「わぁ、メイちゃんすっごい綺麗!!」
「めーくん、花嫁さんだ!」
振り返ると、いつの間にか控え室の入り口にグミちゃんといろはちゃんが来ていた。
きらきらと輝かせた目。そういえば前に妹たちともこんな場面があったなと苦笑する。
「んふっふー、どうよ、あたしのメイクテク」
「すっごいすっごい!りり天才!」
「リリくんの技術で、めーくんの素材が余すところなく生かされてるね!写真撮ったら売れそう!」
「そーなのメイコってば超肌綺麗だし睫毛長いし。普段薄化粧なのがもったいないよ」
PV撮りや写真撮影でしっかりとしたメイクを施されることは勿論ある。
けれど、普段生活している時はほとんどすっぴんに近いメイクしかしないので、リリィちゃんはそれがお冠らしい。「メイコは綺麗なんだから、もっとそれを見せていかなきゃ!」と後輩に熱弁されている図はどう考えてもシュールで、すみませんと思わず笑うと更に叱られた。
控え室の鏡に映っている自分は、純白のウェディングドレスを身に着けている。
鎖骨を綺麗に魅せるよう沿ったレースのライン、大振りなスパンコールが散りばめられた胸元、きゅっと絞られた腰には大きなリボン。そしてそこからAラインに広がるスカート部分には繊細なフリルがふんだんにあしらわれている。用意されたドレスの中からリリィちゃんが吟味に吟味を重ねて選んだ一品だ。細かい細工が施された真珠のネックレスとピアスは対になっていて、アップにした髪にも真珠のバレッタ。これにベールを被るらしい。
「…本当に私でよかったのかしら」
「まーた言ってる。いい加減観念しなって」
「だって、これあの子の新曲のPVなのよ?ファンはミクのドレス姿が見たいんじゃ…」
「ミクは恋人たちを幸せにする天使の役なんでしょ?天使がドレス着ててどうすんの」
「…そうだけど…」
「あ、そうそうみくみくから伝言だよー、『おねえちゃんのドレス姿楽しみにしてるね』って」
「主役がそう言ってるんだからいいじゃないか、ボクも牧師役がんばるからさっ」
「……」
それぞれの説得に頷くしか出来なくて、きゃいきゃいと盛り上がる3人に気付かれないように私はそっとため息をついた。
***************************
「おねえちゃんおにいちゃん、お願い!ふたり、結婚して!」
仕事から戻って手洗いうがいも着替えもしないうちに、妹がそんな突拍子もないお願いをしてきたのは、私とカイトが夕飯の準備をしている時だった。私は作っていたハンバーグを焦がし、カイトは持っていたお皿を落としかけて、ついでにリビングでゲームをしていたレンは飲んでいたコーラを吹き出した。
「なっ…に言って…!?」
「…き、急にどうしたの、ミク」
あたふたする私たちをミクは真剣な顔で見つめ、実はね、と理由を明かしてくれた。
ミクの新曲は『恋人たちを見守る天使の歌』だという。
ちょっとおっちょこちょいなその天使は失敗も多いけれど、少しずつ皆を幸せにしていき、最後はあるカップルの結婚式で誓いのキスを見届けるストーリー。デモテープを聞かせてもらったけれど、ミクらしい、ロマンティックな可愛い曲だった。
そして、そのPVのカップルを私とカイトに演じてもらいたい、とミクは言った。
エキストラの人を呼ぶことも考えたけれど、やっぱりよく知ってる二人なら私も演じやすいから、と。
「うん、いいよ」
戸惑う私をよそに隣であっさり快諾したのはカイトだ。
「ちょ、ちょっと!なに勝手に…!」
「いいじゃない、可愛い妹のお願いだよ」
「そ、そうだけど…」
「エキストラ呼ぶのもお金掛かるでしょ。その点俺たちなら経費ナシだし、マスターの懐も痛めないよ」
「…っ…」
こいつ、マスターの名を出すとか狡猾な手を。
ぐっと言葉に詰まる。それにしたって、結婚式ならまだしも、人前でキスだなんて。
「仕事だよ、めーちゃん」
「…わかってるわよ」
「それに、この間めーちゃんがっくんとキスシーンあったよね」
「あれはフリだけだったって何度も説明っ…」
「うん、分かってる。じゃあ俺ともフリなら出来るよね?」
にこ、と綺麗な微笑みを返されて、ぐぅの音も出なくなってしまった。
――そして、今に至る。
慣れない服、見慣れない自分の顔。ここまで来てしまったら、今更あとには引けない。
しかも今回はうちだけではなく、お隣さんたちも総動員での撮影だ。ミクは天使、リンとレンも新米天使を演じて、がくぽとルカ、キヨテルさんとミキちゃんはそれぞれ天使によって結ばれるカップルの役、リュウトくんとユキちゃんはリングボーイとベールガール、いろはちゃんが牧師…ならぬシスターの役。そしてずっとグミちゃんとリリィちゃんがマスターの指示を受け動く演出補佐だ。まさかこんな大掛かりなPVで、私とカイトが新郎新婦になるなんて。
…イヤ、というわけではない。
けれど、恥ずかしいと思っているのも事実。
お仕事でカイトとラブシーンを演じるのは初めてではないけれど、今までは密着こそすれキスはしなかったし、しかもウェディングドレスでタキシードを着たカイトとバージンロードを歩く日が来るとは思いもしなかった。
「めぇ姉、入っていーい?」
コンコン、とノックの音がして返事をすると、ひょこんと顔を出したのは天使の格好をしたリンとレンだった。真っ白なキャミソールドレスと、同じく真っ白なシャツにサスペンダーで吊った半ズボン姿の可愛らしさに思わず微笑むと、それよりも早くリンが黄色い歓声を上げる。
「めぇ姉、超きれい!」
「ありがと」
「すごいすごい!ほら、レンもなんか言いなよ」
「…えーと、綺麗、です」
「ありがとレン。レンも可愛いわよ」
それ微妙、とレンは少し不満そうに唇を尖らせる。確かに思春期の少年にこの格好は恥ずかしいかもしれない。本番では更にコレに羽根をつけるとのことなので、さぞかし可愛らしい新米天使になることだろう。
「あのね、もうすぐ機材のセッティングが終わるから、呼んで来なさいってマスターが」
「…マスター、なんか言ってた?」
「ううん?なんにも」
「…そう」
この格好でマスターに会うのは、ほんの少し怖い。
私とカイトに結婚式をしてほしいと言い出したのはミクで、マスターは最初それに難色を示していたと伝え聞いた。「公私混同になるのはちょっと」とヘビーな煙草を吹かすマスターをミクが説得して、ここに至ったという。
こんな大袈裟な格好をして、大袈裟なメイクまでしているのだ。今更逃げたりはしないけれど、顔を合わせたマスターに苦い顔をされるのかと思うとちょっと憂鬱な気持ちになる。
「じゃあ行こっか、レン、先導よろしく」
「はいよ。…メイコ姉、裾踏ん付けないようにな」
後ろに回ったリンがドレスの裾を持ち上げて、ブーケを持ったレンが控え室の扉を開けた。
すると、そこにはユキちゃんとリュウトくんがこちらを窺うように立っていて、突然開いた扉にぴゃあと二人で悲鳴を上げた。
「お、なんだ、おまえらも来たのか」
「めいちゃんのドレス姿、見てみたくって…」
「ご、ごめんなさい…」
「別に怒ってねーよ。一緒に行こうぜ」
レンに頭を撫でられ、二人は嬉しそうに笑う。後ろに大きなリボンがついたピンクのワンピースのユキちゃんと、蝶ネクタイに白いシャツ、レンよりも短い半ズボンを履いたリュウトくん。可愛い二人が、私を見上げて目を真ん丸にする。
「メイコちゃん、すっごい!お嫁さん!」
「メイコねーね、かわいい」
「ありがと」
口々に上がる幼い賞賛の言葉が照れくさい。
あたしのおねえちゃんだかんね、とリンが大人気なく言うと、俺の姉ちゃんでもあるけど、とレンが応酬して、めいちゃんはみんなのおねえちゃんだもん!とユキちゃんが頬を膨らまし、リュウトくんがうんうんと頷く。スタジオまで続く最初のバージンロードは小さな妹弟たちのおかげで賑やかなものになった。
【カイメイ】サムシング・ブルー
.メイコ?メイコならカイトの隣で寝てるよ。
カイメイウェディングというpixivでの素敵な企画に参加させていただきました!
!ご注意!
◆いつも通りカイメイ。めーちゃんが愛されてればいい病を最近またこじらせました
◆捏造マスターはじめオールキャラ出演
◆建築知識皆無
◆いろはちゃんの台詞(「愛は~~」とか宣誓とか)は【http://www.seiyaku.com/seiyaku/jp/western-wedding.html】を参照
◆そういえばPVなんだから台詞いらないじゃんとめーちゃんが気がつくのはこの後です。
◆たぶん真の黒幕はミクw
◆ピアプロ版のみオマケつき
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ご意見・ご感想
文月玲
ご意見・ご感想
新作うpおめでとうございます!!何時も作品を追いかけて貰っていますが、今回のカイメイも2828しながら読ませていただきました!!メイコさんとマスターの絡みもとてもにやけました!!それに他のボカロ達の絡みもおもしろかったです!
2011/06/09 20:40:43
キョン子
>文月零様
追っていただいてるなんてなんて光栄な…!!ありがとうございますありがとうございます、嬉しいです!///
捏造マスターは書くたびに受け入れてもらえないんじゃないかと心配なのですが、お優しいお言葉に安心致しました…(´ω`*)他のボカロたちもだいぶキャラクター捏造しておりますが、こんな子たちでよろしければこれからも頑張ります!
また遊びに来てくださいノシ
2011/06/10 22:22:37