「騒ぎ…たてる…言葉を……」
或る世界、或る街、或る場所。
両耳に付けているイヤホンが伸びる音楽プレーヤーから音楽が流れ出し、青年・レンはその音を辿り歌詞を口ずさむ。
人々の往来が無く、そこだけまるで日常とかけ離れた場所。春から夏に移り変わり、風も少しずつ熱気を帯び始めていた。
彼は木製のベンチに腰掛け、ただ空を見つめる。何かに似ている雲を捜す訳でもなく、今の天気を知る訳でもなく。
彼が何をしたいのか、そんな事誰も知る訳がない。青年自信ですら良く分かって居ないのだから。
ただ人気を避け、人目を避け、空気の流れに乗り、辿り着いたのだけなのだから。
「切り…刻まれ…愛を……」
背後に人気。だが振り向く努力を避け、ただ雲を見つめ続ける。
「………」
更に近くなる。だが、無視。
「……」
背中に違和感。だが、無視。
「…」
スパーン!と景気良く頭頂を叩かれる。だが、無視……出来るわけがない。
「いて……ッ」
イヤホンを耳から外し、面倒臭そうに振り向く。するとそこには黄髪の少女・ネルが居た。自分と同じ、蛍光色の黄色の髪。
手にはハンドバックを持っている…どうやら、それで叩かれたようだ。
彼女は相当ご立腹らしく、腕を胸の前で組み般若の形相と後ろに夜叉…後者二つは多分。
「…ん、何だし」
「何だし、じゃないよっ!人が呼んでるのに一切聞く耳持たずとは良い度胸だよなっ!!」
「ちょっと待てよ……俺両耳にイヤホンしてたんだぞ?聞こえるわけねーだろ」
「うるさいなぁっ!気合いでなんとかしろよ気合いで」
偉い人は無理難題を仰る…と心の中で思うレン、そしてスパーンとまた頭頂を叩かれる。
二度も同じ場所を…。
「いってぇ……何するんだよ」
「無理言うなよって顔してたからな、叩いた」
彼女はエスパーだったようだ、それなら仕方無いと青年は諦める。
「で……何用だよ?」
「ああ、そうそう…ちょっと面白い店を見つけてさ、ちょっと一人じゃ入り辛いから一緒に来て欲しいなって」
頭を二度も叩かれた割にはどうでも良い事だな…と思うレン。そしてまたもや叩かれる、同じ場所を、力一杯。
「俺よか他のヤツに頼めよ…」
「他のヤツ用事があるらしいんだ、だからこうしてわざわざ捜してお前に頼んでる訳」
「はぁ……仕方ねーな」
ネルが腕を組み、踏ん反り返る。きっと言葉で表すなら「選んでもらって光栄に思いなさい」だろう。
特にする事も無いが、わざわざ付き合いたくも無いと思ったけど…まあ仕方無いかな、と思うレン。相手が彼女なら、尚更。
要はボーッとしていたかったが、結局彼女に付き合う事になった。
「なぁ…どんな店なんだよ?」
先ほどレンが居た場所から少し街に降りた所。人通りは少なくただ目の前に長い道が伸び、その左右に店が連なる。商店街と言った方が正しいのかも知れない。
コンパクトなショルダーバックを肩から袈裟掛けするレン、そしてその1,2歩手前を歩くネル。
青年は飽き飽きしながら訊く、出来れば直ぐに終わって欲しいと願う。
「良いから良いからっ」
ネルが振り返り、ニカッっと笑う。無邪気に、無垢に。
声が弾んでいるのが良く分かる、だからなのかも知れない。彼が逆らえない理由(わけ)。
「さっきからそれだけじゃねーか…教えろよ」
「行ってからのお楽しみだっ」
「どんなんだよ…スゲー気になるじゃねーか」
「着いた着いた、ここだよ」
「……は?」
レンの声は非常に軽かった。風船より軽く、足音だけでも無かった事になりそうなくらいに軽い。
そして右足をネルのブーツで踏まれることになったとさ。
「バカ……ヤロウ…ッ」
「ふんっ」
潰されかねない程強く踏まれた足を抑えて痛がるレンと、そっぽを向くネル。
不条理と言えば不条理…
「オイ、何か言ったか…?」
……すみませんでした。
「つか………ゲーセンかよ」
「ああっ、一人じゃ入り辛いだろ?」
「まあ………確かにな」
二人の目の前には大きなゲームセンターが構えていた。
最近出来たらしい大型のゲームセンター、かなりの種類の娯楽施設が揃っていて、何より宿泊施設まであるという。
だというのに、この街には取り分け人気の観光地も無い……何故かは誰も分からないようだ。
だが、一人では確実に入り難いのは確かだ。
「ほら、行くぞっ」
「ちょ…待てって」
レンの手を取り早足で歩くネルと、また痛む足をひょこひょこ動かしながら付いていくレンであった。
「あーっ、楽しかったっ」
「はぁ……疲れた」
二人が出てきたのは夕日が沈みかける頃だった。
元気に伸びをするネルとは反対に、軽く猫背になるレン。ほとんど奢らされた挙句自分がやりたかったモノが出来なかったのだから無理は無い。
「それじゃ、付き合ってくれてありがとなっ」
背中をペシンと叩いて、スキップ混じりに帰っていくネル。それを呆然と見送るレン。
彼も思い切り伸びをする、背中に溜まった全てを落とすように。
「さーて…」
レンは何かを含むように微笑み、帰路についた。
お了
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