世界には、主役と脇役がいる。





主役がいなければ物語は始まらず、脇役がいなければ物語は色付かない。





だが主役と脇役は別にあらず。視点を変えれば主役と脇役は表裏一体。





ある者が主役のつもりで動いていても、他の誰かから見れば脇役の一人でしかない。





そう、皆が主役であり、皆が脇役。それがこの世界の理だ。










…………そんな世界であっても。










僕は主役でなくてもいい。





その代り、卑怯にも世界を蒼く染め上げる脇役でありたい。










――――――――――それが、ヴォカロ町での僕の生き様なんだ。










『カイトぉ―――――!!!』



朝っぱらからめーちゃんの怒号が響く。


「ゴミ捨て頼む!!」

「はいはいめーちゃん……卑怯プログラム発動『うろたんロボ』!!」


ゴミを抱えながら、広場に幻影のロボットを出現させる。昔に比べて、随分と楽になったものだ。

ロボットにごみを捨てに活かせている間に、今度はミクから声がかかった。


「カイト兄さ―――――ん!! 私のヘッドセット知らない!? 10時からライブなのにー!!」

「朝っぱらから何無くしてるのかな!?」


VOCALOIDにとって大切なものをなんでそうホイホイ無くすかな。

しかもライブだというならいつまでも私服でいないでさっさとコスチュームに着替えてきたらどうなのか。

まぁいい……失せ物探しも大抵は僕の仕事だ。


そう。僕はこのヴォカロ町において、雑用係を命じられている。

町民であろうと家族であろうと扱いは変わらない。他の誰かがやる必要のある雑用を、全て一挙に引き受けているようなものだ。

昔はそこまで大していいように使われた感じではなかったのだが、潜在音波を―――――即ち卑怯プログラムを使えるようになってから、まるで便利屋のように扱われている。


「ほらもう、ベッドの隙間に落っこちてるじゃないか。ちゃんと見なきゃ」

「ぇあ!? あ、ホントだ……ありがとカイト兄さん!」

「カイトさん!! 私の鉄鞭8本とって!!

「はいはいルカちゃん! ……うぐぉっ!! 重いっ……!!」

「そりゃ全部合わせて240㎏だもの。……ありがと、いってきまーす!!」

「カイト兄―!! 俺の部屋掃除しといて―!!」

「あたしの部屋もー!!」

「リンとレンは自分でやってくれー!!」

『黙れバカイト!!』

「おいこら!」


説教をかます間もなくリンとレンも大急ぎで出かけて行ってしまった。そういえば確か町はずれの老人ホームで介護のお手伝いだとかなんだとか。

こういうのはロリショタの方が喜ばれるから、流石に僕には声がかからない。

そうやってお年寄りの余生を鮮やかに色付けることのできる二人が、ちょっぴり羨ましいな、と思う自分もいて。

そんな自分に、どれだけ僕はヴォカロ町の脇役であろうとしているのかと思わず苦笑してしまった。





朝のドタバタが終わり、全員が何かしらの用事で出かけた後、今度は町の雑用を片付けに行く。

……と言っても、大抵はゴミ捨てとかゴミ捨てとかゴミ捨てとか。

あと、この時期は受験生も多いため家庭教師の依頼も入る。……受験生と言えば、かなりあ荘の3人はどうしただろうか。まぁこの僕が教えたのだから、きっとサクラサクだろう。いや、もう咲いているかもしれないな。

加えて試験監督を頼み込まれることも。それぐらいは自前の生徒を使ってあげたらどうなのか。

他にも料理の手解きをしたり飛脚として町中の伝令に回ったり。


……さすがに疲れてくると、ふと考えてしまう。


“なんでこんなことしてるんだろう”なんて。


……………………だけど、時々……………。





「はい、カイトさん!」


疲れて一休みしていたところを、不意に女の子に呼びかけられた。


「うん?」


振り向くとそこには、ラッピングされた箱を差し出してくる小さな手があった。


「遅くなっちゃったけどバレンタインの―!チョコアイス!」

「おお!」


遅刻バレンタインなんて気にならなくなってしまうほどの素晴らしいプレゼントだ。

さっそく断りを入れ、開けて食べてみる。やっぱりアイスは寒い時が一番おいしいね!


「いつも町の皆のために頑張ってくれてるカイトさんのために頑張ったのー!」

「へぇえ!ありがとねぇ」


よしよしと頭をなでであげると、少女は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。



誰かの感謝を得るために。

誰かの笑顔を見るために。

どんなに辛くても、一つ一つの行動が町の笑顔につながっているんだ。

その笑顔こそが、この町の主役。

だから僕は――――――――――その笑顔を引き立てる脇役でありたい。





この町のために、完全で瀟洒な雑用係でありたいんだ。





僕がボカロマンションに帰ってきたのはもう夜も更けた頃だった。

色々と荷物やらなんやらを置くために、自分の部屋に向かう前に一度共有部屋に向かった。


すると――――――――――



「随分遅いじゃないの」

「めーちゃん?」



暗闇の中でめーちゃんが一升瓶を片手に待ち構えていた。


「またたっぷり雑用やってきたのね?」

「まぁね。師走ほどじゃないが、この時期も忙しくなるから」


そう言って荷物を片付け、部屋に戻ろうとすると―――――


「待ちな」


《ゴンッ!!》


「あいたっ!!?」


いきなり頭に何かをぶつけられた。地面に落ちたそれを見てみると―――――ラッピングされた小さな箱。


「……脇役に徹するのもいいけどさ、今日ぐらいは主役になってもいいんじゃない?」

「……あ」


そうか。今日は……17日――――――――――


「ミク達もギリギリまで待ってたんだけど、あんまりにも遅いから先寝ちゃったわよ」

「そうか……そりゃあ悪いことしたね」

「明日謝んなさいよ? あたしはそれで許したげるから」

「ふふ、そうするよ」


にやりと笑って、ちょいちょいと手招きするめーちゃん。


「せっかくの誕生日、これだけで終わらすのはもったいないでしょ? 月見酒、付き合いなさいよ」

「……そうだね、そうしようか」










結局めーちゃんは既にかなり飲んでいたらしく、すぐに絡み酒状態に入って散々な目に合ったけど。





それでも今日の酒は、すごくおいしかったような気もした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイト誕】完全で瀟洒な雑用係【ヴォカロ町の脇役】

ちょいと遅れたけどカイトだからいいよね!(おい
こんにちはTurndogです。


【瀟洒】:すっきりとあか抜けしているさま。俗っぽくなくしゃれているさま。
つまり『完全で瀟洒な雑用係』とは『洗練された抜け目のない行いをする雑用係』ということです。
カイトの場合はあか抜けているというよりネジが一本ぬけてるような気もしますが←

私にとってカイメイとはこう恋仲というよりは長年の相棒ってイメージが強いですね。
2人ともボカロ界隈では古株ですからねぇ。
純粋なラブストーリーならこれ以上ないバカップル役が似合うんだろうけど、
バトル関連だとこれ以上ない頼れる戦闘コンビってイメージがつく。
まぁヴォカロ町だとめーるかコンビが一番安心するけどね!(ここで落とすか

ところで文中でかなりあ荘受験生について3人にしか触れてない件についてですが。
前にゆるりんてぃあに教えた時以降カイトはかなりあ荘に二度しか来ていない設定です。ええ、雪りんごさんがいらぬ妄想をしたアレです。あとしる花仲直りの時だけです。
で、あゆみんさんがかなりあ荘に来たの(つまりメンバー加入した日)がそのホモォな妄想の翌日なんですよね。だからヴォカロ町のカイトはあゆみんさんと面識がないです。
カイト好きなのに扱い悪くてごめんね。全部カイトが悪いから蹴り飛ばしていいよ!←

閲覧数:322

投稿日:2014/02/19 16:40:05

文字数:2,716文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    おおおおお!!!!!
    なんかいい感じですね!!
    めーちゃんイケメン!!!!ww

    冒頭部分が囚人を思い起こさせて好きです

    2014/02/24 18:54:29

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    どうも、いらぬ妄想思い出してニヤニヤが止まらなくなった雪りんごです←

    ターンドッグさんの兄さんは、普段はヘタレっぽいのに、戦闘になるとカッコよくなるギャップが堪りませんよねぇ……(恍惚)

    私は……昔は前者が多かったんですが、今はどれでもないかな……
    「前はアレだったから今度はこういうパターンにしよう」っていう感じです

    本編でも兄さんのカッコいい活躍に、これからも期待です!

    2014/02/19 22:52:25

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      その妄想をぶち殺s(((

      戦闘になるとカッコよくなるギャグ?(難聴)

      基本カイトはヴォカロ町タイプか四獣物語タイプかのどっちかで固まってますねw
      つまり卑怯か外道か。あれ、どっちもろくでもなくね?←

      しばらく影が薄いと思います(えっ

      2014/02/20 19:35:04

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