「こ……この子があの巡音君だというのかね……?」
「信じたくないだろうけど……まぁ、その通りよ」
呆れ返ったようなメイコの言葉に目を丸くしているのは、ルカの上司・橋本喬太郎捜査一課課長だ。
メイコの横で、幼女となったルカが首をかしげている。
「めーちゃーん、このおじさん誰ー?」
「おじっ……!!?」
天真爛漫なルカの言葉に絶句する橋本。周りの刑事たちは必死に笑いをこらえている。
「うん凄い刑事さんだから覚えておくといいわよー(棒)」
「はーい!」
ポンポンとルカの頭を軽くなでた後、申し訳なさそうな顔でメイコが橋本に耳打ちした。
「……ごめんなさいね。ルカ、大人の姿での記憶全部吹っ飛んでるみたいで……とりあえず、元の姿に戻るまでは休職ってことでお願い」
「う、うむ……わかった……」
「それじゃ、失礼します。ほらルカ~、行くわよ~」
「おじさんばいばーい!」
楽しげに手を振るルカがメイコに連れられ廊下に出ていった後、捜査一課の部屋で大爆笑が起きたことは言うまでもない。
「お、めーちゃん!」
「お待たせー、ミク、リン、レン、グミ、それにバカイト」
「バカイトはやめてくれないかな!!?」
警察署の外で待っていたミク達五人に声をかけたメイコは、軽く首を鳴らしながら再び歩き出した。
「さて、次はどこ行こうかしら……」
「大病院とか……あと、ネルのお店とかじゃない?」
「ネルの店か……確かに最近よく厄介になってたみたいだし、行っとくのもいいかもね」
「ネルお姉ちゃんがどうかしたの?」
「……~~~~っ!!!! な、何でもないわよっ……ぷくくっ」
「?」
ルカに『ネルお姉ちゃん』などと呼ばれた場合のネルの表情を思い浮かべ、必死に笑いをこらえるメイコ。いったいどうなってしまうだろうか。
「それにしても……結構な戦力ダウンになっちゃうかなぁ……」
ミクがぼそりとメイコに耳打ちすると、メイコは面倒そうな表情で頭を掻いた。
「まぁ確かにルカの力が使えなくなるのは厳しいけど……相手とて結構なダメージを受けてたし、それに今ルカがこんなことになってるってばれてるとは限んないわよ」
「……………でも相手には、いろはがいるわ」
不意に響いた声にはっとするメイコ。厳しい表情のグミが隣を歩いていた。小さなルカの手を引く左手は楽しそうながらも、その眼には鋭い光が宿っている。
「……いろはは斥候のために生み出されたといっても過言じゃない。いつ情報を抜き取られているかわかったものじゃない。この状況も、手に取るようにわかっているのかもしれないよ」
「……!」
そうだとすると、状況は少しばかり厳しくなる。今のところ、ドラゴン体になったリュウトを殺さずかつあっさりと落とせるのはルカだけなのだ。
「……メイコ姐」
「! ミク……」
顔を上げると、ミクの決意を秘めた表情が目に飛び込んできた。
「……ルカ姉がやれないなら私が止める。私がみんなを守るから」
「……! ……言うじゃないの」
どことなく、心が軽くなったメイコ。軽く笑って、ミクの頭をわしわしとなでつけた。
「あたた!?」
「あんたこそ、大見得切るなら『Append&Extend』ちゃんと使いこなしなさいよね?」
「えへへ……任せといてよ!!」
そう言って明るく笑うミク。
―――――と、その時である。
(―――――!!?)
ミクの耳に、強い音波が飛び込んできた。
明らかな殺意を込めた音波が。
周りは気づいていないのか、まるで気にしていない。
しかしミクの耳には、確かに強い殺意のこもった音波が鳴り響いていた。
「……ミク?」
「……あ、ごめんメイコ姐、私今日『新しい曲を作ったから歌ってみてほしい』って依頼が来てたんだった!!」
「え、そんな依頼の電話うちに来てた?」
「私のケータイに来てたの。ゴメン、ちょっと行ってくるね!!」
「あ、ちょっ……!」
メイコが止める間もなく、ミクはビルの上を飛んで行ってしまった。
「……ミクお姉ちゃん……?」
軽やかに飛び去っていくミクを、ルカがつぶらな瞳で見つめていた。
「………………ハッ!!」
途中まで町の方へ飛んでいたミクが、急に方向転換して町はずれの方向へと跳んだ。
そのままの勢いで地上に降りたミクは猛スピードで町はずれの丘に向かって走っていく。
そして――――――――――
《―――――ズザザッ》
急ブレーキをかけたそこは―――――一面草原。周りにところどころ、ミクの腰ぐらいまでの高さの草の塊が繁茂している。
そこですぅ……と息を吸って、凄みを利かせた声で『二人』を呼んだ。
「……リュウト。いろは。そこにいるんでしょ。でできなさい。出てこないならこちらから行くわよ」
一瞬ミクの前後の草むらが揺れ、そこから二人の人影が立ち上がった。―――――いろはとリュウトだ。
「……さすがミクさん。よく僕らがここにいるってわかったね」
「あんな殺気駄々漏れの音波ぶつけといてよく言うよ……あれで私が気付かないとでも思ってたのかしら?」
「はは……」
苦笑いを浮かべたリュウトだったが―――――彼の言葉の真意は別にあった。
(……あの音波は気づかれて当り前さ。もともとミクさんだけをおびき寄せるために、いろはちゃんが調整して撃ったんだから……)
(問題はその後……! あたしたちは奇襲をかけてミクさんを潰すつもりだった……倒すとまで行かずとも、痛手を負わせるつもりで、ここに気配を消して潜んでいたのに……! それをあっさりと見破るなんて……!!)
「ミクさん……やはりあなたは真っ先に倒さなければならない相手だ。あなたが健在でいる限り、僕らに平和はない……!! 卑怯であろうと、ここで二人がかりで倒させてもらうっ!!!」
叫んだリュウトの両腕が―――――ドラゴン体の時のそれと全く同じ形へと変化し、背中からリュウトの身長の3倍近い大きさの翼が展開する。
「へぇ? 器用なことができるようになったのね。もうほぼ使いこなしてるんだ……」
「余裕こいてると死ぬよ? 今の僕らは今までとは違うんだ……!!」
じりじりと攻め寄り、プレッシャーをかけていくリュウト。
だがしかしミクは―――――笑っていた。
そして大きく息を吸って……目を見開いた。
『EXTENDっ!!!!!』
《―――――――――――――――――――――――――ドウッ!!!!!!!》
『う……わっ!!?』
突如ミクから放たれた光の柱。その余剰威力が、リュウトといろはに押しかかる。
思わず目をつぶった二人が、風が収まり再び目を開いたときには―――――
―――――白いスーツを纏った、『Miku Append』の姿がそこにあった。
「……さっきの言葉、そっくりお返しするよ、リュウト」
「……!!」
ミクの足が、音もなく地面から離れる。
宙に浮いたその姿は―――――まるで罪人にジャッジを下す裁判官の如く。
そして―――――自信と決意が溢れ出ていた。
「今の私は昨日までの私とは違う……!! 町の皆に迷惑かけた罰と、ルカ姉の『仇』……二つまとめてぶっつけてやるんだからっ!!!!」
仔猫と竜と子ルカの暴走 Ⅲ~ミクの決意~
孤軍奮闘。
こんにちはTurndogです。
ホントは強いのにどこか頼りなさのあったミクさんがこんなにもカッコよく!!
本気のミクさんはレベルが違うぜ!!
そして安定のルカちゃん。ウフフルカちゃん可愛いよルカちゃん(自重
グミちゃんも一緒に事情説明しに行けばいいのにね、あすこの刑事なんだから。
そしたら爆笑できたのにww
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