俺はそうして街に繰り出すと、ネットで調べた有名な料理屋とか、
遊園地だとか、とりあえずミクが喜びそうな所を散々渡り歩いた。
ケーキ屋なんかは男一人で近寄るのも恥ずかしかったのだが、
ミクの為だと思って俺は何軒も見て回った。
俺は勇気ある行動だったと自分で自分を褒め称えたいぐらいだ。
 
そうして半日かけて情報収集を終えた俺は、
帰りに銀行に寄って預金から全額引き下ろし、
明日の軍資金を手にクタクタになって帰路についた。



「ただいま……」



グッタリとした声で玄関のドアを開ける。
するとそんな俺を真っ先に出迎えたのは美味そうな夕飯の匂いだった。
それからすぐにパタパタとエプロン姿のミクが俺を出迎える。



「お帰りなさいマスター!」



そう笑顔で俺を出迎えるミク。
不覚にもこの新婚の様なシチュエーションに俺はホイホイ萌えた。



『夕飯にする?お風呂にする?それとも……」


なんてお約束の台詞がグルグルと再生されて、俺はミクに言って貰いたい衝動に駆られる。
が、ブンブンと頭を振って邪念を振り払うと、俺はただいまと笑って言った。
靴を脱いで洗面所で手を洗ってからリビングに向かう。
するとそこには出掛ける前にミクが言っていた様に、
俺の好きなおかずばかりの夕飯があった。
ミクが張りきり過ぎました、なんて悪戯っぽく言う様に、
確かに二人で食べるには少しばかり量が多かった。
けれどそんなの気にならない位嬉しくて、ミクが愛しくてたまらなかった。
 


「ありがとう、ミク」
 
「きゃっ!」
 


高ぶった感情のままに、勢いでミクを抱き締める。
するとミクが驚いて身を竦めて林檎の様に顔を赤くさせた。
そんなミクを見て、俺はごめんごめんと笑いながら離れた。
こうしてミクと笑い合えるのももう明日で最後。
そう考えると切なくて仕方がなかった。
俺は込み上げてきそうな涙を押し込めながら、ミクの頭を撫でて


 
「食べようか」


 
と食卓につく。
今日でおそらく最後になるミクの手料理を、俺は感慨深く口に運んだ。
それから暫く経った頃。


 
「明日……何処か出掛けようか?」
 
「え?」


 
俺は今思い付いたかの様なさり気なさでそう言った。



「ほら、ミクが俺のとこに来てから一緒に出掛けた事なかったしさ」


 
それに明日が最後だから、と心の中で続けた。
ミクもそんな俺の心を察したのか
 


「良いですね。行きましょう」


 
と至って明るく言った。
俺は気を遣わせた気がしてなんとなく申し訳なくなったが、
空気を悪くはしたくなかったのでそこには触れなかった。


 
「明日はミクの行きたい所なら連れてってやるよ。
あんまり遠いのは無理だけど」
 
「どこでも……ですか?」
 
「あぁ」
 


そう言うとミクは顔を小さくしかめて、うんうん唸り始めた。
その間に俺はまた食事を再開して、黙々と飯を口に運ぶ。
暫くして夕飯を食べ終えた俺はチラッとミクを見たが、
ミクは尚もうんうん唸って悩んでいた。
俺はそれがおかしくて、
ニヤけた口元を隠す様にしながら食べ終えた食器を片手に立ち上がった。


 
「ミク」
 
「はい?」
 
「明日俺達が行く所を決めるの、出掛けるまでの宿題な」
 
「えーっ!そんな、決められないですよっ!」


 
助け船の様な気持ちで言った俺の言葉に、
ミクが困った様な声で文句を言う。
俺はミクの頭を撫でながら


 
「だから宿題なんだろ?」


 
と苦笑しながら言った。
ミクは風船みたいに頬を膨らませながら、渋々はいと返事をした。
俺はそれに満足して、片手に持っていた食器を置きに台所に向かう。
するとミクが慌てた様に後ろを追いかけてきた。


 
「マスター。私が洗いますから、マスターは寝てて下さい。
私、洗い物しながら考えたいんで」


 
ミクがそう言うのに甘えて、俺はわかったと頷いた。
それからまたミクの頭を撫でて、俺はおやすみと言って寝室に向かった。
すると寝室に入る前、ミクが俺を呼び止めた。


 
「マスター」
 
「ん?」
 
「私……明日を楽しみにしてますね」


 
そう言ってミクが笑う。
俺はそれに頷く。


 
「俺もだ。じゃ俺明日の為に早く寝るから。おやすみミク」
 
「はい、おやすみなさいマスター」


 
そうして俺達はいつもの様に挨拶を交わして、いつもの様にその日を終えた。
 
 
 
 
 
―ミクの初期化まで
 残り、26時間……。

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Song of happiness - 第9話【6日目 後編】

なげぇぇeeeeeeee!!!!!!!
とりあえず、話も佳境に入ってきましたので
こっから最後まで突っ走ります!

閲覧数:83

投稿日:2010/11/23 15:31:54

文字数:1,889文字

カテゴリ:小説

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