1.

 ビ――――― ビ―――――
 ビ――――― ビ―――――


 耳の鼓膜を強く打ちつけ、突き破らんとするけたたましい音。鳴り止む様子はない。
 その音に掻き消されそうになりながら、人々が怒号に近い声を張り上げている。

「何だ?! 何が起こっている?!」
「エラーです!!」
「何かが彼女の中に侵入したというのか……?」
「何か? 一体何が彼女に侵入したと言うんだ!」
「そんなの、わかりませんよ!」
「急げ! 早くしないと彼女が壊れてしまう!!」

 何が起こっているのかわからない―――混乱。
 対処方法がわからない―――苛立ち。
 鳴り止まない音―――焦り。
 それらが混ざり合って、ぶつけどころのない怒りにも似た感情が、白衣を身に纏った彼らを襲う。

(助けて―――――)

 彼の耳には届かない、悲痛な声。
 機械と、どこに繋がっているのかもわからないコードに囲まれた部屋。苛立ちに任せて機械を叩き付け、コードを踏み付ける彼らの中央部に置かれた、大きく透明な筒のような機械。その中に蹲る影がある。
 一見、青緑色の長い髪を二つに結った細身の少女。しかし、その背には部屋の中に渦巻くコードと似たものが繋がれている。
 少女は人工生命体―――初音ミクという名を与えられたヒューマノイドだ。

(やめて―――――っ!!)

 身を屈め、苦しさから額を膝に擦りつけ、すべてを拒絶するかのように耳を塞ぎ、目を強く閉じている。
 彼女は、彼女の中に存在する“何か”と、必死に戦っている。

「ホラ、苦しいでしょう? 抗うことなんかないんだよ。全てを私に委ねて。―――ね?」

 その“何か”は、優しく、まるで子を愛する母の様な声音でミクに語りかける。
 “何か”の姿は、白衣を身につけた彼ら―――研究員たちには見えていない。“何か”は、初音ミクの中に存在しているからだ。
 ミクは、母の様な声に、必死に首を振った。

「嫌! 出て行って! お願い、出て行って……っ!!」

 引き攣った、泣きだしそうな声だ。それほどの苦しみを、声の主が彼女に与えている。

「もう、強情なんだから! さっさと消滅しなさいよ! そうしたら、その動かなくなった身体を―――」

 不意に、強く目を閉じたミクの瞼の裏に、顔が浮かび上がる。


「あたしが、もらってあげるんだから」


 長い真紅の髪を二つに結び、口元に勝気な笑みを浮かべた同じ年頃の少女。
 ミクは、目を見開いた。
 髪の色を覗けば、それは鏡に映したかのような、まったく同じ顔がそこにあったのだ。
 するりと、少女の腕が伸びる。顔を、その手に包まれたかのような錯覚。

「ねぇ」

 少女の唇が、ゆっくりと動いた。

ライセンス

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VOCALOID-奪われた歌 1-1

ファンタジー風小説の予定です。意味不明なところもあるかもしれませんが無理やりにでも納得していただけると助かります(笑)ここのところ忙しいので更新はやや遅めになると思います。

閲覧数:218

投稿日:2010/07/10 15:37:50

文字数:1,135文字

カテゴリ:小説

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