これは、拙作『ロミオとシンデレラ』の外伝です。
外伝その四十八【嫉妬は愛の子供】その四十九【悲しみと涙のうちに生まれ】その五十【一握りの勇気】から続いており、最後をしめくくるエピソードとなります。
それを理解してから、この話をお読みください。
【人生を愛で計ろう】
全然予想していなかったのよね。こんなことになるなんて。
わたしは、目の前にある鏡を見た。当たり前だけど、わたしが映っている。純白のサテンに純白のレースを重ねた、裾の長いドレスを着て。飾り気はそんなに多くないけれど、ふわりと広がった袖や、ウェストにあしらわれた幅の広いレース地のリボン、襟ぐりにあしらわれたフリルなど、要所要所に可愛らしさがあふれている。
「リンちゃん、すごく似合う」
明るい声でそう言うのはミクちゃんだ。もうわたしたちも大人なんだから、ちゃん付けで呼び合うのはちょっとどうかと思う時もあるけれど、小さい時からずっと馴染んだ呼び方だから、やっぱりこう呼んでしまう。
わたしは身体を捻じって、ミクちゃんの方を見た。ミクちゃんは笑顔で、わたしの隣にやって来ると、鏡の中のわたしと目線をあわせる。
「コサージュ、着けようね」
わたしの胸にコサージュを着けてくれるミクちゃんの薬指には、プラチナのリングが光っている。ミクちゃんは大学を卒業して三年後に、ミクオ君と結婚した。結婚式には、わたしとレン君も参列したっけ。ミクちゃん、とても綺麗な花嫁さんだった。
「本当によく似合ってるわよ」
そう言ってくれたのは、レン君のお姉さん。本来ならここじゃなくて、レン君の傍にいるべきなんじゃないかという気がするけど……。
「先輩、弟さんについてなくていいんですか?」
同じことを思っていたみたいで、ハク姉さんが訊いてきた。
「リンちゃんのドレスが気になって。確認したしあっちに戻るわ。じゃあね、リンちゃん。また式場でね」
手をひらひらと振ると、お義姉さんは部屋を出て行った。ハク姉さんが苦笑する。
「メイコ先輩、心配性なんだから。アトリエ・シオンのみんながフルでかかったドレスなんだから、ちゃんとしてるに決まってるじゃない」
今わたしが着ているウェディングドレスを作ってくれたのは、ハク姉さんの勤め先「アトリエ・シオン」だ。ハク姉さんが言うには、全部自分で仕立てたかったけど、時間がないので、みんなの協力を仰いだとのことだった。デザインをしてくれたのは、マイコ先生。ハク姉さんを雇っているデザイナーさんで、レン君のお姉さんが結婚した相手のお姉さんで、ハク姉さんが結婚した相手の従姉でもある。ハク姉さんが結婚した時のドレスも、マイコ先生のデザインだ。
「ハクちゃんはめーちゃんの後輩だからね。めーちゃんからすると、いつまでも心配なのよ。もちろん、信頼はしてるわよ? あたしもね」
マイコ先生がハク姉さんにそう言っている。別にハク姉さんも、本気で拗ねているわけではないようだ。
「ドレス、本当にありがとうございました」
わたしは、マイコ先生に頭を下げた。まさか、作ってもらえるなんて思ってもみなかった。それも、こんな短時間で。
「いいのよ。誰かに似合うデザイン考えるのって、すごく楽しいのよ。リンちゃんにはそういう、少し可愛らしいデザインの方が似合うわね。ハクちゃんのときは、セクシーさを意識した大人っぽいドレスにしたんだけど」
確かにハク姉さんのドレスは飾り気が全くなくて、腕や肩はむき出しで、長く引いたトレーンが優雅なドレスだった。
そんなことを考えていると、ドアを叩く音がした。「どうぞ」と声をかけると、ドアが開いて、ルカ姉さんが入ってきた。
「そろそろ時間よ。降りてらっしゃい」
それだけ言うと、ルカ姉さんはあわただしく出て行ってしまった。今日の式のあれこれを取り仕切っているから、目が回るくらい忙しい。実際、ほとんど駆けずり回っているような状態だった。それでも、ドレスも髪もメイクもしっかりしてる辺りが、ルカ姉さんという感じだ。
「じゃあ、行きましょうね」
部屋の椅子にずっと座っていたお母さんが立ち上がると、わたしのところまでやってきた。わたしに、霞のようなウェディングヴェールを被せる。痩せてしまったお母さんの手を見ると、わたしは胸がいっぱいになって、涙ぐんでしまった。
「リン先輩、まだ泣くのは早いですよ。今泣いたら、折角のメイクが崩れてしまいます」
これはグミちゃんだ。驚いたことにグミちゃんは、大学卒業後、ミクちゃんのお父さんの会社に就職した。就職したというか、ミクちゃんが声をかけたんだけど。ミクちゃんは「絶対将来有望だから、早めに収穫したの」と、自慢気に語っていた。
「そのとおりよ、リン。今日はリンの晴れの日なんだから」
お母さんが、そっとわたしの涙を拭ってくれた。わたしは唇を噛み、頷いた。今は泣く時じゃない。頑張って、笑顔を作ろう。
部屋にいたみんなが、連れ立って部屋を出て行く。先に会場に移動するのだ。しばらく待ってから、わたしも立ち上がる。ドレッサーの上に置いてあった、淡いオレンジのバラを束ねたブーケを手に取ると、わたしはお母さんにと手をつないで、階下に下りた。
階下に下りたところで、わたしは立ち止まり、辺りを見回した。わたしが育った家の、見慣れた玄関ホール。……七年以上前の、あの日。わたしはレン君と一緒に、この家を出た。あの時は、二度と戻らないつもりでいた。
だからこの家で、こんな風に自分の結婚式をあげるなんて、わたしは思ってもみなかった。
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