「しーねーばーいーのに♪」
お兄ちゃんのどこかネジの抜けた歌声に、私達は顔を見合わせる。


2月。
お兄ちゃんが壊れる時期が来た。





<ごめんねブラザー!>






「一応聞くけど」
お姉ちゃんが深刻な顔で腕を組んだ。
「皆KAITOを祝う気持ちはあるのよね?」
「あるよ!」
「まあ」
「うん」
「あります」
私、リンちゃん、レンくん、ルカちゃんが一斉に答える。
もちろんだよね、だって大好きなお兄ちゃんの誕生日だもん!

って、あれ?

「リンさん、『まあ』って・・・」
ルカちゃんがかわりにつっこんでくれた。
うん、なんで曖昧形な返事なのかなぁ。
私達の視線を受けてリンちゃんはちょっと唇を尖らせる。
「だって気持ちだけじゃダメでしょ。行動が伴わなきゃ、カイ兄も祝われてると思えないだろうなあ、と思うと素直に『はい』って言えないよ」




うっ。




瞬間的に全員がフリーズしたのがわかった。
額に冷や汗が浮かぶ。


リンちゃん、世の中には本当のことでも言っちゃいけないことがあるんだよ・・・


じろり、とリンちゃんが一同をねめ付ける。

「レンもうんとかいってたけど、去年の誕生日にバナナの皮プレゼントされてカイ兄半泣きだったよ」
「え、あー、いやあれは」
「そうだったの?それただの嫌がらせじゃないの、レン」
「ルカちゃんのタコアイスは生臭さと甘みの絶妙すぎるコンビが大ダメージ与えてたし」
「いえ、あれは全然計画的とかではなくて」
「あれ、確か前日に試作品作って『最悪の味覚が完成しました!』って言ってたよね・・・?」
「ミク姉のあげた裸マフラー彫刻は余りにリアルすぎて何かの自信なくしてたし」
「だって嘘の造形じゃダメだと思って」
「リアルだったのがどこなのか考えると可哀相だな」
「めー姉の零したお酒と割れた瓶の片付け、全部カイ兄がやってたよ」
「あらやっぱり気が利くわね」
「め、MEIKOさん・・・」
「ちなみに私はおめでとうの一言すらあげてません!」
「駄目じゃねぇか!」
「(゜3゜)」
「そんな顔しても駄目」

うん。
確かにみんなに祝う気持ちはあるんだよ。
でも何故か行動に結び付かないというか、いや、なんで結び付かないかはわかってるんだけどどうしようもないというか。

「だってしょうがないじゃんっ」

ぐりぐり、とレンくんに頭をグーで押されたリンちゃんか主張する。


「しゅんとしたカイ兄、可愛いんだもん!」


―――ごもっとも。

その場に居た全員が(多分)反射的に頷く。同性のレンくんまでも頷くあたり、お兄ちゃんがいかに可愛いかがわかってしまうというものだ。
それはもちろん、カッコイイときもちょっと近寄りたくない時もある。でもそれら全部を覆い尽くしてなお、可愛い。
だからついいじめたくなっちゃうんです。右往左往するお兄ちゃんの可愛さは異常だし!解雇やスルーが殿堂に入るのも仕方ないよね。

問題は全員がそう思っちゃうことにある。


そのせいでお兄ちゃんは、誕生日をまともに祝われたことがほとんどない。


それって単なる嫌がらせだ?・・・うぅ、返す言葉もないです。
でもでもお兄ちゃんだってたまには喜ぶよ?みんなでお誕生日おめでとうって歌ったらすごく嬉しそうだったし。
その後ケーキに仕込んだ風船を爆発させてケーキまみれで落ち込んでたけど・・・あれ?

「よく考えなくても上げといて落とすのはがっかり度を上げるテクニックの一つよ」
「はっ!?お姉ちゃん何故私の心の声に気付いたの!?」
「目茶苦茶口に出してたわ」
「うぅ」

いたずらのひとつひとつは他愛ない。
でも相乗効果は計り知れないらしく、去年のバレンタインにお兄ちゃんを総無視したら「バレンタインデーしね」とかなり病んだ目で呟くようになってしまった。
あれはあれで新鮮でよかったかなぁ、じゃなくて!
とにかく、誕生日とバレンタインというお兄ちゃんにとって心の傷が増える2月にはお兄ちゃんの心は自衛をするようになってしまったらしい。だからすごくうざやかさが目につく。
これはどうしたものか、この時期は何を歌わせてもうざやかにしかならない。最悪バグになったって考えないといけないか、とマスターが呟いていたのをお姉ちゃんが聞いて私達を呼び集めたという次第なのです。

さすがにバグだと思われたら困るよ。
だから私達は今年こそちゃんと祝ってあげようと思って・・・冒頭に至る。

「つか歌う歌全てがうざやかになるって、カイ兄どんだけだよ(笑)」
「風雅さんに謝るべきかしらね(笑)」
ちょ、ちょっと!
「もう、レン君もお姉ちゃんも真剣に考えようよ!(笑)とか禁止ー!」
私は二人の間に割って入って腕を振り回した。訂正、ネギを振り回した。
二人とも世間では真面目な方だって定評があるVOCALOIDなのになんでうちのレン君とお姉ちゃんはこんなに悪ノリしちゃうの!
「でもミク姉。今計画立てたとこでどーせぶち壊しにしちゃう自信あんだけど」
「そんな自信持っちゃ駄目ぇ!」
至極冷静に返されると困る。
でもレン君、最後まで諦めちゃいけないんだよ!どうにかなるかもしれないんだから!

「まあ、でも、そう簡単に変われないですよね」
ぎゃあぎゃあ言葉を応酬するルカちゃんが溜息をつく。

「まるで小学生みたいですけど。いえ、素直じゃないわけじゃない分タチが悪いのかもしれませんが、やっぱり何かと構いたくなるんですよね」

うん。
本当はそこでお兄ちゃんの負担を軽減する方に持っていければいいんだけど、ついつい目先の幸せを追求してしまう私達。




これじゃあいつか、愛想を尽かされちゃうよね。





多分同じことを思って、お姉ちゃんとレン君も考え込むように俯く。




どうにか、しなきゃいけないのかな。やっぱり。




少し残念な気持ちで自分の結論を出そうとした、その時。
今まで黙っていたリンちゃんが物凄くいい笑顔で挙手をした。

「はいはーい!みんな、いい案があるよ!つまりさ、カイ兄が嫌だって思わなくなればいいんだよね!」

え。

「この間サイトで見たの!続けていればいつか痛みもカイカンに変わる日が」

ちょ、

「ぎゃ――――――――っ!!待て!おま、その情報どこで拾って来た!?」
「マスターがお気に入りにいれてた、えーと『女王様との禁断の」
「やめやめやっぱいい!言うな!」
「マスター!?あいつ何ブクマしてんのよ!」
「リンちゃん、最初の頃の常識的ツッコミ役放棄!?」
「腕が鳴ります」
「ルカちゃんおちついてぇぇ!」













結局、今年もお兄ちゃんはやっぱり不憫な誕生日を迎えた。
もう、みんなお兄ちゃんを好きすぎるんだよ。


まあ私も人のことは言えないけど。

ごめんねブラザー!大好きだよ!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

ごめんねブラザー!

まさかのオールどS・・・

あれおかしいな。カゲフミが楽しみだったから兄さんネタを投稿しようと思っただけなのに・・・

私の尊敬するギャグセンスはルカちゃんとたこルカでラジオをやっている某センタプロデューサーのものです。テンポよすぎる・・・!

閲覧数:793

投稿日:2009/11/05 16:48:09

文字数:2,828文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました