がくぽは小さな温室の中にいた。
白い鳥籠のような形のその中ではたくさんの花々が咲き乱れており中は咲きつくしたらしいどこか甘ったるい香りが立ち込めている。
片隅にただ一つだけ置かれた白いベンチに腰掛けて周りを眺めていると近くの花に爪先が触れた。柔らかな花びらは爪だけで触れていても破れてしまいそうだ。
「‥‥‥‥‥」
すると一羽の蝶ががくぽの指先に止まった。温室の中にはたくさんの花の他に無数の蝶が放し飼いにされているが
止まった蝶は明らかに種類が違う。
おそらく何処からか入り込んだのだろう
がくぽは温室の真上に一つだけある小さな窓を見た。
先ほどまでうっすらとだが光が差し込んでいたはずだが、
今は薄く曇っている。
「――あそこから一人で入ってきたのか?
出るのは大変だぞ?」
がくぽは笑いながら蝶に話し掛けた。指に止まったままの蝶は聴き入るように静かに羽を動かしている。
「―――――がっくん」
やがて聞こえた扉が閉まる音と声に驚いたのか蝶はスッと飛び上がった。がくぽが声の方向を見るとそこには見慣れた人物がいた。
「‥‥‥カイトか」
「がっくんが行きそうな所なら大体知ってるからね。
……でもこんな所があるなんて気づかなかったな…」
周りを見回しながらカイトはがくぽの隣に座った。
傍らには濡れた傘があった。
「‥‥雨が降っているのか?」
「あれ?天気予報見なかった?今日はお昼から雨だって」
「朝方からここにいたからな。お陰で出られなくなった」
「ははは…」
二人は並んで花々の周りを飛ぶ蝶を眺めている。
やがて先ほどの蝶が再び現れ今度はカイトの手に止まった
「綺麗な蝶だね……」
「ああ…どうやら窓から紛れ込んだらしい」
するとがくぽはおもむろに立ち上がるとカイトの目の前――温室の中央に立った。
「……がっくん?」
カイトが首を傾げているとがくぽは見ていろ、と言わんばかりに笑い、懐からあのいつもの扇を取り出して
まるで風の様にフワリと優雅に翳した。するとあちこちに散り散りになっていた筈の蝶達が一斉に集まりがくぽの扇に合わせて舞い上がった。
「すごい…すごく綺麗だよ…まるで花びらみたいだ…」
「そうだろう?ここに来ている内に
懐いてしまったみたいでな」
散らばっていた蝶達は今やがくぽの周りを取り囲む様に
飛んでいる。先ほどからカイトの手に止まったままの蝶もいつの間にかがくぽの手にいた。
他の蝶とは違う紫色の羽は
風になびく花びらの様にただ静かに揺れていた…
「‥‥行こうか」
「あぁ……」
二人は並んで歩きだした。二人が箱庭から出た途端、
蝶は薄暗い空の僅かな切れ間から差し込んでいた光の中へ消えた。
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