「おやすみなさい」
 とんとん、と階段を上る。部屋に入ってまず駆け寄ったのは、二体の人形の前だった。青い髪の少女と少年の人形。見た目は16~17程度で、人間にしか見えないようなリアルさを持っていた。
 どっちにしようかしばらく迷って、少女の人形に手を伸ばす。背中にあるぜんまいを巻くと、少女の瞼がゆっくりと開いた。蒼水晶色の瞳が自分を目覚めさせた人物を捉え、唇が美しく弧を描く。
「おはようございます、マスター」
「おはよう」
 クスクスとマスターと呼ばれた子どもは笑う。寝具の方へ駆けていく子どもを追うように、少女の人形は座っていた椅子から立ち上がった。
「今日は何の話を聞かせてくれる?」
 毛布を被りながら子どもが言った。
「そうですね、遠い昔の女の子のお話にしましょう」
 優雅な仕草で寝具の横の椅子に座りながら、少女は言った。
「いつもの言葉で始まるんだよね?」
「覚えましたか?」
 目を輝かせる子どもの言葉に、ゆるく少女は首を傾げた。大きく頷く様を見て、ふわりと微笑む。
「ならいっしょに始めましょうか」
「わかった!」
 元気よく子どもは応える。ゆっくり頷き、少女は目を閉じた。少女の唇と少年の唇から、同じ言葉が紡がれる。

 昔々 或る所に…

或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』
原曲:青磁/即興電P様

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或る詩謡い人形の記録『雪菫の少女』序章

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投稿日:2009/03/04 15:30:25

文字数:562文字

カテゴリ:小説

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