「マスター、そんなことしてると、…見えますよ?」
溜め息をつき、青い青年は言った。

「KAITO。今何か言った?」
KAITOに振り返り、マスターと呼ばれた女性は呟く。

「ま、マスターは今日も美しいと言ったんですヨ!」
肩を思いきりびくつかせ、青年こと、KAITOは答える。

「そう。ならいいけど。」



「はぁ、どうしてこうなったんだろ…。」
KAITOは溜め息を一つつく。

何故彼らはここに居るのか。それは、数時間前に遡る。




「あー、終わった!レン、お疲れさん。」
1ヶ月近く掛かった仕事も一段落し、マスターは今回ボーカルを担当した鏡音レンを労った。

「お疲れ様です、マスター。」
微かに汗を滲ませ、レンはマスターに声を掛ける。

「レン、終わった?」
部屋から出ると、レンはよく顔の似た少女に迎えられた。彼女の名前は鏡音リン。レンの双子の姉だ。

「マスター、お疲れ様です。」
湯気の立つ鍋を両手に、ツインテールの緑の少女が声を掛けた。

「ありがとう、ミク。
…あ、お粥?ホント、いつもありがとね。KAITOとMEIKOは?」
緑の少女、初音ミクに返事をすると、マスターは残り二人のボーカロイドの所在を訊ねる。

「お姉ちゃんは、まだ部屋から出て来ません。」

「KAITO兄もまだ見てないよー?」
すると、ミクとリンが答えてくれた。

「悪いけど、呼んできてくれる?
次の曲の打ち合わせしたいから。」
そう言付けると、マスターはミクのお粥をテーブルに置いてもらい、携帯の画面を覗き込みながら食事を開始した。



「マスター、呼んだぁー?」
少し気だるげな声が、食事を開始したマスターに降ってきた。この声は赤いボーカロイド、MEIKOの声だ。

「呼んだ。次はKAITOとデュエットで頼みたいんだけど、いい?」
なにやらメールを必死に打ちながら、マスターはMEIKOに言う。

「了解ッス!」
腕を上げ、警官の敬礼の様に調子よく答える。

「マスター、KAITO兄部屋から出て来ないよー?」
口を尖らせ、KAITOを呼びに行ったらしいリンが言う。

「ありがとう、MEIKO。
うーん、これ食べたら私が呼びに行く。」
お粥が美味しいのか、携帯のメールが気になるのか、リンに視線は向けずに答える。




「ミク姉、次は私達かな?」

「歌?」

「うん。」

「でも、前はリンだったじゃない。私も歌いたい。」

「あー、そうだよね。」

「そうだよ。」
携帯の画面を必死に眺めるマスターを後目に、リンとミクは内緒話を始める。

「ふぁ…。眠い。」
そんな二人に気付かない様子で、レンは欠伸をする。

「KAITO何してるのかしら?」
各々好きな事をしている中、MEIKOはKAITOの寝ている部屋を見ていた。





コンコン。

「KAITO、話があるの。打ち合わせなんだけど。出てきてくれない?」
部屋の前に行き、マスターは扉をノックする。



……………。



「KAITO、寝てるの?
開けるよ?」
いつまで経っても中から返事がないので、マスターは扉を開ける。

「スー…。」
前日はいつ寝たのだろうか、KAITOはまだ幸せそうに夢の中にいた。

「まぁ、コーラスに参加してもらったしね。
深夜に起こしたの良くなかった?まぁいいや。」
KAITO、起きなさい。朝だよ。とKAITOの肩を揺する。

すると、まるで図ったかのようにポケットに入っていた携帯のバイブレーションが鳴った。

「は、はいっ!もしもし!」
急に直立不動になるマスター。近くで大声を出されたからだろうか、KAITOは軽く身じろぎをすると、うっすら目を開ける。

「マスター…?」
目の前で直立不動しているマスターを不思議そうな目で見ながら、KAITOは暫しぼーっとしていた。

「え…、あ、はい。
い、いえっ、大丈夫です!それじゃあ、失礼、します。」
耳から携帯を離し、マスターは肩を大きく落とす。

「おはようございます、マスター。
あの…、どうかしたんですか?」
急にしょんぼりしだしたマスターを心配した様子でKAITOはマスターの顔を覗き込む。


「…今日の約束、振られた。
…先輩、彼女とデートなんだって。何だよ。期待してたのに。
もうやだ。暫く歌無しね。アイスもなし。
はぁ、死にたい。」
深く溜め息を着くと、マスターはKAITOにありのままの事実を話す。

マスターは大学生。学生の傍ら、アルバイトに作曲と、多忙な日々を送っている。

そんなマスターは、恋多き多感な年頃だった。今回も、気になる先輩との約束を必死になって取り付けたのに、それが当日になってドタキャンされたのだった。


「ま、マスター、死ぬなんて言わないで下さいよぉ。あと、アイスなかったら俺はどうやって生きて行ったら…。」

「知るか。今は私の傷心を癒すのが先でしょバカイトが。」
マスターである自分よりも、KAITOの好物に負けた事に苛立ちを隠せない様にマスターは呟いた。

「あー、えっと…、なら、気分転換に出掛けませんか?きっと、気分変わりますって。
俺も、マスターの哀しむ顔見たくないですし。」

「ホントだな…?KAITO、男に二言はないな?よし、今日はKAITOとデートしてあげる!感謝しなさい!」
KAITOの言葉に目を光らせると、マスターは急に元気になり、背筋を良くする。


「なんか俺、失敗したかな…?」
いまいち不安を隠せない様子でKAITOは一人、呟いた。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります

デート 続き。1

長ったらしくなったので、分けてみました。

続きをうpするのいつになるのかなー…。

更新しました。

閲覧数:449

投稿日:2009/04/07 21:45:28

文字数:2,293文字

カテゴリ:小説

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  • 氷雨=*Fortuna†

    氷雨=*Fortuna†

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    はじめまして、冬馬さん!フォルトゥーナといいます。
    作品、見させてもらったんですが……
    私が書いてる小説にテンションがちょっと似てて
    親しみを感じちゃいました。
    文章の内容と書き方がすごく好みです!

    2009/04/07 23:00:15

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