混乱が混乱を呼んでいる中、初音ミクがステージに上がり、ぺこりとお辞儀をしました。
「えぇっと、こんにちは? なんか、リモートライブ?をするみたいなので、(……あっ。此処は読まないの?)よろしくお願いします!」
本人も何故か困惑している中、ライブが始まります。
(この曲、知ってる)
イントロを聞きながらミクさんは思い、そのまま歌い出しました。
自分の声に合わせたトーンと、馴染のあるリズムが、自然と自分の内側から歌を広げていきます。
始まるまではずっと大丈夫かなと心配していたのにあっという間に一曲が終わりました。
その後も、ライブは滞りなく進行していきます。
途中、何処かで問題が起きて止まったりするのかなとミクさんは思っていましたが、誰も止めないのでそのまま歌います。
(……もしかして、みんな気付いてないのかな。私がいつものミクさんじゃないって)
そうかもしれない。
(まぁ、何かあったらキリンさんがどうにかしてくれるよね?)
だって私を連れて来て、ミクさんだって言ったわけだし……
と、ミクさんは前向きに考える事にします。
――――途中。
休憩だと言ってカメラが止まります。
「はい、はい、はい、お疲れ様です」
奥のドアが開いて、見知らぬスーツの女性が現れました。
「ミク、貴方、変わったね」
颯爽と現れる姿はいかにも大人の女性という感じですが、頭上にサングラス――ではなく少女漫画のような円らな瞳の描かれたアイマスクを付けています。
あわわわ、と動揺しているミクさんに彼女は名刺を見せます。
「私は、ミクのプロデュースをしている石塚甘子です」
(えーと、えーと、マネージャー、ディレクター、プロデューサー、えーと、何をする人だっけ)
横文字と専門用語があちこちで並べられていてミクさんは内心混乱しそうになりますが、表向き、ひとまず笑顔を浮かべておく事にしました。
「いしづかあまこ、さん、ですね。初めまして」
(『普段此処に居る初音ミク』のプロデューサーさん……)
石塚Pは女優さながらの笑みを浮かべて、けれど気もそぞろな様子で周囲を見渡して居ます。
「なかなかいい代役だったわ。でもミクったらどうしたんだろ? 本番に現れないなんて」
(やっぱり、私は――ミクとして認識されてないんだ)
怒られなかったとはいえ、ミクさんはなんだか悲しくなりました。
なんだかやけにはっきりと似ているという人と、なんだかやけに強い意思を持って言わない人。
その両極端の間で揺れているからかもしれません。
「ま、いいや。はい、お近づきのしるしにアイマスク。皆に配ってるから」
「な、なぜアイマスクを……」
石塚Pが突如アイマスクを押し付けてきます。
どうやらあちこちでアイマスクを買い込んでは配っているらしく、他のスタッフさんも持っているようです。
カメラマンさんがアイマスクを遠くから振っているのが見えて苦笑いします。
「アイドルでも誰でも、身体が資本だからね」
誇らしげな石塚P。
その手には大量のアイマスク、そして健康食品のちょっといい栄養ドリンクやお茶もありました。
(すごい。並々ならぬアイマスクへの拘り。そして健康への拘り――――)
……ていうか、あんなに健康食品とアイマスクを買い込んでるって事は、スタッフ全員に配るんだろうなぁ。
「いやー、凄い、大盛況だね」
考えて居ると再びドアが開いて、今度はキリンさんが入ってきました。
「お客さんの評判も良かったよ」
ほら、とスマートフォンの画面を見せてきます。
そこにはライブの感想が連なっているコメント欄がありました。
「おいっ、どういう事だ!」
続いて、ミクさん?が入ってきました。
「僕よりも高い声で歌うんじゃない!」
キリンさんに取り押さえられていたようで、ポカポカとキリンさんを叩いています。
しかし、ミクさんがぼんやりと見ていると、はっ!と気付いたようになり、ミクさん?は咳ばらいをしました。
「君、歳は?」
そして、ぐいっとミクさんに顔を近づけます。
「え?」
「ぼ……私より若い?」
何故でしょう、なんだかミクさんは睨まれているように感じます。
やっぱり歌いたかったのかもしれないな、とミクさんは少し申し訳なくなりました。
沈黙。
「次はぼ、私が歌う!」
ぼーっとしていると、いつのまにかミクさん?がマイクを奪い取ります。
そして舞台に向かって行きました。
「あっ。こうしている場合じゃない」
ミクさんもそれを見て我に返ります。
そういえば、仕事を抜け出して来てたんだった。
戻らなきゃ!
自分の端末を何気なく見ると、着信が残って居ました。
『大丈夫?』
リンちゃんからです。
ミクさんはこっそりと返信を打ちます。
『大丈夫だよー。今、ライブしてる』
『なんで!?』
リンちゃんはびっくりしていました。そりゃそうだと思います。
ミクさんは心配をかけて申し訳ないという旨と、今居る場所の情報を送りました。
そうしていると、初音ミク?のライブが終了します。
ミクさんはこっそりその場を抜けて、楽屋に戻ります。
「さっきはいろいろあったけど、楽しかったな」
とりあえず髪型などの身だしなみを整えて……いると、今度は電話が鳴りました。
「うわわわわ!」
驚きながら、応答すると、今度はレン君です。
『今、テレビ、観れますか? ○○っていうニュース番組を見て欲しくて』
「レン君、えっと、サボってたわけじゃなくてね、あの」
『いいライブでした』
「…………ありがとう。って、えぇ!?」
『配信、見ていました』
レン君の率直な感想に、ミクさんはなんだか気恥ずかしくなります。
同時に、疑問が湧きます。
(何処に居る?というお叱りじゃないならなんで電話かけて来たんだろう?)
ミクさんはさっそくテレビをつけてみました。
ちょうど、ミクさんの勤めているA社が家宅捜索を受けている、という報道が映っています。
「写真、声データなどの個人情報の濫用……? 資金提供?」
『うちの会社が、保管しているデータのうち、いくつかがブローカーに渡って居ました』
レン君の冷静な声。ミクさんはドキドキしながら聞き返します。
「それって、やっぱり、あのとき増やしてた仕事……隠蔽目的だったの?」
『えぇ。それだけじゃありません』
レン君が何か言いかけたときでした。
勢いよくドアが打ち付けられ、ミクさん?が乱入してきました。
涙目で、イライラしています。
「――――っ!!!」
「どうしたんですか?」
ミクさんは思わず椅子から立ち上がり、駆け寄ります。
すると彼女は「あんたのせいで……!」と言いました。
「え?」
「さっきと違ーう! あれ?変わった? って言われた!」
ミクさんはポスターにあるプロフィールを思い出します。
「『苦手な事、歌』ってあったのに?」
「そうだよっ!」
勢いよく肩を掴まれ、引き倒そうとされますが、その勢いで彼女の頭のツインテールがふわりと舞いました。
パサ……軽い音がして、青緑色のツインテールが地面に落ち、その下から真っ赤なドリルが現れます。
「おのれ、初音ミクめ!」
「えええええええええええーーーーーー!?」
31歳、ツインドリル、性別キメラ、歌が苦手……
「地毛じゃないの!?」
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壊れた世界。8
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