注意:オリジナルのマスターが出張っています。
   カイメイ風味です。
   以上に不快感を感じられる方は閲覧を避けて下さいませ。










 私、MEIKOは家のドアを勢い良く開けた。予想通り、家の明かりは消えたままで、鍵が開いている。
 あのマスターのことだからそんなことじゃないかと思ったけど。
 下駄を脱ぎ捨て、蒸し暑い居間を抜け、迷うことなく録音室へ。防音設備のせいで明かりも漏れないその部屋にきっとマスターは居る。
 録音室のドアを叩きつけるように開け。

「え? MEIKO?」

 予想通りに浴衣のままで、手元にだけ灯りをつけてそこに居たマスターに思いっきり抱きついた。

「って、ちょっと、MEIKOっ?」

 あ。マスターのうろたえた声なんて、初めて聞いたかも。うろたえさせられたことは数知れずあるけど…。

「珍しいね…。どうしたの、突然」
「莫迦ですかっ」

 反射的に出るのはいつもは別の男に向けている言葉。っていうかうちの男共は莫迦ばっかりかっ。

「え?」
「寂しいなら寂しいって言って下さいっ。私たち、ここに居るんですよっ。代わりになんかならないことは分かってますけど…っ」

 かけがえのない、代わりなんて居ない存在。…今ならそれが分かる。
 涙声になっている自分には気付いたけれど、止められない。止める気もない。

「思いを伝える為の橋にくらいなら、…なれると、思います、から…っ」
「あ、いや、MEIKO。…お願いだから、泣かないで欲しいかな…。KAITOに知られたら怒られる」
「マスターが泣かないからじゃないですかっ」
「わたしは別に…」
「何もないのにミクやルカ放り出して行くようなマスターじゃないことは分かってるんですからねっ」
「あー、と…」
「何があったんですか? 電話、どんな話だったんですか?」

 顔を上げて聞くと、ぽんぽん、と背中をあやすように叩かれた。

「とりあえず、離れてくれるかな? わたしは馬に蹴られたくはないし」
「…はい」

 言葉に引っかかる部分はあったけど、少し離れて、袖で涙を拭う。マスターは少し寂しそうな笑顔を浮かべて、録音室内の譜面台に向き直った。
 たったひとつの灯りに浮かぶ、譜面台の上の真っ白な紙を見ながら、マスターがぽつりと漏らす。

「…倒れた、んだって」
「倒れた? って、…あの人がですかっ?」

 あの人。
 会ったことはないけれど、マスターの言葉の端々に出て来る、今は遠くで過ごす人。
 マスターの恋の歌の、贈り先の人だ。

「うん。過労と栄養失調のせいだったらしくて。幸い、症状は軽かったから、もう元気になったらしいけど」

 こんこん、と譜面台を爪先で叩く。

「多分、また、睡眠も食事も削って根を詰めていたんだろうね。…相変わらず、無茶をするんだから」

 夢を追って飛び出していったあの人の背を、最後に押したのはマスターだ、と聞いたことがある。
 電子を通して歌を贈り、あの人の夢を応援し続けているマスター。

「…やっぱり、本当に大切なものは、手放すものじゃないね」

 しみこんでくる言葉に、自然に離れた手がやけに思い起こされる。

「伝聞で状況を聞いて、…心配することしか、出来なくて。せめて安らげるような歌を贈ろうかと思ったんだけど、なかなか思い浮かばなくてね」

 大体、その歌だって、ちゃんと聴いてくれているかどうか分からないし。返事が少ないから不安になるんだよ。
 自虐的に呟きながら白紙の譜面に目を落とすその姿。

「織姫と夏彦は…、どうやって、会えない一年を信じ合って想い合って越えているんだろうね…」

 大切な人と会えない寂しさ。私はそれを知っている。
 もしも、一年、会えないとしたら…。
 考えた答えが言葉になる。

「私なら、…しばらく落ち込んでしまうでしょうけど。きっと最後には歌うと思います。精一杯、思いを込めて…」
「KAITOに対して?」
「う…っ、えとその…、…ハイ」

 今のマスターに嘘はつきたくなくて、躊躇いながらも頷く。
 織姫に自分を重ねるなら、…夏彦に重なったのは確かに、KAITOだから。

「だって、離れると寂しいです。傍に居たい。あの隣は居心地が良くて、優しくされると舞い上がりそうになります。近くに居るって感じられる時が、すごくすごく温かくて。あの声と自分の声が重なる瞬間がとても幸せで…」

 何か莫迦なこと語ってる気がする。けど、いつもと違って切なそうに私を見てくるマスターの瞳に、何かを伝えなくちゃいけない気がして、そのまま続ける。

「だから、…その思い出を頼りに、きっと私は、…会える日を信じて想い、歌い続けられる、と思います」

 寂しい、と言ってくれた。私と同じ気持ちで居てくれた。その記憶だけでも想うよすがになる。
 ふと思い立った疑問が、私の口をついて出た。

「…以前、マスターが私たちに約束を下さったのは、私たちが離れていくのが怖かったから、ですか?」

 マスターは、驚いたように目を見開いてから、そっと微笑んだ。

「ああ、…そうかもしれないね」

 一年経っても一緒に、というその約束。どんな思いで言ってくれたのだろう。
 穏やかに笑いながら、いつもいつも、不安に身を切られているのだろうか。
 そっとマスターの手を握る。今まではなかなか言えなかった言葉が、今なら言える気がする。

「私は、マスターの手を離したりしません。私からマスターの手を離すことは、絶対にありませんから」
「MEIKO…?」
「他の何と天秤に掛けても、私は躊躇わずあなたを選びます」

 びくっとマスターの手が震える。酷い言葉、だという自覚はある。でもそれが本当のこと。
 小さなため息と共に紡がれたのは、諦観の言葉。

「…ああ、そうか…」
「はい。私は、…あなたのVOCALOIDですから。この感情も、あなたなしには有り得ないんですから」
「…ヒトは本当に、残酷だね…」

 矛盾する感情を当たり前のように持たせるんだから。
 繋いだ手を握り返してくれながら、マスターが呟く。

「そんなことありません。色々大変なこともありますけど、私は、感情があって幸せです」

 思ったことをそのまま口にすると、マスターは少しの間呆然として、…突然吹き出した。

「え? ちょっと、マスターっ? 私は真面目に言ってるんですけどっ」
「ふふふっ、あ、いやっ、ごめんごめんっ。つい…っ」
「ついって何ですかついって」
「ああ、いや、こう、色々と、ね。…うん、ありがとう、MEIKO」

 ふわっとした笑顔を見せてくれるマスター。

「どういたしまして、ですけど、…本当に何なんですか」
「いやいや、…繋がるっていうのはこういうことなのかな、と思えて嬉しかったんだよ」
「はい?」
「離れていても、他に大切なものがあっても、…想い合っていれば、何処かで繋がっていられるんだな、とね」
「…マスター。意味が分かりません」
「そうだね。要は…」

 にっこりと笑う、それはあまりにいつものマスターの笑顔。

「KAITOとMEIKOのおかげで、苦しいだけの七夕じゃなくなった、ってことだよ」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

七夕祭 7

長っ!
意地っ張りマスターが語り出すと長くなりますね…。
ついてきて下さっている方がおられるのでしょうか…。

それでも続けます。七夕までには仕上げられると思います。

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閲覧数:354

投稿日:2009/07/05 17:52:32

文字数:2,975文字

カテゴリ:小説

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  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    >+KK様
    こんばんは~。
    浴衣姿が癒しになったようで何よりです。
    喋り方かぶりましたか、スミマセン…。ルカは声を聞いた時点からずっとあの口調のイメージだったのです。
    七夕っぽくなってますか! それが一番嬉しいです(笑

    あ、分かると思いますが、このマスターはこっそりとカイト以上のヘタレさんです(笑
    マスターへの応援も有難う御座います~。頑張って頂きます。カイトとメイコの心の平穏の為にも。

    コメント有難う御座いましたっ。蛇足になりそうな続きを頑張って書いてきますっ。

    2009/07/06 00:04:41

  • +KK

    +KK

    ご意見・ご感想

    こんばんは、西の風様。+KKです。
    浴衣の皆を想像して癒されてみたり、カイメイにドキドキしてみたり、ルカさんの口調にデジャヴを覚えたり(いつぞや書いた話と次回作予定のキャラと喋り方が・・・(汗))、マスターの事情ってなんだろうと思ったりしてたわけですが・・・。
    なるほど、七夕だ!と一人で納得したところです。
    カイメイだけじゃなくてマスターも頑張れ!と応援したくなりました。
    やっぱり大したこと書けませんが・・・乱文失礼しました。

    2009/07/05 20:20:31

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