―――――メイコ―――――


―――――おい、メイコ!―――――





『メイコ……また町民とケンカしたのか!?』

「……だってマスター」


屈強な男たちを足蹴にしながら、あたしは後ろからやってきたマスターを文句ありげな目で見つめた。


『こいつら、ミクやリンの事を馬鹿にしたのよ!? 『ロボットのくせにうざってえ、お前らが町を牛耳んじゃねえ』って!! このヴォカロ町にありながらそんな言葉を吐くなんて……許せるかって―――――のっ!!』


男の頭を砕かんばかりの勢いで蹴りつけると、マスターはやれやれとため息をついた。


『だがな……お前はもうすぐ町長になるんだ。簡単に町民に手を上げるような奴が、町民に信じてもらえると思うか?』

『う……』

『いいか。どんなに辛いことがあっても、金輪際町民に手を上げるなよ』

『……はぁい』


まだまだ言い足りなかったが、諦めて私はおとなしく返事をした。

するとマスターは……



『……だがまぁ、お前のそういうところは嫌いじゃないがな』

『え……?』


少し引きずるような足取りで私に近づいてきたマスターは、ドン、と私の胸―――――と行きたかったのだろうが、歳のせいで背が足らず腹を叩いて言った。


『メイコ。町長たるもの、決して町民を傷つけようとはするな。だが……家族のために本気で怒り、その拳を奮わんとするぐらいの家族想い……それだけは決して、忘れないでくれ』





『そんなお袋さん気質で、長女気質で、大黒柱なメイコが、俺は大好きなんだからな』










「……弱ったミクを二人がかりで追い詰め……」



ずしりと音がしそうなほど、重く踏み込み。



「……縮んだルカにここまで苦労させた……」



銀色に輝くスタンドマイクを地面に突き立てて。





『……その罰……受けてもらうっっ!!!!!!!』





吼えたメイコの体から―――――赤い光の柱が迸った!!


『うおおおおおおお!!?』

「これは……来たぞ!! 潜在音波の覚醒だ!!」


リンとレンが驚き、カイトが感動したように声を上げた。

しかしその間にも―――――正気を失い、完全に暴走しているリュウトが暴れ狂いながらメイコに向かってきている。

めちゃくちゃに振るう拳が、メイコに向かて振り下ろされる。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

『っるっさいわ!!!!!』


―――――一瞬拳が激突したかと思うと。

リュウトの右腕が消し飛んだ。


『グオオオオオオオッ!!!?』

「せぇえああぁ!!!!」


軽く跳んで、ふらついたリュウトの側頭部に向かって蹴りを入れる。

本体のいる頭部にダメージが入り、動きが止まったリュウトの腹部に―――――



『イェェェエェェェェェエエエエエエエエエエエエガァァァアァァアアァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』



地上に全ての反動を逃がし、その威力を十分に伝えるタイプの『地上型狩人拳』が鋭く突き刺さった!!

まるで弾丸のように後方へすっ飛んでいくリュウトの巨体を見つめるカイトたち。文字通り、開いた口が塞がらなくなっていた。


「ななななななななななななな……」

「なんだよっ、あのめーちゃんのパワー……一昨日の初戦と比べたら桁違いどころじゃないじゃん!!」

「パワーだけじゃないぞ……見ろ、皆!! リュウトが打撃を受けた部分を!!」


リュウトの打撃を受けた部分……頭部や腹は、まるで砂が崩れ落ちるように壊れていた。吹き飛ばされた腕の付け根も同様で、再生も遅いようだ。


「おそらく今のめーちゃんは自らが高周波を発する超振動体……触れた物すべて砂塵と化すことができる!! しかも加えて今まで以上の超パワー……これ、下手したら『狩人拳』で山一つ消し飛ばせるんじゃないか!?」


そんなことを言っている間にも、リュウトは起き上がり体を再生させている。

しかしまだ動きは遅く、攻撃もしてこない。

それを勝機と見たか―――――メイコはスタンドマイクを構えた。


『……はぁあああぁあああっ……!!』


気合いを入れて叫ぶと、メイコの体の周りに三つの空気弾が浮かんだ。

紅いスパークを放つ空気弾は、三つが連動するように力を溜めこんでいく。

そして――――――――――


『メイコ・ブラストっっ!!!!』


スタンドマイクを力強く振りぬいた瞬間、大地を揺るがすような音を立てて三つの空気弾がリュウトに襲い掛かった。着弾した空気弾はメイコバーストが直撃した時と同等の爆発を起こし、リュウトの皮膚を抉る。


『グ……ガァ!!』

「も―――――いっちょおぉ!!!」


再びうなりをあげてスタンドマイクが地を擦り、三つの空気弾がリュウトに向かっていく。

続いてメイコが軽やかに踊るように腕を振る。

すると―――――急に空気弾が軌道を変えた。一つは背後に回り翼の付け根を。一つは修復が完了しようとしていた腹部を。もう一つは―――――急所の頭部を狙うように弧を描いて着弾。爆発が起きてリュウトが崩れ落ちるように倒れ、地響きが広がった。


「な……なんて精密なコントロール……! 今までのメイコさんじゃとてもじゃないけど出来る代物じゃない!!」

「しかも一撃一撃の破壊力がメイコバースト並だ……!! これは今までのめーちゃんの弱点をすべてカバーするとんでもない破壊兵器だぞ!!」


グミとカイトが感嘆の声を漏らしている。

と、その時だ。



『ググ……ぐゥ……う……はっ!?』



突然リュウトが顔を上げた。その眼には深緑の瞳が戻っている。


「リュウ!? 正気に戻ったの!?」

『ぐ……頭が……これはいったい……?』


メイコ・ブラストの強烈な一撃が頭部に直撃したことによって、正気が揺り起こされたのだ。

自分の身の損傷を見つめ、目を見張るリュウト。当然だ―――――今までいなかっただろう、これほどまでに自分の体を破壊できるものなど存在しなかったのだから。


「メイコさんが潜在音波を手に入れちゃったのよ!! ここはいったん退こう……勝てないよ、こんなの!!」

『くそ…………いろはちゃんの言う通りみたいだね……ここは……逃げるが勝ちっ!!』


一気に翼に力を込め、損傷個所を修復したリュウトは、力強く羽ばたいて飛び立とうとする。


だが―――――それで逃がしてくれるほど、『ヴォカロ町の迫撃砲』は甘くない。


『逃がさないよぉっっ!!!!?』


地面を破壊するような勢いでスタンドマイクを突き立て、足を肩幅に開き、左手でマイクを持ち、右拳を握りしめる。

メイコバーストの発射体勢―――――だが、放たれようとしていたのはメイコバーストではなかった。


『オオオオオオオオオオオオオオオオ……!!!』


メイコの周りで空気が渦を巻き、マイクの前に火の玉のように赤い空気の塊が出現した。

その空気の塊は渦を巻きながら徐々に大きくなり、それと同時に赤い光を放ち始める。

渦巻く空気は周りの空気をもメイコの方に吸い込んでいき、逃げようとするリュウトの体すらもからめとる。


そのリュウトをすっと見据えた目は―――――紅い焔を煌めかせたかと思うと、カッと見開かれた。


『覚悟しなリュウト!! これがあたしの!! メイコ様新・最強必殺!!!』





『メイコバ――――――――――――――――――――――――――――スト・改(プラス)―――――――――――――――――――――――――ッッ!!!!!!』





《ヴヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!》


およそ声とも言えないような轟音と共に、凄まじい熱量を持った音波砲が打ち出された!!

まるで波動砲―――――灼熱の光を纏った強大な音波が、リュウトに襲い掛かる。


『あ―――――』


悲鳴を上げる間もなく―――――





《――――――――――――――――――――――――――ッズドンッッ!!!》





リュウトの巨体は―――――それ以上に巨大な爆炎と、爆音の中に消えた。


「……ふふ……はははは!! はははははは!! は―っはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!」


高らかに笑い誇るメイコ。その姿は――――――厳かとかそう言った言葉とはかけ離れているのに、どこか偉大な雰囲気を漂わせている。


「はははっ!! はははははははははっ!! どうだ見たかぁ!!! これがあたしの潜在音波!! 『バースト&ブラスト』だぁぁあああぁぁあぁ!!!!!! は―っはっはっはっはっはっ―――――」


高笑いを続けていた、その時だ。



《―――――パキン》



『――――――――――――――――え』


思わずメイコが振り向くと、左手に持ったスタンドマイクに―――――ひびが入っていた。

そしてそのヒビは―――――どんどん広がっていく。


「あ……あ……!」


ひび割れていくスタンドマイクを見つめるメイコの脳裏によみがえるのは、マスター・鈴橋喬二の笑顔―――――



―――――メイコ、こいつをお前にくれてやるよ―――――



《ピシッ……パキン……》



―――――やっぱこいつがねえと、お前らしくねえからな―――――



《パキ……ビシッ……》



―――――大切に、してくれよ?―――――





《―――――パリンッ》





乾いた音を立てて―――――スタンドマイクが砕け散る。

喬二にもらった、メイコ最大の思い出の品が。

砕け散り、金属のカケラとなって―――――地面に落ち、涼やかな音を立てた。


「あ…………」

『スタンドマイクが……!』


カイトたちもショックを受けていた。16年間、常にメイコが携帯し愛用していたスタンドマイク。

それが今、目の前であっさりと壊れたのだから―――――。


「……メイコバースト改の反動に、耐えられなかった……か」


ほんの少し寂しそうな顔で、地面に落ちたスタンドマイクの破片を拾い集めるメイコ。


「めーちゃん……」

「……何よ、リン。気にすんなってーのよ。またネルに直してもらえばいい話なんだから」


そう言ってポケットからスカーフを取り出したメイコは、優しく破片を包み再びポケットに入れた。

そして―――――未だ爆炎の漂う方向に目を向けた。





闇に絡めとられた彼女たちを、救い上げる為に。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

仔猫と竜と子ルカの暴走 Ⅵ~メイコ、再誕~

♪獲物を屠る∠(°Д°)/めぇぇぇぇぇぇええええええぇぇぇえちゃあぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁああああああん!!!!!
こんにちはTurndogです。

単純かつ繊細かつ破壊的に!!
それこそがめーちゃんの新たなる力です。
今までただの音波砲一辺倒だっためーちゃん。ほんの少しだけ、細かい動きをできるようにしました。
でもそれだけで完璧な気がするんだよね、この人w
やっぱめーちゃんだからか、日本最初のVOCALOIDMEIKOだからなのか。

閲覧数:248

投稿日:2013/12/17 13:25:29

文字数:4,424文字

カテゴリ:小説

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