warashiの投稿作品一覧
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日本の夏に慣れるのは、暑さに慣れたエジプト人でさえも厳しいと言う。それは、日本の夏が湿気を多量に含むジメッとした暑さのためらしい。そんな厳しい環境の中、今日も元気に生活していることに、卓はえらいなと自分で自分を褒めてみる。
ただしそれは、冷房の効いた部屋の中でのことである。
(あんな暑さの中じゃ...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(2)
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藤林孝則34歳。最近8年間の片思いを遂に成就させた、新婚ほやほやの幸運男だ。幸せいっぱいの日々の中で、最近では更に妻の妊娠がわかり、正に幸せの真っ只中である。
仕事場でも開発チーフというポジションを先月拝命し、部下との仲も良好。開発中の試作品も順調に完成へと近づいている。ATDという大きな企業の...小説『ハツネミク』part.3双子は轟音と共に(1)
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「いやぁ、楽しかった!」
日が傾いてオレンジ色に染まった住宅路を、カイトとメイコは並んで歩いている。
「それにしても、まさかあのドッキリ作戦失敗するとは思わなかったなぁ」
「成功するって思ってたんだ、あれ」
カイトはまさかと思いながら苦笑する。そんなカイトに向けて、メイコは胸を張る。
「当たり前...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(7)
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どれくらい経ったのだろう。時計を見れば、既に30分以上ゲームを続けていた。今は卓がトイレに行くといって席を外しており、部屋にははちゅねとカイトだけが残っている。
結局、最後まで彼は自分がミクのマスターに選ばれたわけを聞かなかった。ただ忘れているだけなのか、意図して聞かなかったのか、それはわからな...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(6)
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カイトの言っている人形というものがボーカロイドであるとうっすら気づいた卓は、カイトの言葉に唖然とする。
「起動させた直後に、感情が成長を始める前にその子に対してひたすら殺すということだけを教え込む。他に何もないと、刷り込みをするんだ。感情の伴わない僕らは雛鳥も同じ。たったそれだけで、実際にこの話は...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(5)
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ミクたちが部屋に入ってからしばらくすると、俄かに華やかな笑い声と物音が居間にまで聞こえてきた。検査だけするにしては随分と賑やかなようだ。
元からあの二人はとても打ち解けていたように見えたから、もしかしたら二人で何か楽しげな話でもしているのかもしれない。
うら若い女性が仲良く語り合っている光景。...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(4)
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ミクが来てから、それまで空き部屋となっていた卓の隣の部屋は、ミクの部屋となっている。
装飾品の少ない簡素な8畳ほどの部屋。あるのはテーブルとベッド、それに小さな本棚だけだ。女の子らしい何かは一つもない。
普段は静かなその部屋で、今は珍しく小さな電子音とキーを押すタイピング音が響いていた。
着...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(3)
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体中から嫌な汗が出るのを感じながら、卓は急いで青年の下へ走りよる。こんな炎天下の中、熱射病か何かで倒れているのだとしたら命に関わる問題だ。
「ちょっ、大丈夫です・・・か?!」
駆け寄って青年のすぐ傍まで来た瞬間、首の後ろの辺りがチリチリと痛み、伝えてきた。
危険をだ。
卓はその本能にも似た直...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(2)
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夏だ。
ただひたすらに、その一言だけが脳裏をリフレインしている。
喚き散らすように鳴くセミの声をBGMに、雲ひとつない晴天晴れの正午。おそらくは日本でもっとも熱い時間帯である。せめて風さえ吹けば幾分熱さも柔らぐというのに、その気配は一向にない。
滴る汗を腕で拭って、卓は片手にビニール袋を持っ...小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(1)
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家に着くとミクは新ためて卓の家を見上げる。どこにでもある極々一般の一軒家。これからここが、自分の家になる。そのことが少しくすぐったかった。
「なにやってんだよ、早く上がりなって」
「はい、失礼しました」
先に玄関へと入った卓を追うように、ミクは小走り気味で玄関へと入り靴を脱ぎ始める。そして脱ぎ終...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(6)
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小脇に何かの紙袋を持った卓は、通りの人の流れから外れてミクの傍に寄る。
「一人で出てきたのか?よくここまで来れたな。てか、俺お金渡してたっけ」
驚きで目を丸くしていた卓はそう言いながらミクの手にしていたコップに視線を送る。
「いえ、これは先ほど他の方に頂いたもので」
「他の人って・・・まさか怪...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(5)
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席についてからも早かった。あっという間にアイスコーヒーとカフェオレを頼み、彼女は運ばれてきたアイスコーヒーを口に含む。お酒が入っていてよくカフェインを摂取する気になるなと感心してしまう。
そんなことを思いながら、自分に与えられたカフェオレをちびちびと含む。ほのかな苦味の中にミルクの芳醇な甘さが舌...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(4)
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ミクは卓の後を追うべく勢いよく外へ出た。走って行く最中、しかしその足がぴたりと止まる。
そして自分の痛烈なミスに気づく。
「・・・・・どこに行けばいいんでしょうか」
よく考えてみれば、自分が元はどこにいたのか知らない。そもそも卓がどこに向かったのかもいまいち見当がつかない。
何よりも一番問題...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(3)
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あけましておめでとうございます!
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メリークリスマス!
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ひとまず居間に置きっ放しのダンボールを片付けて、卓は何枚かの紙を持って居間のテーブルに突っ伏す。うぅ、という唸り声とともに顔が上がる。
「なんだよ、使用書とか保証書とかあると思ったらこれ伝票とかしか入ってないじゃないか。どうなってるんだよ」
なんとなくだが今後の方針とか具体的にやることとかはわか...小説『ハツネミク』part.1スタートライン(2)
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触って思った、人の頭ほどの何かとは本当に人の頭だった。
冷たいが人の肌と変わらない質感の頬を、ちょうど撫でる様な状態で思考が止まる。
綺麗だ。
飾り気も捻りもない、そんな言葉が脳裏を過ぎる。
柔らかい頬に触れながら、眠るようにして瞼を閉じているそれに卓は心を奪われた。
「…………ッは?!」...小説『ハツネミク』 part1.スタートライン(1)
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俺にとって、音楽とは聞くものであり、作るものではなかった。
音楽自体は好きだが、作曲なんてする才能は、微塵も持ち合わせていなかったし。
そもそも、自分で歌を作るなんて考えたこともなかった。
テレビやラジオ、ネットの海から流れる曲をただなんとなく聴き、時々気に入った曲があれば携帯やプレーヤーを...小説『ハツネミク』 序章
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マイ・サウンド
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秘密ですよ
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夜に輝く
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No install_ 私はただ待ち続ける
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0と1の世界から
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