「僕がいない明日も、君は笑っていて」
―――ねぇ、レン。
あの雪の降っていた夜を、私は決して忘れないよ。
ふと、空を見上げた。
青い空を、自分の吐いた白い息が昇ってゆく。それを見てから、リンは
そっと自分の左隣に視線を移す。そして、誰もいないことを改めて確認し、
寂しげに目を伏せた。
――去年の今頃だったら…。
いつも、左隣には『彼』がいた。自分によく似た顔、しぐさ…。どんなことがあっても、彼はいつも笑いながら隣にいてくれた。
リンは胸に鈍い痛みを感じた。軽く胸を押さえた後、リンはひとりで歩いていった。
小高い丘の上に立ち、リンは桜の幹をそっと撫でる。大樹は今は雪で白くなっているが、春になれば満開の花を咲かせた。
「また春になったら、ここで一緒に桜を見ようね」
そう、約束した。
「約束したのに、春は私ひとりで見ることになっちゃうね……。…レンの馬鹿」
ぽつりと呟く。
でも、誰かが返事をしてくれるわけではなくて。
リンはしばらく樹を見上げた後、やがて帰路につき、誰もいない家へと帰って行く。それがいつのまにか習慣となっていた。
リンは、春に咲く花が好きだった。夏の澄み渡る青空が好きだった。秋の紅葉で彩られた山が、冬の白くて綺麗な雪景色が好きだった。
そして、そんなリンを隣で微笑みながら見守っていたレンが大好きだった。
『綺麗だね~!!雪が積もって、樹が白い花を咲かせてるみたい!!』
真っ白な世界を喜んで飛び跳ねていた自分を見つめる、優しい眼差し。
『ったく。さっきまで、あんなに寒い寒いって言ってたくせに…』
呆れたように言うレンに舌を出す。
『うるさいなー。レンのバカーっ!』
そして、ふたりで顔を見合わせて笑う。それだけで幸せだった。
今でも、目を閉じればあの笑顔が鮮明に蘇ってくる。それでも、その笑顔はただの記憶であって、リンは現実でレンと笑いあうことはもうできないのだ。
年が明ける少し前の、雪が降る夜。レンは動かなくなった。
泣きじゃくるリンの頭を優しく撫でて、ふっと微笑む。
リンはレンの右手を握る。レンの右手から完全に温かさが消える少し前に言った、レンの最期の言葉。
『ねぇ、リン。たとえ僕がいない明日でも、君は笑っていて……』
リンは窓の外へ視線を移す。
外の雪は溶け、もうすぐ春が来ることを予感させた。
リンは青空で輝く太陽の光に目を細め、優しげに微笑んだ。
あなたがいない世界で【小説版】
+ゆう+です。初の小説投稿!!
今回は、初投稿した歌詞もどき
『あなたがいない世界で』http://piapro.jp/content/rg0tl9749dtjj5ocを小説にしてみました。
追伸:レン視点できました
『君がいる世界【小説版】』→http://piapro.jp/content/y6xghaad9gr8adaw
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ご意見・ご感想
ayuu
ご意見・ご感想
初めまして、ayuuといいます^^
拝読させていただきましたっ!
私、こういう話大好きなんですよ♪悲しいけれど、読んでいると心が温かくなりますね。
ブクマいただきましたっ☆
ではでは~♪
2010/02/07 13:02:03
+ゆう+
>ayuuさん
メッセージありがとうございます!!やっぱり、誰かからのご感想は嬉しいです…☆
来週にはこの小説のレンver.『君がいる世界』も投稿いたします。ぜひご覧下さい♪
2010/02/07 13:38:05