「ぷっ。あ、あっはっはあ」

「こいつ、いい加減にしろよ」
「ご、ごめん…。でもさ、あっはっはっは」
顔をまっ赤にして、怒っているレン君のそばで、リンちゃんは指をさして、おなかを抱えて笑っている。

レン君の頭の上に、針金でとり付けた天使の輪が、プルプルと震えている。

ここは、ゆくりさんのお店、雑貨店「ゆっくり」。
リンちゃんとモモちゃんが、お店にやってきた。
そこにいたのは、白いワンピースのような服の「天使」の姿をした、リンちゃんの兄のレン君だった。

「あーらあら、ずいぶんウケちゃったみたいねー。この格好をした甲斐があったわねー」
店長のゆくりさんは、カウンターの向こうで、のんびりとほがらかにうなずいた。

気の毒そうに目を伏せがちにしていたモモちゃんも、知らず知らず笑っている。
それほど、彼のコスプレはインパクトが強かった。


●新製品の盛り上げキャンペーン!…

彼は、好きでこの格好をしているのではない。

これは、新製品のキャンペーン。
こんど発売する「テト・ドール デビちゃん」を盛り上げるためだ。
製品のコスチュームと同じコスプレが、商品を販売する主なお店に、配られたのだ。

新製品のテト・ドールのシリーズは、悪魔の格好の「デビちゃん」がメイン。
でも、ペアになる天使の「カイコちゃん」の人形がある。
お店に配られる、キャンペーン用の衣装は、悪魔タイプと、天使のタイプがあった。

それを、ゆくりさんは天使の方を選んだ。
そして、それを晴れて着せられる羽目になったのが、店のバイトをするレンくんだった。


●なんでこんな日に…

「ゆっくり」の売り場では、並んだテト・ドールをたくさんの人が手に取っている。
天使姿のレンくんをケータイで撮影している人もいる。

「レン、笑顔、笑顔。お客さんに失礼でしょ。クスクス」
リンちゃんは言う。でも、相変わらず、目に涙を浮かべて笑っている。

「…まったく。店長、うらみますよ。なんでボクが、こんな…あっ!!」
口をとがらせて、棚の商品を並べ直していた彼は、いま店に入ってきたお客を見て、飛び上がった。

「こんにちは~」
それは、りりィさんだった。
彼女は店に入るなり、目を丸くして、怒れる天使を見つめている。

「り、りりィさん…ああ、なんでこんな日に、みんなやってくるの」

レンくんの顔には、怒りを通り越して、哀愁の色が浮かんでいた。
彼の白いワンピースの背中の、2つの羽がそよいでいる。


●コスプレの効果は抜群!

「ああ、わかった。“テト・ドールのデビちゃん”のキャンペーンね。ふふ、似合うわよ」
りりィさんは、そういってうなずいたが、やはり、笑ってしまった。

すると、店に来た小さな女の子のお客さんが、天使のドールのカイコちゃん人形を手にとり、ゆくりさんのいるレジに持って行った。

「あのお兄ちゃんとおんなじかっこうの、このお人形、ください」
「はーい、ありがとうございますー」
やさしく応対するゆくりさん。

それを見て、モモちゃんは彼を励ました。
「レンくん、良かったわねえ。あなたのコスプレ、効果バツグンだよ」

「そうね。素敵よ」
りりィさんも言う。

「そ、そうでしょうか。でも、はずかしいなあ。売場でこんな格好をするなんて」
レンくんは、ちょっとホッとした表情になってつぶやく。

「笑ってゴメン、レン。でも、平気だよ。ここは、おうちみたいなもんだもん」
リンちゃんも言う。


「そうかな。不気味じゃないか? 僕が天使なんて」
彼はそう言って、照れ隠しに、“デビちゃん人形”のとなりに置いてある、“はっちゅーね”の頭をたたいた。

すると…はっちゅーねがしゃべった
「…ブキミ、ではないが、ちょい生意気だな!」

その声を聞いたモモちゃんは、ちょっと驚いて言った。
「いまの声…? なんか、デフォ子さんの声に似てなかった?」Σ( ̄□ ̄;)

「え、デフォ子さん?」
りりィさんは聞き返した。

(次回に続く)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

玩具屋カイくんの販売日誌(162)  “はっちゅーね”との、ひととき (その2)

本人がつらいキャンペーンやイベントほど、お客さまの喜びが大きくなるものです。

閲覧数:111

投稿日:2012/07/21 21:53:35

文字数:1,660文字

カテゴリ:小説

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  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    今晩は! 早速拝読させていただきました!

    今回は、天使コスプレのレン君の、販促効果の回ですね。天使「カイコ」ちゃん、カイトにーさんの亜種で様々な”カイコ”のイラストをちゃんと見ているのですが、どうしても”カイトにーさん”から想像してしまって、ついつい口元がゆるんで…。

    え、えっと、とにかくリンちゃんは大笑いだったですが、販促効果が抜群でしたね。お子さんなんかがキャラ雑貨を買うときの動機って、

    ”アニメ「~」のキャラの物がほしーい!”
    ”可愛いキャラのグッズが欲しい!”

    って感じだと思うので、レン君の効果って、大した物だと思います。レン君を見て、そのキャラのグッズが欲しい、と子供に言わせたら、”勝ち”、だと思います。

    さて、最後に不敵な言葉をかける、”はっちゅーね”。今の時点での情報を集約して想像すると、あの、斜め45°の方向で有名になった、”ミクダヨーさん”(要するにねんどろミクさんの着ぐるみだったんですが、どうも様子が…)な感じかなぁ、と思ってます。でも、中にはどうも、”デフォ子”さんらしいとか…。

    これからの展開、楽しみにしております!

    ではでは~♪

    2012/07/21 22:20:44

    • tamaonion

      tamaonion

      コメント有難うございます。


      >どうしても”カイトにーさん”から想像してしまって

      そうですね。カイコちゃんなら自然ですが、KAITOさんの女装となると微妙な違いがあるのが、可笑しいですね。

      >レン君を見て、そのキャラのグッズが欲しい、と子供に言わせたら、”勝ち”、だと思います

      ほんとですね。子どもは正直ですね。プラスの感想ならうれしいですけど、残酷なこともありますよね。

      >ミクダヨーさん”(要するにねんどろミクさんの着ぐるみだったんですが、どうも様子が…)な感じかなぁ、と思ってます。

      実は詳しくなかったんで、さっそくニコで見ました。うーん、「コレジャナイ感」が楽しいですね(笑)それにしてもミクの周辺には、話題が途切れませんね。
      それと、enarinさんの発想に、いつも逆にイメージを頂いています。感謝です。

      また、感想をきかせてください!

      2012/07/21 23:08:42

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