注意:カイメイ風味です。
オリジナルのマスターが出て来ます。
それでもおk、な方はどうぞ。
「今思えば、VOCALOIDを迎えた初日に梅酒作りとか、普通はしませんよね」
約束の梅酒。グラスを揺らして氷の音を楽しむ。
テーブルの上を見ると、グラスと湯のみがひとつずつ置いてあった。両方とも梅酒が注がれているようだ。
多分、グラスは水割り、湯飲みはお湯割りだろう。
「まあでも、頂いた青梅を放っておくわけにもいかなかったからね」
マスターが笑顔のまま湯のみを手に取る。
「マスターらしいですねえ」
話を大人しく聞いていたKAITOもグラスを手に取った。
私たち3人の手に分け与えられた、一年の時を経たお酒。
「この味は今しか味わえないから、心して呑もうね」
湯のみを掲げて、マスターが私の視線を捕らえた。
思わず目を見開く私に、緩やかに掛けられる言葉。
「来年はまた、違う味になっているから」
…え?
「再来年も、そのまた来年も。馴染んで、こなれて、きっとまた違う味になっていく。それを出来る限り一緒に楽しんでくれる?」
「僕は勿論、喜んで。…ね? MEIKOさん」
柔らかな茶の瞳と、優しい青の瞳が、私を見つめてくる。
味、は、…音、とも聴こえた。
梅酒作りの材料は。
梅と、ホワイトリカーと…、氷砂糖。
ぽろっと言葉がこぼれた。
「…氷砂糖、あったのね…」
「あ、本当だね」
「え? え? 氷砂糖?」
慌てる当事者を置いて、マスターと目線を交わして笑う。うん、マスターの思考を読むことにも慣れてきた。
…私ってば、気分が滅入ってたとはいえ、なんて莫迦なことを考えてたんだろう。
見捨てられる、なんて。
あ、いや、違うかしら。
少し早い七夕様が来てくれたのかも。
ささやかな短冊。誰かに見られる前に、いつか海に流す為に、何処かに仕舞い込んでおこう。
「では、出会いが産んだ味を堪能するとしますか」
「そうですね」
「…二人とも酷い。僕、置いてけぼり?」
何でこの男はこんなに拗ねた顔が似合うかなぁ。
思わず手を伸ばして、背伸びして、青の髪をくしゃくしゃにしてやる。
「わ、MEIKOさんっ?」
「大の男が拗ねてんじゃないわよ、莫迦」
笑いながら言ってやったら、予想外に幸せそうな笑みが返ってきた。…ちょ、不意打ち…っ。
「いやあ、可愛いなあ、二人とも」
笑い含みのマスターの声にはっと我に返り、慌てて手を引っ込めた。…顔、赤くなってない、わよね?
KAITOは相変わらず、私の前で嬉しそうに笑っている。
「もう少し見ていようかとも思ったんだけどね」
「な、何の話ですかっ」
「MEIKOもKAITOも幸せそうだなって」
幸せそうって…。
いやまあ確かに、落ち込んでいた原因はすっきりしたから、…幸せといえば幸せだけど…。
何となく面映くて、言葉に出来ずにうじうじしていると。
「幸せですよ?」
きっぱりはっきり言い切るKAITO。…何か照れるんだけど。何コレ。何で私が照れるの?
何となく居心地が悪くて手持ちのグラスに目を落とした。
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