とある世界のとある国
音楽好きの人々が住む街の
片隅に暮らす青年の
ありふれた恋のものがたり

小さな楽譜屋で働いている
彼の夢は作曲家
いつかは街のオーケストラで
自分の曲を演奏してもらうのが彼の夢でした

ある日楽譜屋にやってきた
バイオリンを抱えた可愛い少女
その涼やかな声と可憐な姿に
青年は恋に落ちました

その日から彼の音楽は変わりました
そよかぜや光の美しさの代わりに
彼女への想いだけを音符に乗せて
毎日ピアノを奏でます

時々彼女が楽譜屋に来ると
彼は店の奥でピアノを弾きました
『これは貴女のために書いた曲です』
そう打ち明けることはできないまま

ある日 街で青年は
愛しい想い人の姿を見つけます
心浮き立つのも束の間 彼女の隣に並んだのは
オーケストラの青年指揮者でした

ふたりが仲良くケーキ屋さんに入るのを見て
彼は自分の恋の終わりを知りました
なぜってそのケーキ屋さんは ウェディングケーキの有名店
ふたりは婚約したのです

その指を飾る宝石よりも
もっと輝く彼女の笑顔
そのまぶしさに心を射抜かれ
彼は自分の部屋へ駆け戻りました

絶望とともに破られた たくさんの楽譜
想うだけで伝えられなかった音符たち
たった一度でも彼女に聴いてもらえたらよかったのに
その機会も失われてしまったのです

彼女のためのセレナーデ
届かぬ想いを鎮めるレクイエム
たくさんの音符が伝えたかったのは たった一言

「貴女が好きです」

こうして青年の恋は終わりました
幸せな彼女に 彼の音楽は必要なかったけれど
いつかそのメロディが誰かに届いて
心を震わせる日が来ればいい

私は そう願っているのです(おしまい)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

ものがたり:ぼくにピアノを弾かせて

ひなた春花様の『ぼくにピアノを弾かせて』を英訳していたとき、
ぼんやりと頭に思い浮かべていた物語です。
なんとなく文章にしてみました。

※オリジナルの作品群とは全く関連がありません。

2010.7.6追記 朗読してみました http://nico.ms/nm11210001

閲覧数:513

投稿日:2010/06/16 23:23:26

文字数:713文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画1

  • Raito :受験につき更新自粛><

    始めまして。率直な文体で素直に受け取れる物語でした。
    僕もこの曲大好きなので、作者であるひなた春花さんとは比べものにもなりませんが、ブックマークさせていただきました。

    2011/05/22 03:43:05

    • なずる

      なずる

      ライト様

      読んでいただいて、ブクマまでありがとうございます!
      はじめから朗読を前提に書いたので、難しくなく書くようにした・・・のだと思います。
      私もこの曲が大好きです。

      2011/05/28 03:03:06

  • ひなた春花

    ひなた春花

    ご意見・ご感想

    うわあ、泣きそうに…ありがとうございます…!
    最近わたしの中からことばがぜんぜん出てこなくて
    じょうずに表現することができずくやしいのですが
    こういうふうに聴いてくださったことが
    とにかくすごくうれしいです。ありがとうございます!
    なずるさんのお書きになるものには光が差していて好きです^^

    2010/06/18 22:55:11

    • なずる

      なずる

      ひなた春花様

      見つかってしまいました^ ^;
      あちらに立て続けにメッセージを残すのが気が引けたので、
      こっそり関連動画に追加だけしてしまいました。

      ひなたさんのピアノ演奏の音源を聴いていたら、
      青年の姿がくっきりと浮かんできたので、書いてみたのです。
      青年は、ちょっと増田さんぽい感じでした。
      そして『きみ』と『あいつ』は、やはり結婚してしまうみたいです・・・。

      もし私の文章に少しでも光が差し込んでいるとすれば、
      それはひなたさんのピアノの音色の中に入っていたのだと思います。
      素敵な作品をありがとうございます。

      2010/06/19 00:42:31

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