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リビングから聞こえる明るい笑い声は、少女特有の少し甘くて高い音色。
知らず知らずのうちに、カイトの口元に笑みが浮かんでいた。
扉を開けると、二人がこちらを見た。
「ミク、リン、レン、そろそろ出かける時間じゃないの?」
二人は身支度をすませ、リビングのフローリングの床に直に座って話しをしていた。
「まだ迎えの車が来てないの。そろそろ来ると思うんだけど」
「リン達の方も」
二人がそろって応える。
「道、混んでるんじゃない?」
ソファに座ったレンが、携帯ゲーム機を操作しながら続けた。
「カイト兄は?今から?」
「めーちゃんの支度が終わり次第ね」
今日のカイトのスケジュールは、メイコとのデュエットソングの収録。
その後は、別々のマスターの所での打ち合わせ。
最初の仕事先には、カイトの運転で行く予定だ。
「同じスタジオだったら、リンちゃん達も私も一緒に乗せていってもらえたのにね」
「うん」
カイトの愛車は六人乗りのファミリーカーなので、場所が同じなら家族全員乗っていける。
というよりも、家族みんなで乗れるように、カイトはファミリーカーを選んだ。
「ミクは今日も遅くなるよね」
カイトの問いかけに、ミクが頷く。
「リン達は、夕方には戻ってこられるよ」
聞く前にリンが応える。
「そっか。俺もめーちゃんもちょっと遅くなるし、ルカもPV収録で遅くなりそうだから、晩ご飯は二人だけになるけど大丈夫?」
ソファに座るレンを見た。
「大丈夫。ちゃんと食べるから」
ゲーム機から目を離さずに、レンが応えた。
「ねえねえ、カイト兄」
リンが立ち上がって、カイトのコートを引っ張った。
「なに?」
「今日のルカちゃんのPV撮り、がっくんとでしょ」
「そうだけど。お昼前に、がっくんが迎えに来るはずだよ」
「昨日の二人、すごかったね!」
リンの言葉に、ミクも頷く。
「昨日の二人? ……ああ」
思い当たった。
昨日はルカとメイコが飲んで帰って来た。
ルカはすっかり悪酔いしてしまい、三階の自室まで自力で上がれそうにない。
そこでカイトは隣のがくぽを呼んだ。
勿論カイトでも、ルカを抱き上げて部屋まで運ぶことも出来るが、ルカに恋い焦がれているがくぽに、この美味しいチャンスを譲ったのだ。
「リン、がっくんが上がってきたのを見てたのかい?」
「うん、ミク姉も、レンも見てたよ。がっくん格好良かったね。ルカちゃん抱っこして、王子様とお姫様みたいだった」
「うんうん。素敵だった。お似合いだよね、あの二人」
ミクも嬉しそうに言う。
「そうだね」
カイトも頷く。
類い希な美貌と、非の打ち所のない姿形を持つ二人のこと。
確かに一幅の絵画のような美しさだった。
何よりもルカを宝物のように大事に抱きしめるがくぽは、男のカイトから見ても、頼りになる逞しい存在に映った。
「でも、ルカにその事、直接言ったら駄目だよ。照れるからね」
「はーい」
「分かってるよ。でもルカちゃんいいなー。お姫様抱っこ」
「リン、お姫様抱っこに憧れてるの?」
「うん! 女の子ならみんな憧れるよ」
リンの言葉に、ミクも頷いた。
まあ、あんな、お姫様抱っこの決定版のような二人を見せられては、女の子の二人が憧れるのも無理はないだろう。
カイトのお姫様抱っこのイメージは、酔って玄関先で寝てしまったメイコの運搬手段でしかない。
「カイト兄もお姫様抱っこできるよね。メイコ姉抱っこしてたよね」
リンが目を輝かせて聞いてくる。
「めーちゃんが酔っ払った時にね」
夢みる女の子に対して、あまりにも夢も希望もない応え。
「レンは? レンは、お姫様抱っこ出来る?」
黙ってゲーム機を操作できるレンを、リンが覗き込んだ。
「はぁ?」
顔を上げて、ゲーム機のスイッチを切る。
「なんだそれ?」
「だーかーら、お姫様抱っこ! 昨日のがっくんみたいなの!」
「ああ……」
レンは立ち上がるとリンの側に行き、少し屈んだ。
「えっ?!」
リンの体が傾き、次の瞬間には、レンが見事にリンを抱きかかえていた。
「こんなのか?」
無愛想に尋ねるレン。
「おおー」
ミクが感心したように声を上げた。
「レ、レン?!」
突然のことにリンは顔を赤くして、軽くパニック状態。
「下ろすぞ」
と言うと同時にレンは、リンの膝裏に入れていた腕を抜いた。
「ひゃっ!」
再びの、レンのいきなり行動に、リンが小さな悲鳴を上げる。
「もう! レン! 優しくない!」
「……リン、お前、バッグ部屋に忘れてるんじゃないか?」
「へっ?!」
リンが周りを見回す。
「あーー、ホントだ!」
「早く取って来いよ。迎えが来るぜ」
「うん!」
レンの見事なはぐらかしに、すっかり引っかかったリンが、リビングを飛び出した。
その後を追うように、玄関の呼び鈴が鳴った。
「あっ、お迎えかな?」
ミクがリビングを出た。
「やるな、レン」
カイトが意味ありげに微笑んでレンを見た。
レンは俯いて、眉を寄せている。
「レン?」
「俺……無理だ」
レンはそれだけ言うと、唇をかみしめた。
「なにが?」
「殿みたいに、お姫様抱っこで三階まで女の子運ぶの無理。さっきみたいにちょっとだけなら、なんとか格好ついたけど……」
なんか悔しい……。
言ってしまうと、余計に悔しくなりそうなので、レンは言葉を飲み込んだ。
レンの言葉に、カイトが少しだけ目を伏せる。
「そっか……」
そう言ってレンの頭に手を置いた。
「カイト兄……」
レンを見つめるカイトの目がとても優しい。
カイトは黙って頷いた。それ以上何も言わなかった。
慰めも、励ましも聞きたくない。
ただ黙って頷いてくれる兄が、今のレンにはありがたかった。
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ゆるりー
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