ギターの音色がステージ上に響いていた。
ギターの音色だけが、スタジオに響き渡っていた。
二人だけの演奏が終わり、あたりはしんと静まり返っていた。
「いやあ、すばらしい演奏でしたねー」
マイクを持った司会者がリンとレンの元にやってきた。
「今回はメンバーが…」
言い終わらないうちに、リンはそのマイクを取り上げると、ランプの点灯しているカメラのほうにずいずいと歩み寄っていって、
「あー、テステス。ルカぴょん、みーちゃん、バカイト。皆、見てたら伝えたいことがあるの。皆。ここで終わりたくないでしょ? こんなチャンスを、こんな中途半端なかたちで、終わらせたくないでしょう? もう一回、一回だけでいいから、皆で演奏したいの。あんな終わりかたいやだよ。皆で、もう一回だけ――」
スタッフたちがあわててリンを取り押さえる。マイクを取り上げられても、リンは必死にカメラに向けて何かを伝えようとしているのが分かった。
これが、リンの足りない頭で考えた結果だったのだ。あとでスタッフに起こられることもわかって入るが、これ以上の答えを出せなかったのだから、仕方が無い。
そして、二人は分かっていた通り、こっぴどくお叱りを受けたのだった…。
ヴヴヴ、ヴヴヴ…。
携帯がポケットの中で振動するので、ルカはゆっくりと目を開いた。メールだ。
カチッと心地よい音を鳴らして携帯が開いた。メールの送り主は…【ハゲ】。…誰だっただろう? そんな、某カップアイスの妙な略称みたいな――ああ、あのマフラーのことだ。いつもアイスアイス言っていたから(ただの悪口なんかではない。)アドレスを聞いたときに、こうやって入力したのだ。
耳から落ちかけたイヤフォンを付け直すと、メールを開き、本文に目を通す。その前にメールの題名が「無題だよー☆」となっていたのが気になったが、無視しておいた。
「…テレビ…リンたちが…?」
すばやく断片的な情報だけで大体のことを理解し、携帯電話の画面をくるりと後ろ向きに回すと、ぱちんと閉じる。テレビを見るモードだ。
チャンネルをいじる。音楽番組。ドアップで映った、日本人離れした青い瞳と金の髪。
「リン…」
何かを必死に訴えている。
ため息をついた。
…かなわないなぁ。
携帯電話を開いた。イヤフォンを方耳だけはずした。
「…もしもし、ええ、カイト? ええ。そう。…じゃあ、 あとで ね」
携帯電話を閉じてイヤフォンを付け直すと、そっと座席の背もたれを後ろに倒し、微笑んだ…。
空を切り裂いてゆくような甲高い音と、エンジンの騒音。飛行機が飛び立っていった。
ハイヒールが、こつこつと単調な音を鳴らす。
「遅かったじゃない、ルカ」
後姿でも、誰だか分かる。
「お待たせいたしました、お姉さま」
そっと微笑みながら、ルカは言った。その言葉に、メイコは微笑みで返したのだった…。
仕方が無い。仕方が無い。
そう思うことにして、ミクは歩き出した。あんなにひっしに全国ネットで叫ばれて、出て行かないわけには行くまい。ファイルに挟まれた何枚もの手書きの楽譜が並んでいた。
「才能なんて無いのになぁ」
ファイルの中の楽譜をすべて引っ張り出すと、びりびりと破り、天井へと向けてその紙くずを投げた。はらはらと降りてくる、紙、かみ、カミ。
「消えちゃえっ」
叫ぶ。
その声を聞きつけて、ミクの父が部屋のドアを開いた。
「どうかしたのか、ミク」
ふわりと優しい微笑を浮かべて振り返ると、ミクはにっこりと笑った。
「パパ、私、最高の夢を見てくるわ」
床に広がったその紙が、楽譜だと気がつくと、父は唖然とした。
「それ、後で片付けるからそのままでいいわ。…いつになるかは分からないけど、夢から覚めたら、ね」
不敵な笑みを浮かべ、ミクは自らの父の横をすり抜けるように通り、かばんを音も無く肩にかけると、イヤフォンをつけた…。
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