リンちゃんをモデルにした、はっちゅーねシリーズの人形、“リンリン・はっちゅーね”。
いま、売れ行き好調なこの新商品。
そして、リンちゃんとサナギちゃんが登場する、PV(プロモ・ビデオ)の制作をしたのが、月光企画だった。
そのビデオを作っている最中に、はっちゅーねの生みの親であり、ライセンスを行うミクさんと、
月光企画の社長、オサカモトさんとが、仲たがいを起こしてしまったのだ。
そうして、リンちゃんたちのビデオの撮影が終わった夜。
彼女らが泊まっているホテルの部屋が、奇妙な空気に包まれたのだった。
リンちゃんは、その事を思い出しながら、ベニスズメさんに聞く。
「あの夜、“できれば、ホテルの部屋を出ないで”っていってたよね。あれ、どういうことですか」
●不思議に、いなくなってしまう
ベニスズメさんは、リンちゃんと駿河ちゃんの座っているベンチの、隣のベンチに腰をかけた。
「うちの会社の、会長で、ツクヨミという人がいるの」
駿河ちゃんは、うなずいた。
「知ってます。いろんな噂がある人ですよね」
ベニスズメさんは、そのまま話を続ける。
「その方は、いったん、あることで怒り出すと、それが止まらなくなるという、癖があります」
「どんな風に止まらなくなるの?」
こんどは、リンちゃんが聞いた。
彼女は、静かに話し続ける。
「仕事が上手くいかなくなったとき、その相手の人が、いなくなったりします」
「え?」「ええ?」
聞いていた2人は、同時に声を上げた。それって、誘拐じゃないの?そう思ったからだ。
その雰囲気を察して、ベニスズメさんは笑った。
「私たちも、会長が何かしてる、とは思っていません。でも、不思議にそうなってしまうことが、多いの」
●あなたに出てほしくなかった
リンちゃんは、しばらく黙っていた。やがて、口を開いた。
「それで、私たちの夕食に、眠り薬を入れたんですか」
ベニスズメさんは、上目づかいに彼女を見た。そして目を伏せて、つぶやいた。
「ごめんなさい。でも、ほんのちょっとなの。絶対に、あなたたちに外に出てほしくなかったから」
そう言って、リンちゃんをじっと見る。
「あの夜、外に出ていたら、命がなくなると思ったの。特に当事者の、あなたは」
リンちゃんは、黙っていた。
あの夜、サナギちゃんが「監禁はイヤだ」と言って、飛び出して行った。
リンちゃんはその後、1人で2人分の、夕食を食べてしまったのだ。
「ふっ。いきなり眠り込むはずだわさ」
苦笑いするリンちゃん。
「で、サナギちゃんは、どこにいったの?その時」
こんどは駿河ちゃんが聞いた。
「ホテルを出て、私たちが探し回ったの。付近を。そしたら、夢遊病者のように、歩いていた彼女を見つけた」
答えるベニスズメさん。
●あそこの部屋に、いますよ
「それで、保護したんですか、彼女を」
「そうよ。もう半分、意識を失いかけてた」
彼女はそう言った。
「それで、何日間か、そこのアパートの、『Moonlit』に居させたんですか」
「ええ」
リンちゃんの問いに、彼女はうなずく。
何となく納得がいかないような顔で、駿河ちゃんは問う。
「社員のあなた方も、その会長さんに振り回されてるってことですか。どんな人なんですか、ツクヨミさんって」
ベニスズメさんは、黙っていたが、やがて、ゆっくりと答えた。
「ツクヨミは、ふだんはほとんど、姿を見せないの。でも、普段は“使い”の男の子を仲介して、いろんな話を伝えてきます」
そして、向こうに見える古いアパートの3階の部屋を、指さした。そして言った。
「あそこに、今、いますよ。その“使い”の、ツクヨミ少年は」/(・。・)
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