――休憩中、人の楽しそうな声が響く音楽室の中で、
震えた大きな怒声が突き抜けた。



「―――――ッ、もぉっ！！！テトの馬鹿ァー！嫌いよ馬鹿ァア～～！！」


金髪ポニーテールのネル(２年生)が、突然立ち上がり、
テト(２年生)の名を叫んだ。
そしてネルはバタンと勢いよく部室の扉を閉め、
中に閉じこもってしまった。しかも、鍵をかける音まで聞こえた。

――コーラス部が使っている場所は、音楽室の中に、
　　さらに小部屋が４つある。そこは練習室といい、
　　我々の私物で溢れかえっている。(年末にきちんと掃除をするので
　　問題はないが)足場がなくて結構困っている――


周囲は唖然としてしまい、ついさっきまで賑わっていた
雰囲気が一気に崩れ落ちた。誰かこの重い沈黙を破っては
くれぬだろうかという、誰かの心境が伝わってくるようだった。


・・・そして、何故ネルがいきなり怒り出してしまったのかというと、
全員はテトである。それは、ここにいる部員皆が知っていることだ。
小さなため息が聞こえたかと思うと、グミがテトに話しかけた。

「テト先輩。またネル先輩と口喧嘩したんですか？いい加減、
　その悪い口癖と気分的な性格、やめたほうがいいと思いますが。」

あまりにも鋭い指摘に、
テトは苦虫を噛み潰したような顔をしてうなだれた。
先輩であるテトが、何故後輩のグミに指摘されているのか――ということ
は、ここにいる人たちは疑問にすら思ってない。
これがコーラス部お馴染みの光景。

「うぅ・・・。わ、私だってやめようとはしてるよ。でも気分が悪いときは
　どうしても口癖が連発しちゃうのよね・・・。」
「だからって”君は実に馬鹿だな”は駄目ですって！」

さらに横からミクオ(１年生)のツッコミ。
本当に、どちらが先輩なんだか混乱する。
しばらく１、２年生の口論が続く。――と、３年生も黙ってはいない。

ルカ(３年生)が、
「・・・とにかくっ！！！」
と大声を出し、軽く咳払いをする。再び音楽室内が静かになる。

「・・・なにがあったのか教えてくれるかな、テト。
　大会も、もう目の前なのに仲間割れしてたら駄目よ。」

肩をすくめるテト。先輩からも後輩からも攻められ、さらに困り顔になる。

「うう～・・・わかりました。あのですね・・・」



話はそんなに長くはなかった。ネルの怒りの元は・・・テト。

テトは今日、腹痛・頭痛・筋肉痛の痛みのせいで、かなり機嫌が悪い。
そこにネルの毒舌・・。２人は、仲も悪くないのに時々トラブルが発生する。
苛々しているため２人の間で、”毒舌コメント”と”君は実に馬鹿だな”
の攻撃が始まった。いくらネルが毒舌だとはいえ、相手は
「言葉の殺し屋」の異名を持つというテト。
勝てなかった・・・。よって、ネルは悔しくて怒り出し、
部室に閉じこもった、というわけである。


「なるほど～ぉ。」

ミクは興味津々できいていた。
そして、その横ではリンがこりゃ駄目だ、と頭をポリポリ掻いている。
皆のリアクションはあまりにも小さく、またこれか、と
全員が呆れているのがすぐ分かるほどだった。

「じゃ、今すぐ謝ってきなさい。全力で。
　でないと、今後の活動に支障をきたすことになるわよ。
　大会で負けて他の学校の嫌味ったらしい顔を見たくないでしょ？
　ほら早く！ダッシュ！！」

「は、はぃーーーっ！！！」

ルカはテトの前に立ち、有無を言わせない勢いでテトを説得させた。
相変わらず見事な説得。・・・ルカはテトに関しては特に厳しい。

普段はきっちりとしておとなしいのだが、活動にああやって
支障をきたす者には、遠慮なしに指導をするのだ。





・・・その後、ネルと和解するのに少々時間がかかったようだが、
とりあえず今回の喧嘩については仲直りができたようだった。

そしてテトは、頭痛・腹痛・筋肉痛などの原因を問われ、
今後の生活習慣を見直すようにと、ルカ・グミにきっちり
指導をされたのであった。