わたしたちは、残りの昼休みの間中、結局ずっと一緒にお喋りをしてしまった。躍音君は、風邪を引いてお休みらしい。
 その時に教えてもらったのだけど、グミちゃんは中学入学時に、今の住所に引っ越して来たのだそうだ。そして馴れない土地な上に、もともとの方向音痴が加わって、迷子になってしまい、途方にくれているところに、通りかかってくれたのが、躍音君だったのだそうだ。
「そしてグミヤ先輩が、自転車の後ろにあたしを乗せて家まで連れてってくれたんですよ。近所だから送ってってやるって。あの時、あたしはグミヤ先輩に一目惚れしました」
 それは一目惚れとは、ちょっと違うんじゃないのかな?
「それで同じ高校に進学したの?」
「はい。少し危ないって言われていたんですけど、死ぬ気で頑張って合格を勝ち取りました」
 ……すごいな、グミちゃんは。そしてちょっと羨ましく感じる。
「恋に大事なのは情熱とガッツです! 伊達に三年同じ人を想い続けていません!」
 あ、そうか。中学一年からだから、三年間よね。
「グミちゃんは、中学三年の時はどうしていたの? 躍音君とはほとんど会えなかったんでしょ?」
 レン君は、以前つきあっていた人とは、違う学校に進学したのが別れのきっかけになったって言っていた。グミちゃんは平気だったのかな。
「近所ですから、会うことはありましたよ。でもグミヤ先輩が高校に進学した後は、学校まで一緒に行けませんでしたから、やっぱり淋しかったですね」
 そうなんだ……。前提が少し違うから、比較するのは無理かな。
「でもまた一緒に学校に通うんだ、そう思って、辛い受験勉強も乗り切りましたっ! 恋はエネルギーですよ、先輩」
 グミちゃんの強い言葉を聞いていると、グミちゃんはたとえ会えなかったとしても、その間気持ちを燃やし続けられていたかもしれない、という気がしてくる。
 そういう強い気持ちって、どういうところから湧いてくるんだろう。……わたしにはわからない。
「だからリン先輩も頑張ってくださいね」
「……何を?」
 言われた意味がわからず、わたしは訊き返した。
「恋の話です」
「あ……う、うん。機会があったらね」
「機会は自分で作るものですよ」
 そんなことを言われても……。
「そうよ、リンちゃん。わたしもグミちゃんの言うとおりだと思うわ」
 ミクちゃんまで、こんなことを言い出した。ミクちゃんとグミちゃんは、不思議な笑顔を浮かべてこっちを見ている。なんだか……怖い。
「……ね、ねえグミちゃん。演劇部の次の公演、グミちゃんは何の役をやるの?」
 あせったわたしは、無理矢理話題を変えた。レン君からは、蜜音さんがヒギンズ教授を、別の二年の女子生徒がイライザをやるということしか訊いていない。
「あたしですか。あたしは家政婦のピアス夫人です」
 そう言うと、グミちゃんは残念そうに肩を落とした。
「本当はあたし、グミヤ先輩とラブストーリーがやりたかったんですけど、『マイ・フェア・レイディ』ってラブシーンがほとんど無いから、今回は諦めました」
「え、えーと……ごめんね。でも、みんなの要望を一度に叶えられるような戯曲って、わたしには思いつかなくて……」
 グミちゃんは、ぶんぶんと勢い良く首を横に振った。
「リン先輩のせいじゃないですよ! 作品決定の際、リン先輩には迷惑をかけたって、鏡音先輩言ってましたし」
「レン君はいい人だから……」
 わたしがそう言うと、グミちゃんは首を傾げた。
「そうですか?」
「え? いい人よね」
 レン君は、いつも優しい。怒ることもあるけれど、それは大抵わたしを思ってのことだったりするし。この前の病院での時のように。
「グミヤ先輩に比べると負けるのは仕方がないとして……」
 わたしは、躍音君のことはよく知らない。部長をするぐらいだから、能力のある人なんだろうなとは思う。でも、少しいらっとしてしまうのは、どうしてなんだろう。
「優しいって言うのとは、ちょっと違うんじゃないですかねえ。この前コウ君がリン先輩にちょっかい出した時、鏡音先輩、コウ君をぐうの音も出なくなるぐらい言い負かしてましたし」
「あれは……わたしを心配してくれたから……」
「あたし思うんですけど、鏡音先輩ってかなりドライですよ。グミヤ先輩も同じようなこと、言ってましたけど」
「ドライ?」
 わたしの中のイメージとあわない。グミちゃん、何が言いたいんだろう。
「ドライというか、クールというか……ちょっと近づきがたいところがあるんですよね。やっぱり男はグミヤ先輩のように包容力がなくちゃ」
「グミちゃん……それってただ単に、グミちゃんがグミヤ君にベタ惚れだから、他の男はみんなレベル低く見えてるだけじゃない?」
 ミクちゃんはそう言って、グミちゃんのおでこをこつんと叩いた。
「ちなみに、グミちゃんから見てクオはどう?」
「ミクオ先輩? うーん……なんていうか、単純ですよね、あの先輩」
「……ほーらね。リンちゃん、グミちゃんのグミヤ君以外の男の子の話は、割り引いて聞いた方がいいわよ」
 ミクちゃんは悪戯っぽく笑った。
「ま、クオが単純なのは認めるけど。そこがクオのいいところなのよ。裏表がなくってね」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ロミオとシンデレラ 第五十一話【恋はハートが決めるもの】後編

 作中で二人が言及している『磁器のサラマンダー』ですが、『無伴奏ソナタ』という短編集に収録されています。
 しかし設定しといて言うのもなんですが、よくこんなの貸したなあ。いや、『磁器のサラマンダー』も『無伴奏ソナタ』もいい作品ではあるんですが、『王の食肉』なんて読んだら、トラウマになるとは思わなかったんだろうか……。
 ちなみに『王の食肉』ですが、初音ミクの歌『呪界』みたいな内容です。私、あの曲聞いた時、真っ先にこの小説が頭に浮かんだぐらいですが……(オチは違いますがね。多分、『王の食肉』の方が残酷)

『人形の家』は、ルーマー・ゴッデンという人が書いた作品で、リンが言及しているとおり童話です。イプセンの戯曲の方ではありません。
『ビロードうさぎ』は、ビアンコという人の作品です。『ビロードのうさぎ』『ベルベットうさぎのなみだ』『ビロードうさぎのなみだ』等、様々なタイトルで和訳されています。

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投稿日:2012/02/07 00:28:20

文字数:2,155文字

カテゴリ:小説

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