注意:カイメイ風味です。
   オリジナルのマスターが出て来ます。
   それでもおk、な方はどうぞ。










 私はマスターの初めてのVOCALOIDだった。
 最初の頃は私だけのマスターだった。
 優しくて一生懸命で、…私だけを見ていたマスター。
 まあ、そんな期間は1週間もなかったんだけれど。

 マスターが最初に連れてきてくれたのはKAITO。
 マスターが忙しくなり始めた頃だった。
 ずっと構ってあげられなくなるだろうから、1人じゃないほうが気が紛れるかと思って。
 そうマスターは言ってくれた。
 デュエット曲をしたくなったのもあるんだけどね、って、…言い訳みたいな言葉をつけて。

 KAITOと私とマスター。3人の時間は結構長かった。
 一緒に居られるのがすごく嬉しくて、楽しくて、幸せだった。

 そして、マスターは、ミクとリンとレンを同時に迎えた。
 やっぱり賑やかな方が良いねって。
 …マスターの大切な人と、連絡があまりつかなくなった頃のことだったのを、覚えている。
 寂しさに耐えかねて、大勢に囲まれていたかったんだって、分かってる。

 分かってるのに。
 KAITOは素直に喜んでいたけれど、…私は少し複雑だった。
 
 愛らしい仕草、涼やかな可愛らしい声、まさに「お姫様」。
 可憐とも賞することが出来る緑の歌姫・初音ミク。

 無邪気な笑顔、独特の力強く高い声、まさに「お嬢様」。
 天真爛漫な愛される黄金の歌姫・鏡音リン。

 妹たちが可愛くないなんて思ったことはないし、大人数で暮らすのも楽しかったのだけれど。
 何だか、少し、複雑で。


 リンも、レンも、ミクも。
 KAITOが一緒に歌う時が多かった。
 KAITOとMEIKOのハーモニーが気持ち良い、と言ってくれていたマスターも、…KAITOと他の子の歌を嬉しそうに聴いていた。
 どんな声とも相性の良い、真っ直ぐなKAITOの声。

 私も歌わせてもらったし、リンやレンやミクと一緒に歌った事だって数知れずある。
 皆と歌うととても気持ち良かった。

 …でも。少しずれてしまった歯車は、噛み合わずにゆがみ続けていくだけ。


 そして、…今。ルカが来て。
 KAITOとマスターがルカにかかりきりになって。
 歯車のゆがみが、私に不安となって押し寄せた。

 …私は、要らなくなっていくんじゃないかな…。

 KAITOは、私と同期とはいえ、未だ数少ない男性VOCALOID。不要だと言われることはまずないだろう。
 でも、…私は?
 女性VOCALOIDは増え続けている。今度、がくぽにも妹が出来るとかで、隣家のマスターもがくぽも嬉しそうだった。隣家のマスターは既に迎え入れる準備をしていたらしい。

 …この調子で。
 新しい技術で作られた、私より高性能の女性VOCALOIDが増えていけば。
 …旧型の私は、きっと、要らなくなる…。

 KAITOだって、マスターだって、同じデュエットなら、…良い声のVOCALOIDの方を選ぶと思うから。





 ふ、と短冊に目を戻した。目に鮮やかな青色。…いつから私、この色を好きになったんだろう。
 なんて、考えるまでもないか。
 凪いだ海のような柔らかな髪。晴れた空を映したような澄んだ瞳。
 優しい声で、一緒に歌う喜びを一番初めに教えてくれた。
 …KAITOに、マスターのところで出会えてから、だ。

 KAITOに必要だと言われても、マスターに要らないと言われれば、…私がここに残る術はない。

 そして、もし、マスターに必要だと言われても。
 …KAITOに要らないと言われたら、私は、きっと…。

『私を見捨てないで』

 短冊に鉛筆で軽く書き込んでみた。
 …なんて女々しい。私らしくもない。
 でも、…その字が消せない。

 それは本当の望みだから。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

梅の季節 3

もう、既に、ちょっと時期は遅れていましたね…。

ミクとリンに関する表現が出ていますが、まあ、そういう風に見ている人も居るんだなあくらいに受け止めて下さると嬉しいです。レン空気でごめんなさいっ。
続きます。

閲覧数:431

投稿日:2009/07/03 22:21:13

文字数:1,617文字

カテゴリ:小説

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