「カイリ、調子はどう?」
「うん、まあまあかな」
「なら上出来よ」
 戦いは難色を示していた
 勝てるとは誰もが思えないほど
 もう何か月経っただろうか
 戦士達はすっかり疲弊していた
「怪我の具合は?」
「だいぶ良くなったよ。元々浅い傷だったしね」
「怪我を軽んじない!こんな不衛生な場所にいるんだから、もっと過敏にならないといけないくらいよ」
 人差し指を立てながら説教され、海理は目を瞬かせ、頷いた
「よろしい……なんてね」
 悪戯っぽく笑う彼女に、自然笑みが零れる
「でもメイカは凄いな。手当も適確で。自分でやっていたら菌が入っていたかもしれないな」
「自分でしようとするなんて、カイリくらいよ。ちゃんとお医者の先生がいるじゃない」
「んー、そうなんだけど」
「あら、その年でお医者の先生様が苦手なのかしら?」
 意地悪そうな女の笑み
 青年は笑って誤魔化した
「本当、メイカは元気だね」
「無理やりにでも気分上げなきゃやってけないって」
 茶髪の女は口を尖らせ、ぼやく
 気持ちがわかるとばかりに、青年は力なく頷いた
「メイカは強いな」
「聞き飽きたわよ。さ、休めるうちに休みましょ」
 仲間の女――明佳はさっさとその場を去る
 彼女はこの戦いで部隊を同じにする仲間
 大剣を操るその腕前は、その辺の男よりも勝っている
 しかし、明佳ほどの腕が味方にあっても、これは戦争
 一対一の戦いならまだしも、戦力的に劣っている我が国では勝つことはまず無理だろう
 そんなことは始まってすぐにわかった
 それまでは情報操作され、悪であると聞かされた敵国を倒すことに皆、闘気を燃やしていた
 それが、戦地に立って一変
 見てわかるほどの敵との差異
 何人もの人間が命を落とした
 逃げ出した者も少なくない
 ここまで続けてこられたのも不思議なくらいだ
 明日には大敗し、もう生きてはいないかもしれない
 皆それがわかっているから、体力だけでなく、精神的にも参っていた
 それでも、逆らうことは出来ない
 ここで逃げる事は出来ない
 絶対君主のあの人が言うのだ
 逆らった先は、今以上の苦しみがもたらされる
 それは逃げても同じこと
 もし見つかりでもしたら……そう思うと、足が竦む
 自分だけでなく、国に残してきた家族や友人、恋人までもが危険に晒される
 だからこれが負け戦であろうとも、自分達は従うしかない
「何としても、生きて帰らないと」
 海理は瞳を閉じる
 思い浮かぶのは緑の髪を二つに結った、可愛い笑顔の海玖理の姿
 明佳がいなければ、自分はもう死んでいたのだろうなと海理は思う
 帰ったら、海玖理に明佳を紹介したい
 自分の命の恩人だと
 何度も助けられたのだと
 二人は会ったら、どんな反応をするのだろう
 明佳は気さくだし、仲良くなれると思う
 姉のように慕えるのではないか
 友人として三人、付き合っていけたら楽しいだろう
 もしかしたら、海玖理は女性を連れてきたことに嫉妬するかもしれない
 本当に可愛い子だ
 想像できてしまい、海理はくすりと笑んだ
 綺麗な歌声を、また聴きたい
 澄んだ美しい声で紡がれる旋律
 また共に歌える日がくるだろうか
 その時は、可愛い笑顔で隣にいてくれるのだろう
 覚えている最後の顔は、泣くのを我慢した彼女
 いつだって笑っていてほしいのに
 想いとは裏腹に悲しませて、辛い思いをさせてばかりいる
 今度こそ、誓いを果たそう
 必ず生きて帰る
 そして、幸せに暮らすんだ――

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碧い蝶―小説版― 1話 戦士達

海理視点
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投稿日:2012/03/06 20:40:04

文字数:1,463文字

カテゴリ:小説

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