第二章 ミルドガルド1805 パート8

 メイコとアレク、そしてリーンがテーブルを挟んで向かい合うように座ると、メイコが状況を整理するわ、と前置きをして一通りの話を語りだした。即ち、リンが生きていること。今リンはルータオで静かに暮らしていること。そしてリーンが二百年後の未来から来た人物であるということ。簡単に要訳するとその様な内容の情報をメイコは簡潔に、そして過不足なくアレクに伝えて行った。テーブルの反対側で交わされるメイコとアレクの会話を眺めながら、リーンはなんとなくこの場所にいてはいけない様な気分に陥った。なんと表現すればいいのだろうか。まるで長年連れ添った夫婦の様にしっくりとしているのに、妙な所で付き合い始めたばかりの恋人同士の様な初々しさを見せている。どうやらこの男性がメイコの夫で、民主主義の申し子と言われたアレクらしいとリーンは考える。後世の歴史には軍人としてよりも思想家としての印象が強く残されているものだから、もっと線の細い人物を想像していたのだが、実物は相当に筋肉質で、体格もいい。相当の腕前の剣士なのだろうな、とリーンが考えていると、アレクが全ての話を纏める様にこう言った。
 「それで、明日からリーン殿をリン様に会わせる為に旅にでるということですね。」
 「そうよ。最短でも二週間はゴールデンシティを空けることになるわ。」
 メイコがそう答えた。
 「成程、では私はメイコ様の留守中に異変が起こらぬか、目を光らせております。」
 アレクがそう言うと、メイコは安心したようにこう言った。
 「ごめんね、アレク。」
 「いいえ。ミルドガルド帝国は未だ信用が置けませんから。」
 「信用が置けない?」
 リーンはそこで、一体何のことだろうと考えてそう口を挟んだ。歴史書によればメイコとレンが蜂起するのはこれから数年先の話になるはずだった。その間にミルドガルド帝国とこの二人に何が起こったのかは流石に学習していなかったが、或いはこの段階からお互いの不審感が存在していたのだろうか。そう考えたリーンに向かって、メイコが丁寧な口調でこう言った。
 「何しろ我々は元を正せば黄の国の重鎮です。ミルドガルド帝国にしてみたらいつ暴発するか分からない危険分子といったところでしょう。勿論、我々もいつ排除されるか分からないという不安がありますが。」
 「排除?」
 リーンが再びそう訊ねると、今度はアレクが口を開いた。男性らしい力強さを感じる声だった。
 「ミルドガルド帝国でも、特にゴールデンシティ総督であるシューマッハは油断の出来ない男です。事実、先程も我々は尾行されておりました。おそらくシューマッハの手の者でしょう。」
 「尾行?」
 「私が突然地方の視察に行くと行ったものですから、何事かを探ろうと言う腹積もりなのかも知れません。」
 それに対しては、アレクに代わってメイコが答えた。
 「大丈夫なの?」
 リーンはその言葉に不安を感じてそう言った。そんな危険な人物に後を付けられた時、一番危険な位置にいるのはリンと、そしてリンに瓜二つだと言われているリーンの二人になるのではないか、と考えたのである。だが、その言葉に対してメイコはリーンを安心させるように頷くと、優しい声でこう言った。
 「大丈夫です、リーン殿。先程の尾行者は雑な腕前の者でした。仮にルータオまで尾行されたとしても、撒くことは容易いでしょう。」
 「そう・・。」
 そのメイコの自信にリーンはなんとない不安を感じたが、だが後の初代大統領の言葉に嘘があるとも思えない。メイコは軍人としても相当に優秀であったという話は良く耳にしているし、ここはメイコに任せた方がいいだろう、とリーンは考えた。
 「では、そろそろ食事に致しましょう。私はお茶でも。」
 メイコがそう言ってテーブルを立ち上がりかけた時、リーンは思わず不審感に満ちた瞳でメイコの顔を見つめた。条件反射の様なものだ。もう一度あの苦いだけの紅茶を飲む気にはとてもならない。その視線にメイコは僅かに赤面すると、言葉を訂正するように、少し小さな声でこう言った。
 「・・私ではなく、アレクに淹れさせます。」
 「畏まりました、メイコ様。」
 その言葉に苦笑いを見せたアレクは、慣れた様子で立ち上がると奥の台所へと向かって歩いて行った。どうやらメイコの紅茶は相当に有名な話であるらしい。

 その天井の上。月明かりが照らすアパートメントの屋根の上で、一人の男のシルエットが浮かび上がった。体つきは細く、体格も小柄だが、その筋肉は鍛え上げられた鋼鉄の様なしなりを有している。何より特徴的な物は瞳。美形とはとても表現できないぎょろりとした巨大な瞳を軽く動かした男は、まるで空気の上を歩いているかのように物音一つ立てずに立ち上がると、軽い身のこなしでメイコのアパートメントの屋根から飛び降りるとまるで羽の様なステップで地上に降り立った。二階分を下りたのに、まるで木の葉が一枚舞い降りた程度の気配しか発生させない。人間として本来持ち合わせているべきオーラを完璧に消し切った状態で、彼は大通に向けて歩き出した。何事も無かったかのように、平然と。途中で上から外套を羽織る。薄手のスプリングコートを丁寧に着込んでいたとしても、他人には少し季節外れだな、という程度の印象しか与えることはない。そのコート一枚で忍び装束を隠した彼は、大通に出ると気配を通常に戻して、足音を存分に立てながら総督府へと向けて歩き出した。こう言った場所で忍び足を見せれば逆に不審がられる。一般人よりも大げさに歩くつもりで歩くことが彼にとっては丁度よい。そうして歩きながら、彼はにやりと嫌らしい笑みを浮かび上げた。
 まさか、こんなにも早く尻尾が掴めるとは思わなかった。先程わざと気配をさらけ出して尾行していた甲斐があるというものだ。そのおかげでメイコもアレクもすっかり油断し、頭上への配慮を怠った。まさか屋根の上から会話を盗み聞きされているなど想像してもいないだろう。だが、まだ確定的な情報を手に入れている訳ではない。リンが生きているらしいという情報はメイコとアレクの背信を推定するに有力な情報だが、もっと確定的な情報が欲しい。ならば、現場を押さえることが一番か、と男は考えた。いずれにせよ、メイコはルータオへ向かう。ならば俺はルータオに先回りしておくことが肝要か、と男は考え、その不自然に大きな瞳を嫌らしく歪めさせた。
 その瞳はまるで獲物を狙う蛇の様に陰湿で、常人ならば一睨みされただけで竦み上がってしまう様な鋭い光彩を放っていた。その瞳から、彼は仲間からジャノメと呼ばれていた。本当の名前は既に記憶にない。彼にとっては名前など、人間を識別するためのコードとしての価値しか持っていないからだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説版 South North Story 26

みのり「第二十六弾です!」
満「久しぶりに二本投稿だ。文量は少なめだけど。」
みのり「そうね。で、やっぱり良い所で止める^^;」
満「切りが良かったからな。」
みのり「続きはあるのかしら?」
満「・・今日の投稿は余り期待しないでくれ。」
みのり「そうね・・。といことで、気長に次回をお待ちくださいませ!最近更新ペースが遅くなっていてスミマセン!では次回も宜しくお願いします!」

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閲覧数:385

投稿日:2010/08/15 20:00:21

文字数:2,795文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • matatab1

    matatab1

    ご意見・ご感想

     数年たっても変わらないメイコの紅茶……。
     某少年漫画の『軍部名物、まずい茶』を思い出しました。(知らなかったらすみません)
     いっそこれをシューマッハに出し続けて、じわじわと嫌がらせ、兼精神的に攻撃を。(止めろ)

     結婚したら、家事(とくに料理)はアレクに任せちゃえばいいと思います。ハマったらこだわりそうだなぁ。
     めーちゃんとの会話が夫婦漫才としか見えません。 

    2010/08/16 21:43:26

    • レイジ

      レイジ

      返事遅れてすみません!
      今週は毎日終電だったので返信できませんでした。。。。

      『軍部名物 まずい茶』ってハガレンでしたっけ??(違ったらごめんなさい。)
      ハガレンそういや完結したんですよね・・コミック途中で止まってるや・・。
      どりあえずシューマッハに嫌がさせしますか。(笑)

      アレクこだわりそうですよね・・。どんな料理作るんだろう^^;
      案外旨いもの作りそうですね☆
      もうあの二人固定しすぎていているので2828しながら読んで頂ければと思います。

      ではでは続きもどうぞよろしく☆

      2010/08/21 23:49:30

  • ソウハ

    ソウハ

    ご意見・ご感想

    こんばんはー。
    一気に読み、ここでコメントさせてもらいました。
    更新、お疲れ様です。
    私も現在、サイト更新がんばってます。
    ついでに木曜日あたりに1000hitしました。
    それで、絵を描いたんですが、コピックが行方不明になり、モノクロ絵になっちゃいました。

    小説がが楽しみでしょうがなくなりました。また。
    レイジさんの書く小説、本当にいいなと思います。すごく尊敬します。
    私自身もこんな風に小説書けたらなぁと常々考えています。
    そのため、今勉強中です。
    もしよければ、またサイトにいらしてください。
    それでは、暑いですけど、仕事と更新、頑張ってください。

    2010/08/15 20:53:26

    • レイジ

      レイジ

      いつもありがとう☆

      ソウハさん、絵も描くんですね・・羨ましい。
      俺は全く絵が描けないので・・。(だから絵だけ別人なんですけど^^;)

      時間を見つけてちょくちょくサイトの方もお邪魔させて頂きますね♪

      なんか僕の作品をそこまで評価してくれて・・本当に嬉しいです。
      SNSも当初の予定より相当長くなってますが(本来二十弾位で終わると思ってました^^;)、今後も宜しくお願いします☆

      明日から仕事ですが・・頑張ります!

      2010/08/15 21:02:35

  • 紗央

    紗央

    ご意見・ご感想

    前回と続けて一気に読ませていただきました^^!

    メイコの紅茶・・・
    そんな有名なら飲んでみたいです(ぇ

    ちょ、そのジャノメさん憎たらしい・・・!(ぉぃ
    めーちゃんとアレクをなめんじゃn(黙れ
    まぁ2人なら大丈夫かなぁとも思います^^;
    とにかくリーンとリンとめーちゃんとアレクには無事でいて欲しいです^^

    ピクシブ・・。
    自分のPCで登録できないんですよね~。
    できたら紗央も小説投稿とかしてみたいです。
    まぁ無理だと思いますが・・(ぇ

    2010/08/15 20:16:59

    • レイジ

      レイジ

      ありがとう☆

      どんだけ不味いんだよ紅茶、って感じだよな。。
      俺も飲んでみたい。で一口飲んで捨てる^^;

      ジャノメは久しぶりの敵役なんでどんどん憎たらしくなっていくよ!まぁあの二人最強だから。
      楽しみにしていてね。

      pixiv登録できないのか・・残念。。
      別のフリーな場所にも転載しようかな・・大分変更したんだよね。
      ちょっと考えるぜ・・。
      でもpixivならかなり自由な作品が書けるから(ボカロ以外にも)結構便利かもね?。

      2010/08/15 20:53:59

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