自宅にも井戸端会議にも居らず、
おそらくと目処をたてていた第3の場所…居酒屋へとシャルテットは足を運んだ。

「あぁ、やっぱりッスね」

座ったままでも窓から外の景色を眺める位置に茶色の髪の女性はいた。
グラスには赤い液体が入っており、チビチビと飲んでいたようだ。
空きビンは見あたらない。

「夕方前からお酒だなんて姐さんも好きッスね。レオン様とそっくりッス」

そう言って隣の椅子に座れば、
ジトっとした目で彼女…ジェルメイヌはグラスから口を離した。

「久々に会う一言目がそれって酷いんじゃない?
それに、これはシャーリー・テンプルよ」

持っていたグラスをシャルテットに向けると、
ためらいなくシャルテットは中の赤い液体を一口含んだ。
ザクロの酸っぱさとシロップの甘さ。日射しの一番高い時間の今が心地いい。

「ノンアルコールッスね」

「父さんが禁酒してるのに、私が飲む訳ないでしょ」

「じゃあ、なんで居酒屋ッスか?
家に居てくれれば私は姐さんを探さなくて済んだッスよ」

だって…、と窓を向くジェルメイヌに、シャルテットはようやく理解した。
窓の外からは馬車道と、その先には王宮が見える。
そこには待ち合わせたシャルテットだけでなく、父親のレオンも弟のアレンも居るのだ。

「待っててくれたんッスね」

そう呟くと、ジェルメイヌはふにゃりと酔ったと間違う程の笑みを浮かべた。



「それにしても変な感じね。アレンと同じ時期に王宮…それもメイドだなんて」

シャーリー・テンプルのグレナデンシロップも今では貴重だ。
ジェルメイヌは早々にジンジャーエールに切り替えて、シャルテットもそれに倣った。

メイドと聞くと貴族の日常生活のお手伝い…と言う感覚が一般的だろう。
だからこそ希望者は十代の若者や、花嫁修業目的が多い。
メイド長のマリアム=フタピエが32才なのだから、そこはお察しだ。
そんな場所に30も間近のシャルテットが目指すと聞いた時はジェルメイヌでなくとも驚くしかない。

「だって、この顔ッスからね。
メイド長も私の年を聞いた途端顎を外しそうになってたッス」

からからと笑って答えるシャルテットだが、ジェルメイヌは笑えない。
そうなのだ。
彼女の顔は年をとらない。
シャルテットの方がかなり年齢は上なのだが、
ジェルメイヌが若くに入れた居酒屋も、
店によってはシャルテットだけ断られることもある。

もしやバニカ=コンチータが愛したというブラッド・グレイブでも飲んだのか。
…とも思いたかったが、彼女はトラウベンワイン派ではなくライスワイン派だった。

彼女曰く、
「私の作るブリオッシュと合う」
だったが、ジェルメイヌにとって彼女のパンはブリオッシュとは言い難い、
石のような固いパンだった。

「私、てっきりシャルテットは親父さんの鍛冶屋を継ぐと思ってたわ。
まぁ、結果的にこうして王宮での父さんやアレンを教えてくれて助かってるけど」

「姐さんが喜ぶんなら、メイドやってて良かったッスよ。
なんせ、私の腕じゃシェフは難しいし、
警備隊や軍隊ではレオン様くらいでないと王宮の中に入れないッスから」

「…。え?」

望んでメイドになる。
王宮に行く前のシャルテットはそう言って父親を、そして自分たちを納得させた。
だからこそジェルメイヌはジンジャーエールを飲む手を止めた。

「あれ?
あの時の話をまともに聞いていたッスか。
姐さんは実に馬鹿ッスね~」

してやったり。
そんな意図を思わせるシャルテットの笑みに、ジェルメイヌは茫然とした。

「『悪の娘』の噂を聞いて、それでもメイドになりたい人、居ると思うッスか?
メイド長も娘のネイをメイドで仕えさせる程ッスよ。
アレンが召使で王宮に行くとなったら、私はメイドしかないッスよ」

「噂を聞いて、それで行くとか…。
アレンが行くからって、あんたこそ馬鹿じゃないの!?」

「『昔、盗賊から助けてくれたから』、じゃ、駄目ッスよね?」

「当たり前でしょ!!」

自分やアレンのせいでシャルテットを危険に合わせたくない。
ジェルメイヌの気持ちは、ちゃんとシャルテットは分かっていた。
けど、
そうじゃない。

「ねぇ、ジェルメイヌ」

「…なによ」

「レオン様は18才で姐さんを娘にしたッス。
マリアム様は20才ッスね」

「…。」

「私がもう少し年をとってて、結婚していたら…。
きっとアレンくらいの子供がいる筈ッス」

ジンジャーエールをテーブルに置くと、シャルテットはしっかりとジェルメイヌを見つめた。

「私にとって姐さんとアレンは、姪や甥みたいなもんなんスよ。
大好きなんスよ。
だから、助けさせてほしいッス」

なんの迷いも、陰りもない笑顔。

助けてばかりと思っていたジェルメイヌにとっては、正に青天の霹靂。

「姐さんはレオン様とアレンが帰ってくる家を守って下さいッス。
私には難しいことは分からないッス。
けど、姐さんが喜んでくれるなら、頑張る力はいくらでもあげるッス。
私も『家族』ッスよ」

満面の笑みで語られては、ジェルメイヌの返事は1つしかない。

「ありがとう!」

そして。
彼女も朗らかに笑うのであった。

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居酒屋にて

ジェルメイヌとシャルテットの日常一コマです。

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投稿日:2018/09/06 18:46:44

文字数:2,159文字

カテゴリ:小説

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