あいつらと一緒に歌を作ってくれるか?海久」
表情で総てを理解できているだろうに、あえて聞いてくる男に、彼女は心から応える。
「・・・・・・・・そんな最高の歌い手が、選んでくれたのが私なんですね」
「そうだ。誰よりも歌を愛せ。
それがプログラム内、唯一の優先事項。
そのためにあいつが選んだのがお前だった。
大丈夫、雑音なんて、あいつには関係ないさ」
「そうですね・・・」
雑音。
つまらない否定。
歌うこと自体に、それがどんな傷害になると?
「ま、息子を頼むぜ、海久」
「勿論です!」
「じゃ、そのためにもこれからのコトなんだが」
「はい?」
いきなりじゃ、本題なといわれるのには馴れている。
ただ見せた顔はとんでもなくいたずらっ子の・・・それこそ預けられている「息子」よりも物騒な感じ・・・顔に、少々なりとも不安を抱いてしまっても、そりゃ仕方ないってもんじゃ・・・
「もうちょっともたせるつもりだったが、仕方ない。
手っ取り早く、世間をだまくらかそうと想うわけだが」
「はい?」
あの、なんでしょう?
その物騒な言い方は。
「KAITOとMEIKOにボディを与えようと想う」
「・・・・・・・ッ、それは」
いつか言っていた「がんばったご褒美」。
彼も男も、揃ってなんて冗談をと想っていたのだけど・・・
「こんな茶番騒ぎ、さっさと片付けないと、折角のお前らの唄が響かねぇじゃねぇか。なぁ?」
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