「弱音さんちの留学生」
  第二話 天使の神楽 

PART3「光さす庭、天使の舞い」


この小説は、2013年01月01日に思いついたので、
慌てて忙しい中、書きとめたものです。

ボカマスなどにて、また無料配布小説本に収録するかもしれません。

起承転結 4章構成になっています。

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数条の光の束が広がり、広くはない境内全体が神秘的な光に包まれた。
まさに、天から光指すといった光景だ。

午前の舞、午後の1度目の舞いが終わり、その度にお焚き上げが行われていた。
煙は狭い境内に例年通りの季節風で、神楽舞台の後方へ流される。

午後2時、神楽舞台の左へ進む、日の光…。

天照大神が、木々の間から神楽を舞う巫女たちを覗き込むと、
毎年、この時だけ見れる、神秘的な光景が広がるのだ…。

お焚き上げの煙がスモークのように、日の光が多焦点のスポットライトに。
光さす庭で、まさに心を洗われるような気持ちになるものだ。

「わぁ…」

まだ、人間の言葉を使いこなせない、大人しいボカロの少女。
彼女の前では、必死に「頼りになる主」を志す、元気で健気な少女。

ふたりは普段の自分を忘れ、ただ驚きを口にする。 



ポン ポン ポン・・・


光を待っていたように、つづみの音が響き出す…。

私の… 私の大事な少女が、その美しい光の中に歩み出る。

長く美しい深緑の髪がなびき、鮮やかな緋袴に映える。
私の天使、ミクの、優しく神秘的な神楽が始まった・・・。


シャンッ・・・


そそと鳴る、神楽鈴。

伸びる五色緒、白い紙垂(しで)を下げた玉串。

それらは美しく長い緑髪と共に、舞について風になびいた。




舞の為にしつらえられた長い千早、緋袴・・・

全てが美しく、神秘的な空気を載せて、孤を描く・・・






「漂亮…」

主の少女は、つい母国語で「綺麗」と呟く。
胸を突いたのか、眼にはうっすらと涙が浮かぶ。

「ねぇ、天依・・・」

付き従うボカロは、主に寄り添う。
ただ、少女の全ては愛しい主の為にある。


「今度、私も古典音階の曲、作る・・・」

神楽舞台に見蕩れたまま、左手に感じる暖かみに告げる。

「貴方と一緒に、舞いたいな・・・」

瞳から一筋だけ、涙が流れる。
たちまち桜色に染まる頬も、暖かい感情に上気していた。



中国一の音楽企業グループ、樂正グループの令嬢。
そんな身の上で、家柄に沿わない軽音楽を、
ひたすら独学し、身に付けて来た。

今、何が彼女の心を打ち、その反抗を緩めたのか。
多分、それは音楽自体だけでなく、この場、この出会いなのだ。

音楽は、たとえ自分一人で作ったとしても、
一人で完成させるものではない。


皆で奏でることで生まれ、皆に聴かれて育ち、完成に向かう。



ひたむきに「家族を大事にする国」。

そこから来た私の友人に、迷いながら成長している彼女に、
私はこの国が大事にする「縁(えにし)」を、分け与え続けたい。

そんな私の考えは、
どうやら間違って居なかったみたいだ・・・。



「う~んっ」

ぐぐぐっ

暖かい空気に、幸せな癒しを感じつつも、
私と阿綾の間で、必死に背伸びしている少女に、私は気付いた。

自然と「にへら」と、いやらしい笑顔になり、感動冷めやらぬ阿綾に教えた。

「それは本当に、素敵なことね・・・
 でもね、阿綾。それは分かりやす過ぎるフラグ発言よね?」

私が意地悪く言いいながら、くるくると回した人差し指を斜め下に向ける。
少女は驚いてこちらを向いて、それからゆっくり視線を降ろした。

そこには、繋いだ手を支点にして、必死に背伸びをする少女。
既に眼前に、可憐なボカロの唇が迫って居た・・・。

「わぁー! わわわ! まって! 待ってよ、天依!
 此処じゃ駄目ぇ! みんな見てるよっ!!」

段になった参道の、高いほうに立って居なければ、
たった4cmの身長差、既に唇を奪われて居ただろう。

よせばいいのに、こんな発言に限って母国語ではなく日本語だ。

他の参拝客の注目を受け、彼女の相貌は櫻を通り越す。
一気に薔薇や睡蓮の如く、五月の花の赤みと暖かさに登り詰めたw

丁度、舞も終盤に入って居たミクが、くすりと笑ってしまったのも見えたw




相手の心を深く察し、読みとり、相手の心の歌を唄う。
天依の特殊能力だという。

しかし彼女は、主の歌を一字一句とて間違えまいと、
より濃密な接触を求める・・・

「あぁう、あぅぁ・・・」

普段から、手を取り合うも寄り添うも、全て阿綾からの行動だ。

しかし、あるときスイッチが入ったように、二人の攻守が逆転する。
見てるこちらも恥ずかしいが、とても幸せにさせてくれる光景だ。



シャンっ!
ひときわ強く、神楽鈴が鳴る。

二人の百合っぷりをニヤニヤと見て居た参拝客も、みな視線を舞台に戻す。
阿綾も真っ赤な頬に両手を添え、慌てて視線を舞台へ向けた。

くるりと弧を描き、舞を終えたミクがうやうやしく膝を折る。
舞台中央に置かれた神饌台に、持っていた玉串をそっと捧げ降ろす。

ご奉納である為、柄を神前に向ける。
この狭い境内では、神楽舞台は参道向きになり、神前は奥だ。
参拝客も巫女もこれを意識する。

玉串を横にして、台に安置したミクが、
今度は神楽鈴を鳴らさぬように、すっと立ち上がる。

そのまま左を向き、神前に深々と礼をする。

神事は全て滞りなく終わり、ミクが舞台脇へと消えて行った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【ハクミク、南北組】 弱音さんちの留学生「2話-3章」

ハクとミクが暮らす部屋に、中国ボカロの二人がホームスティに来ました。 年が明けて元旦・・・  第二話の3/4。

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投稿日:2013/01/13 09:28:01

文字数:2,322文字

カテゴリ:小説

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