「カノさんってさ…悪いけどあんまり正直者には見えないよね」

メカクシ団のアジト。
ある程度エアコンの効いた室内には、向かい合うように置かれた二つのソファ。

そのうちの1つに座っているモモは、低い声で小さく言った。


――その言葉を聞き、向かいに座るモモの兄・シンタローは、神妙な顔つきで深く頷いた。
「だよな。行動とか発言からして陰湿な奴だと思――」

シンタローがまだ言い終わらないうちに、部屋の奥にある4つのドアのうちの1つが突如開いた。

「――キサラギちゃんにシンタロー君じゃない! 何のお話かな?」

「ひっ」
噂の本人の突然の登場に、シンタローはびくりと震えて声を上げる。

「まあ全部聞こえてたんだけどね…結構丸聞こえだよ?このドア」
ニコニコと笑いながら、カノはモモの隣に座る。

「まぁ…僕が正直者に見えないとか…しょうがないけど…?」

「…」

シンタローとモモは困惑した表情で、何も言えずにいる。
そんなことはお構いなしに、カノは続けた。

「――まぁ、嘘をつくのは得意なんだけどね」

「…そうなんですか?」
「――うん。本音はやっぱり、ちょっと苦手かな」

カノはぐっと背伸びをする。


「いつだって、ホントのハナシが一番嘘臭くってね」


その言葉の意味がよく理解できずに、モモとシンタローは顔を見合わせた。


「――じゃ、ちょっと話そっか」

「?――何の話、ですか?」
「僕のこと、話してあげるよ。…大丈夫、ネタ話だと思ってさ。一つだけ」
「どういうことだよ…?ネタ話って」
「なんかもう収まんないし…セトとマリーとキドが帰ってくるまでね」

カノの言うことのほとんどが理解できずに、二人はとたんに怪訝な顔つきになる。
そんなことにはなりふり構わず、彼は話し始めた。

「一言で言えば?変なとこ?かな。…まあ、悩みでもあるんだけどね」

「カノも悩むことなんてあるんだな」
「悩みない人間なんていないって。……あんまり詳しく覚えてないんだけど。…10歳くらいかな?怪物の声がしました。――さて!怪物は僕に何て言ったでしょう?」

――カノの突然の出題に、二人は焦った。
だが彼は質問に答えてもらう気はないようで、そのまま話を続けた。

「――『嘘をつき続けろ』…怪物は僕にそう言いました。 それ以来、僕は嘘つきになってしまいました。  もう、騙せない物や人も無くなって、すっかり『怪物』に成り果ててしまいました」

――訳の分からない話だったが、二人はなぜだか徐々に引き込まれていった。
でもそれと同時に、じわじわとわく彼への怯えのようなものを感じ始めていた。


「…ああ、この辺でマリーが泣いちゃったんだっけな… 怖がらなくていいのにさ。
大丈夫大丈夫、全部法螺話だから」

――法螺話、だなんて言われても、今の話を聞いてしまったら、それすらも嘘に思えてしまう。

「――ひたすらに騙して、自分自身をも騙して、それを更に隠していく。…とんでもない醜態でした。 でも僕はそんな自分を偽り、そっぽを向いて、構わず嘘を重ね続けました。そうして、僕は不気味な自分を、どんどんどんどん、欺いていったのです」

まるで他人事かのように喋るその姿も、嘘なのか?
二人はだんだんと膨れ上がる疑問を、じっと押さえ込んで、話を聞いていた。

「その後僕は、泣いてしまいそうな、消えてしまいそうな、夜が嘘が嫌いそうな、とある少年少女に出会いました。 一見、僕なんかとはまったく逆の人たちに見えるでしょ?でも、違いました。なんと、僕らには共通点があったのです。ちゃちなものだけど、僕らは?理想?を持っていました。 それも、もう同じような――」

「…その『理想』って――」
遮るように訊いたモモの言葉を、更にカノが遮る。
「――法螺話だって言ってるじゃん、やだなぁ。そんな真に受けないでよ」

『法螺話』なのに『教えられない』。
二人はこの話に大きな矛盾点を感じていたが、口には出せないでいた。
「――出会って、僕らは気づきました。単純にこの『理想』が叶ったとしてみても、一人ぼっちじゃあこの世は生きていけません」

「……――カノ。……それも嘘なのか?」
シンタローは、今までずっと抑えていた疑問を、躊躇うようにではあるが口に出した。


一瞬、間が空く。

そのたった一瞬でさえも、二人にとってはだいぶ長いものに感じられた。


「……いやいや、何言ってるのシンタロー君? 勿論本心だよ」
そう言ってニコリと笑うカノを信じてもいいのか、二人は更に困惑した。


「僕は、この心を、我が儘を、この嘘を、もっと聴いてほしい、と思いました。なんてったって「寂しい」だとか言ったって、どうしようもない。 そう、僕は変わらないのです。だから、ありのままの自分を聴いてもらうしかない。まぁ結局、そんな自分にも呆れてるんですがね」

一体何がおかしいのか、カノはニヤリと笑ってみせた。
『法螺話』だとは言ったって、二人は、この話が全て嘘には到底思えなかった。


「『あぁ、僕は汚い! もう嫌いだ!』 僕は心の中で叫びました。もう、自分でも呆れてしまうような僕なんて、もうだめだ、取り返しがつかない、もう救えないんじゃないか――…そう思いました。君たちもそうだよ?…多少は変わるだろうけど、決定的な本質は、何をしたって変わらない。 結局人間、変われるもんじゃないんだよ。……そうして僕は、そんな不気味な自分自身に、常々、溺れていってしまうのでした」

――二人は、彼が話している間、彼をじっと見ていた。
「どれが嘘?」――それを見抜こうと、努めて聞いていた。
でも結局、二人にはそんなことを見抜けるはずもなかった。


「…話はここで終わり。なんかちょっと喋りすぎちゃったね」

カノはヘラヘラと笑い、手を後頭部に回す。
「――まぁ、ただの『法螺話』だから、真に受けることないよ。どう理解するのは君たち次第。…じゃ、今日はここまでね」

「…今日は、ですか?」

「うん。次に合図が鳴ったら、もっと不思議なハナシをしてあげる」
ニコニコと笑いながら、カノはそう言った。

――合図?
また生まれた疑問は、勢いよく開いたドアの音にかき消されてしまった。


「――ただいま?、遅くなったっす!」
「あ、モモちゃん…!」
「夕飯作んないと…」




――バタンと閉じたドアの向こうに『夜』が広がっていたのを、二人はなんとなく感じていた。




The end.....

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説化】夜咄ディセイブ【解釈】

歌南です。 じん(自然の敵P)さんの「夜咄ディセイブ」の解釈的なカゲプロ小説です...

閲覧数:4,863

投稿日:2013/04/23 20:46:17

文字数:2,691文字

カテゴリ:小説

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