-闇と光-
緑のショートへアーと黄色い服装から想像されるものは唯一つ。
「…パイン?」
「初対面でそれ、よく言えるね」
「いや、ごめんなさい。ただもう…そうとしか見えなくなってしまって…」
「ちょっとそこに目ぇ瞑って立っていてください。首をスパッとやっちゃいますから」
そういうと、ソニカはシルバーに光るジャックナイフをトランプのようにもって見せ、にっこりと微笑んだ。
その瞬間、狭い地下室に重苦しい雰囲気が流れ始めた。
理性を全てシャットダウンし、振り向いた姿はいつものレンとなんら変わりは無い。けれど、リンにはその違いがはっきりとわかった。目が、鋭い眼光が風までをも射抜くような強い眼光が、リンを睨みつけていたのである。
「――ッ!!」
「逃げろ!!早く!今のレンには、敵も味方もわからない!!判別能力なんか、無いんだ!!」
「リン様!」
「いやッ!私、レンから逃げるなんてしたくない!」
そう言い合っているうちに、レンは動き出す。
いつもよりも素早く、いつもよりも力強く。
そうして、自分に襲い掛かってくるレンを、リンはしっかりと受け止めた。
「――!?」
「レン、ごめんね、もっと早く来なきゃいけなかったね。でも、もう大丈夫だから…私が、守るから。怯えなくていい。貴方がどんな傷を持っていても、どんな過去を背負っていても、私はそれを受け入れる。だから…ウチへ、帰ろう?」
前が、光が、見えない――。
一面の闇、自分が立っているのか、座っているのか。どちらが上なのか下なのか、左右前後の方向感覚が狂ってしまって、どっちに向かえば良いのかまったく見当もつかなくなってしまった。
まあ、立っているのか座っているのかは体に触れるものの感覚でわかるとして、今、レンは地にぺたんと座り込んだ状態になっているようだった。
上下前後左右、どこを見ても闇だけの漆黒の世界でレンはただ一人、ぽつんと存在しているだけ。誰もいない世界、自分が何故こんな場所にいるのか、何故一人なのか――。まるで、その世界は、心の中にぽっかりとあいた大きな穴のようで。
小さなときに受けた虐待の傷跡を隠して、そして深く自分の記憶の中へと葬り去って、そして忘れたフリをしていた。何一つ忘れることもできない、臆病で、忘れてしまえばもう誰からも気づいてもらえなくなるようで、忘れることなんてできなかった。それを―――。
声…?
誰かが何かを囁きかけているのが、聞こえた。そっと耳を立てて声を聞いていた。
『…だから…ウチへ、帰ろう?』
瞬間、光が見えた。
その声は、レンの闇を払いさったのだ。
(光―――)
すっとリンの体にかかっていた力が抜け、代わりにレンの体重がリンの腕にずっしりとかかってきた。
「レン…?」
「…スゥ…」
「ね…寝てる…?」
そう、レンは暴走が収まった途端に、リンの腕の中で幸せそうに眠り始めていたのだ。
呆れたリンは取り合えずルカとカイトに安全を確認させ、レンをカイトに任せてレオンのほうへ向き直った。
そうして、ルカのほうに目をやらないまま指示を出した。
「ルカ、来る前に母さんからインカムを渡されたでしょ。あれで母さんに報告して。カイトはランに報告して、できるだけ早くここを出られるようにして」
「は、はい。わかりました、リン様」
「え…あ、うん」
その言葉の凄みに驚く二人もためらいながら頷き、指示されたとおりに連絡を取る。
インカムを手馴れた手つきで操作し、メイコのもとへとつながるようにしてから、ルカはインカムを耳へとセットした。
「…主、主?聞こえますか」
耳につけた小さなインカムからテレビの砂嵐のような、ザァァァァという音が鳴ってきて、誰かが通信を試みていることがわかった。誰からであっても、今、それに応じることはできない。今、気を抜いたら銀のナイフの肥やしになってしまう。
けれど、何か――リンのみに何かがあったという報告だったら?そう思うと、これに応じないわけには行かない。
「――どうしたの?落ち着かないね」
「仲間からインカムに通信が来たの。少し、話をさせてくれない?」
「…それがあると、アタシとの戦いに集中できないっての?」
「ええ。気になるわ」
「ふぅん…」
ソニカはとりあえず、
「いいよ、早くしてね」
そういうと、ナイフを隠して無防備な状態になった。
ほっとしてメイコはソニカに礼を言うと、インカムの通信に答え、通信をしてきた相手に問いかけた。
「どうしたの?」
『主、反応が遅いようでしたが、どうかなさったのですか?』
「いいえ。そちらの用件は?できるだけ早く済ませて」
『レンが、見つかりましたわ。無事に保護いたしました。ですから、出口付近に集合しましょう。私たちもそちらへ向かいます。主も、いらっしゃってください』
「わかったわ。…できるだけ、早く行くようにする。それじゃ」
そういって通信をきると、メイコはもう一度剣をふり、ソニカへとその切っ先を向けてみせた。
眠るレンを担いで三階へと上がったカイトの目に、ランの姿は映らなかった。
いくつかの扉が開け放されたままだ。
それを手前から順に、一つ二つ三つ…と数えながら覗き込んで軽く中を見回してみて、ランを探していった。そうして、六つ目の扉の向こうで、ランは横たわっていた。
近づいてみて、少しうめき声を上げてカイトに話しかけてきたところをみると、意識はしっかりしているらしいが、どうもおかしい。というのも、頭を押さえて苦しんでいるのだ。
「うぅ…。…大丈夫、少し頭が痛いだけだから。カイト兄、心配しないで」
「だけど…。大丈夫そうには見えないな。ほら、肩を貸すよ」
「ありがとう」
そういってランに肩を貸したカイトは、レンを落としそうになってあわててレンを担ぎなおした。
鏡の悪魔Ⅲ 14
こんばんは!!
早速ですが、今日の要約!
『ソニカはつまり、パインだった』
だってあの二色は意図的にそうしたんだと思うんです。いろんなイラストを見てみたんですが、その二色のが多かったので。
そういえば!
UTAUにいろいろな声を取り込んでみて、テンションが上がってきています。テトでしょ、ルコでしょ、リアでしょ、レンジでしょ。
テンション上がって上がって上がって…。こわれそう(汗)
それじゃあ、また明日!
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-DOOR-
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