ちゅ、と音を立てて、可愛い唇についばまれる。
しなやかな腕は俺の首に回され、艶めかしい足は俺の無造作に投げ出されて、胸元に押しつけられている柔らかな感触は間違いなく女性特有のアレ。

だめだ。
視覚も触覚も嗅覚も、すべてを閉じろ。感じてはいけない。
今この瞬間だけは、彼女から与えられる刺激に鈍くなれ。

そう心に誓ったそばから唇をぺろりと舌で舐められた。

「っ、めーちゃ…」
「かいと、大好きー」

焦点が合わないほど近くにある、警戒心ゼロの笑顔。
それは普段の彼女からは想像も付かないほど、油断した姿で。

ああもう。
一体全体、どんな拷問ですかこれ。





************************************************





『彼女が酔っている時は決して手を出さない』
昔から、これが俺のモットーだった。
それは人としてのルールであり、男としてのプライドでもあって。
彼女の意識の範囲外でそういう行為をするのは、なんだか卑怯な気がしていた。

真面目でしっかり者で面倒見の良い『お姉ちゃん』である彼女は、ごく稀に、酒の力に負ける時がある。
元々彼女はアルコールに強い体質だし、酔ってしまうことなど本当にごくごく稀なので、俺自身忘れてしまいそうになっているのだが。
負けるとどうなるかというと…こうなる。今まさに、ジャストナウ。この状態だ。
普段の責任感から解放された結果なのかどうか知らないが、酔った彼女はやたら甘えたになり、スキンシップ過多になり、…ついでにキス魔になる。

「カイト、すきすき」
「はいはい、俺もだよ」
「気持ちがこもってなーい」
むー、という不満そうな声と共に柔らかな唇が再び押しつけられ、「はむはむ」とわざと声を出して俺の唇を甘噛みする。なにこれ可愛い死んじゃうとか思う気持ちを必死に抑え、赤ん坊をあやす要領で背中をぽんぽんと叩く。すると、彼女はそれに答えるように可愛らしい舌先をちょろりと突き出して、丁寧に俺の下唇をなぞった。
「…めーちゃん、それはいけません」
「どしてー?」
「どしてもです」
「ほうりつー?」
「法律です」
なにが楽しいのか、彼女はきゃっきゃと俺の胸を叩いて笑う。クッションの上に腰掛けた俺の上に腰掛けて、無邪気に笑うその顔が愛しい。けれど、同じくらい憎らしい。…まったく、人の気も知らないで。
かいと、と名前を呼ばれ、言ってるそばから柔らかな唇が再び押しつけられる。唾液とアルコールが混ざって湿った彼女の唇は、最早媚薬だ。ぬらぬらと光り、俺の唇と重なるとふにゅんと柔らかい感触がして、その度に目眩がする。
がっちりホールドされた首は逃げることすら許されず、唇に飽きると頬に、頬に飽きると瞼に、瞼に飽きると首筋にといった具合に所構わず彼女のキスが降ってくる。…正直に言えばもう俺自身はもうだいぶ前から準備万端臨戦態勢なわけだが、それを懸命に理性とプライドで押さえ込んでいる。
…彼女はものすごい破壊力を持った兵器だと思う。キス一つで俺の自由を奪うんだから。俺を壊したいならウィルスなんか必要ない。彼女がいれば簡単に俺は壊れてしまえる。

「あ」
「ん?」
「…ごめんねカイト、腰、いたいよね」
「…う、うん」
腰を浮かせた彼女の理性的な問いかけに酔いが醒めたのかと一瞬期待するが、なんてことはない。壁際まで移動させられ、さらに体重を預けられてキスをお見舞いされるだけだった。やめて勘弁してこれ以上その柔らかいの押しつけないで死んじゃう。
甘えた声であーん、と言われて条件反射で口を開けると、さっきまで唇で遊んでいた舌が口内に侵入してきた。
「っ…めっ…」
「んー…」
――それは、まずい。そのキスはまずい。
そのキスは、俺のいろんなものを引きちぎる。
甘い吐息と共に押し込まれてきた舌はなま暖かい。さっきまで冷えたワインを飲んでいたはずなのに、俺の温度を吸収しているのかそれは人肌程度に温もっていて、それがまた余計いやらしく感じられる。
「…っぅ」
「っはぁ…カイ、と…」
彼女の舌は生き物のように口内を丁寧にいたぶって、やがて俺の舌を探り当てた。
ちょんとつつかれて俺が反応したのが嬉しかったのか彼女は妖艶に微笑んで、そっと長い睫毛を伏せる。くちゅりと響く水音が耳を犯す。混ざり合う唾液と溶け合う温度が頭を痺れさせて、ついでに下半身まで痺れた。

…普段は俺からしないと決して応えてくれないのに、なんでこんな時ばっかり。しかも巧いし。

「め、ちゃん、も、やめ」
「ら、んで?」
「…がまん、できな、くなる」

俺の体を跨ぐように開かれた足からは白い太腿が露で目をどこに置いていいのか分からないし、舌先を絡めとられた俺は言葉も呼吸すらも彼女の意のまま。ぎっちぎちに張り詰めた理性の糸は文字通りもうぶっちぎり寸前だ。

「…がまん?」
ふと自由になった呼吸。目の前にあるのはきょとんとした表情。
初めて聞く言葉のように繰り返して、彼女は首を傾げる。
「がまん、するの?」
「…え?」
なにその質問。どういう意味なの。っていうかその仕草ハイパー可愛い。違うそうじゃなくって。
「…しなくていいよ」
「……」
「そんなの、しなくていいよ」
「……」
「ね」
彼女が笑った。
それはもう、頭が破裂するかと思うくらい可愛い笑顔で。


こてん、と小さな頭が肩に乗る。
鼻先をくすぐる彼女の髪の香り。
完全に密着した体から伝わる柔らかさ。

 ああもうだめ。
 俺、よく頑張ったと思います、神様。
 …もうゴールしても、いいよね?
 …いいよね!

「めー…!」
「…すぅ…」
「…ちゃん?」

がば、と強く彼女を抱きしめた、その時。
嫌な予感しかしなかった。恐る恐るその顔を覗きこむ、までもない。
…耳元で聞こえたのは、それはもう、たいそう穏やかな寝息だった。





************************************************





「…こうなると思ったんだよなぁ…」
くてんと力の抜けた肢体を抱き上げ、よろよろと彼女を部屋へ運ぶ。別に彼女が重たいわけではない。心の底から俺がげんなりしているだけだ。

こうなることは分かっていた。何故なら、過去に3回同じことを経験しているから。
『彼女が酔っている時は決して手を出さない』なんて偉そうなモットーを掲げてはいるが、甘えた彼女におねだりされれば理性なんてあっという間にぶっちぎられてしまうのがオチ。でも、今回はものすごく耐えた方だ。過去新記録だと言える。
…耐えたのに結局報われなかったので、一番傷も深いんだけど。

重いため息をついて、彼女の部屋の扉をそっと蹴り開けた。
相変わらず整然と片付いた部屋。彼女を静かにベッドに横たえて、毛布を被せる。


何度も一緒に酒を飲んでるのに一度も酔ったことがない俺を不思議に思ったのだろう。
少し前に、酒が強いのか、彼女に聞かれたことがある。
その問いに単純に答えるならば、「NO」だ。俺は別段酒に強いわけではない。ただ少し顔に出にくい性質なだけで、飲み比べで彼女の真っ向勝負をしたなら相当早い段階で俺はリタイアしてしまうだろう。では彼女の前で酔ったことがない理由は。
…なんてことはない。『酔った彼女を他の奴に見せたくない』。それだけだ。
だって、普段からあんなに可愛いのに。酒を飲んで甘えたになっている彼女なんて、大量殺戮兵器でしかない。
彼女が俺以外に甘えるのが、触れるのが、…キスをするのが、許せない。例えそれが可愛い妹弟であっても。ましてや他の野郎が彼女を視界に入れるなんて万死に値する。


むにゃむにゃとなにやら寝言を呟いている彼女の髪を撫でる。…人の気も知らないで。
「可愛い寝顔しちゃって…」
「…かいと」
呟くと、ふと彼女の口が開く。目が覚めたのだろうか。
すると。
「…だいすき」

…へにゃ、と微笑んだ顔が幸せそうで。盛大に俺の体から力が抜けていった。

(まったく本当に、人の気も知らないで。この人は)
指先で唇をなぞる。幾度となく俺に重なったそれはやはりどこで触れても柔らかくて、簡単に俺を夢中にさせた。
ああほら、もう指だけじゃ物足りない。
「…次は、酔ってないときに…ね?」
そっと顔を近づけ、ワインと混ざった彼女の甘い香りを吸い込んで。

俺は、その薄紅に、唇を重ねた。


 おやすみ、めーちゃん。
 ――願わくば、夢の中でも俺とキスを。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】夢の中でも

Pixivにおいての企画参加作品です。
カイメイがちゅーすればイイ!という素敵な素敵なものでした(*´ω`*)

!ご注意!
◆もちろんカイメイ
◆酔い攻めーちゃん
◆でら甘
◆これ【http://piapro.jp/t/KLEM】から続いているような
◆R-18ではありませんがちゅっちゅしてますのでワンクッション

閲覧数:1,648

投稿日:2011/05/07 23:36:45

文字数:3,505文字

カテゴリ:小説

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  • マーブリング

    マーブリング

    ご意見・ご感想

    ハイパー可愛いめーちゃんがいると聞いて o(≧▽≦)o 兄さんとともにお預けされた気分ですw
    連投おつかれさまです。キョン子さんのカイメイは心のオアシスです。
    2828させていただきありがとうございます!

    2011/05/08 01:53:19

    • キョン子

      キョン子

      >マーブリング様
      平成23年5月はにいさんめいこ月間ですからね!(*´ω`*)キャッ
      可能な限りカイメイを叫びたくて連投です、すみません!
      おおおおおおおおおおオアシスなんてそんなもうほんといいんですかそんな恐れ多いことばっかり言っていただいて…ブワッありがとうございますありがとうございます嬉しいです…!!
      いつかお預けじゃない時が来ることをカイトのために祈ってやってくださいww

      2011/05/09 00:58:28

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