また朝が来てしまった・・・。
僕はまた学校へ行くことだろう。それが僕の仕事であり、使命でもあるからだ。
「行ってきます」
特に返事も帰ってこない。これが日常。
途中の自動販売機、その前で飲めもしないコーヒーを飲み干す。
「今日も曇り空だ・・・」
空を見上げた。今日も一人。友達なんていない。
そう、あの日から・・・。
一年前。
僕はルールなんか嫌でこの学校というシステムに縛られたくなくて、とにかく逃げ出したくてしまいたいと思っているクズ学生だった。
「転校生を紹介する・・・加賀峰くんだ。みんな仲良くするように」
あいつが転校してきて、僕の隣の席になった。あいつは友達がいない僕にちょくちょく話しかけてきた。
「な、な、この曲良くね」
「別に」
「俺、こんな曲作って動画サイトでバンバン褒められるの夢なんだ~」
「あっそ」
そっけなく話をそらしているのにまだ話しかけてくる。まぁ、悪い気はしなかったさ。実際音楽作りには少し興味あったし。
あいつは毎日毎日しつこいぐらいに話しかけてきた。そして少しずつ仲良くなった・・・というより折れたという方が正しいかな。
「な、帰りゲーセンよって音ゲーしね?」
「ああ、いいぜ。本当、加賀峰音楽好きだな」
「あれってさ~、すべての曲を素人が作ってるんだぜ、なんかロマン感じね~か?」
「はいはい、わかったわかった」
毎日こんな感じでゲーセンで音ゲーした。なんか毎日が楽しかった。こんなに楽しいのは人生で初めてだった。
あいつのおかげで、僕は少し変わった。
僕たちは、動画サイトに投稿するために曲を作ることになった。
「まず、曲のタイトル何にする?加賀峰」
「俺、決めてるタイトルがあるんだ~初めての曲はこれってやつな」
「言ってみ」
「パラジクロロベンゼン」
「は?」
「化学式C6H4CI2、分子量147でベンゼンの二塩化物」
「なんでそんなん詳しいんだよ、第一、高校の単元だろうよそれ」
「それを初投稿の曲のタイトルにする」
「ばっかじゃねーの?」
こんな感じのやりとりが続いたが結局曲名は「パラジクロロベンゼン」に決まった。
「喚きましょう 叫びましょう パラジクロロベンゼンってフレーズどうよ」
「いいんじゃね、鬱曲って感じで」
「この歌に意味はあるの?ってフレーズもいいな」
「お、いいな」
あっさりと僕たちの「パラジクロロベンゼン」は完成した。
初投稿日。再生数40。コメント4。
投稿翌日。再生数160。コメント10。
「いい調子じゃねこれ」
「下手すりゃ殿堂入りするぞ、やったな加賀峰」
ここまでは良かった。しかし投稿3日目、コメントに異状が起こる。
<ツマンネ>
<微妙ってか下手だな、曲づくりが>
<自分のほうが曲づくり上手いね>
<下手=下手>
<○○Pの曲のほうがいいから>
荒らしコメで動画が荒れ始めた。
これだけにとどまらない、あるサイトのVIP版にも荒らしスレが立ち始める。
「くそぉぉぉぉ、なぜだ」
「結局自己満足の世界だぜ、気にするな」
あいつをどんなに励ましてもあいつの怒りは収まらなかった。
そしてある日からあいつは自分の部屋にこもり始めるようになる。学校にも来なくなった。
あいつはVIP版で自分を守るためにネット上で戦い始めたんだ。
そして行方不明になった。最後の置き手紙には「パラジクロロベンゼン」の歌詞が乱暴な文字で書きなぐってあったという。
”ルールが僕は嫌で ただ縛られたくなくて だから僕は逃げ出して・・・”
「あいつ、ルールなんかどうでもよくて縛られたくない僕を変えてくれたじゃないか!お前が逃げ出してどーすんだ。確かにあの曲は正義じゃないぜ、でもストレス解消のために叩かれるものじゃない!」
喚き叫び街中を探した。途中で野良猫を見たのでもしかしたらと思って話しかけた。野良猫は何も答えずにただ見下した目で僕を見た。
歌詞通りじゃんか、あいつは助かる。助かるんだ。と、心に言い聞かせた。
しかし時すでに遅し、もうあいつは川に入って死んでたさ。
あれから僕は曲作りをしてない。友達も作ってない。
でも僕は朽ち果てるまでこの歌を歌い続けるだろう。あいつのために。
パラジクロロベンゼン
初投稿作品です!!
パラジクロロベンゼンを小説化しました。
パラジクロロベンゼンの小説化は先人がいたんで、ちょっと視点を変えたものにしたら変な感じになってしまいました。
かなりのgdgd文ですが楽しんでいただければ幸いです。
この作品へのご意見、ご感想喜んでお待ちしております!!
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