「……さ、狂音獣はどこかしら」
ルカは鉄扇を広げ、余裕を見せるためか扇いで見せた。
「待っていたよ。カナデンジャーの諸君」
「……ヘルバッハ、貴方ね」
後ろに向き直ると、いつものかつらをかぶった姿をしたヘルバッハが立っていた。
「……今日も一人足りないようだが」
「ここにいるわよ……」
若干、苦しそうな声をあげ、メイコが姿を見せた。
「……声を取り返されてしまったのは誤算だったが、君のソングエナジーは実に上質なものだったよ」
「ふざけないで。私の声で世界を征服しようだなんて、絶対に許さない! コードチェンジ!!」
メイコはカナデレッドに変身すると、そのまま、ヘルバッハと対峙した。
「さあ、勝負よ」
「焦らなくても、狂音獣は連れてきているよ。出でよ、マッド・ウェポン」
目の前に、狂音獣が現れる。腕には、タクトのような棒が、両足には、スピーカーがついていた。顔の方には、青や赤の光がランダムに光るLEDライトが取り付けられていた。
「相変わらず変な狂音獣を作ってくるわね」
「ヘルバッハ! あんたの相手は、私よ!」
リンがいきなり後ろからブラス・バズーカでマッド・ウェポンを攻撃する。ところが、狂音獣はその攻撃をよけようとはしなかった。そして、そのまま命中し、大爆発が起こった。
「何よあっけないわね」
土煙が広がるなか、突然、何かが飛んできた。
「リン、危ない!」
「えっ!?」
次の瞬間、カナデンジャーのいる場所に突然爆発が起きた。
「……どういうことだ! 反撃してきたのか?」
土煙の中から、マッド・ウェポンが姿を見せる。その左腕には、リンの持っているブラス・バズーカがついていた。
「ウソでしょ!? どういう事?」
リンは自分が手にしているバズーカと見比べ、何一つ変わりない事に愕然とした。
「このマッド・ウェポンは攻撃された武器をコピーする能力があるのだよ」
「何ですって!」
目の前のマッド・ウェポンがメイコに襲いかかる。
「くっ!」
タクトソードで応戦をすると、今度は左腕から剣が現れた。突然現れた剣に、肩を切られ、メイコは後ろに下がった。
「……どうするかね。このままたくさんの武器をわが下僕に提供してくれるのかね」
「……へぇ、武器で攻撃しなきゃいいのね」
ミクはメイコの前に立ち、マッド・ウェポンを見据えた。
「素手で戦う私には、あんまり関係ないようね」
ミクが近づこうとした時、いきなりザツオンが群れをなしてミクに襲いかかってきた。
「近づく事ができなければ、何も出来まい。今はここで引かせてもらおう。必要なものはすでに手に入ったのだからな」
「逃がすか!」
カイトが弓を引こうとする。
「カイトだめ!」
レンの言葉にカイトははっとした。その隙に大量のザツオンを残して、ヘルバッハとマッド・ウェポンは姿を消した。
「とにかく、このザツオン達を始末しなきゃならないようだな」
カイトは弓矢をヴァイオリンに変える。ビルの屋上から見える朝日に向かって、ひときわ美しいヴァイオリンの旋律が流れた。そして、ヴァイオリンの弓をザツオンの方に向けた。
「ソニックアーム、ウィンド・アロー」
音色が弓矢に変わり、次々とザツオンを射ぬく。それに呼応するように、5人がザツオンを倒していった。
太陽が旧市街地のビルの谷間を照らす頃には、ザツオンの姿はすべて消えていた。
「見事に逃げられたわ……あのマッド・ウェポン、私が戦うしかなさそうね」
ミクはメイコにどや顔を向けた。『オクトパス』に帰った6人は、ハクも加えて話し合いが行われた。
「確かにそうね。でも、あのザツオン達はどうするの?」
メイコはすぐに言い返す。それに対して、ミクはつまらない顔を向ける。
「一点突破を狙うにしてもなぁ……」
「でも、やるしかないでしょ。か弱い女の子に素手で殴り合いをさせる気?」
リンはそう言ってカイトに言い返す。
「リンがか弱い女の子だって? 寝言は」
そう言いかけたレンに、リンは笑顔で銃口を向けた。レンが口をつむると、何事もなかったかのように議論が再開される。
「とにかく、あのマッド・ウェポンはミクが倒すしかない。でも、その道を5人で作るしかない」
「ミク、一撃であのマッド・ウェポンを仕留める自信はあるかしら?」
「一撃!?」
「ええ。たぶん、チャンスは1回。長くて3秒。オクターブアタックを使う時間もないはずです」
「…………そんなの無理よ」
ルカの問いかけに、ミクは自信なさげにつぶやいた。
「じゃあ、全員で空手道場にでも行きましょう。みんなそれなりに強くなってから、戦うしかないわね」
「そんなこと言う必要ないでしょ! 私が一撃であの狂音獣を片付ければ、問題ないんでしょ」
「そうよ。でもあなたは、さっき『無理』って言ったわよね」
「……そうだけど……気合いで何とか」
「気合い? そんな事に付き合ってられないわ」
「何よ!! 私が弱いって言うの!!」
ミクは顔を真っ赤にして、涼しい顔を向けるメイコの胸ぐらをつかんだ。
「自信がないんでしょ? いざというときに失敗したら、貴方だけじゃない。全員死ぬのよ」
「…………」
メイコの胸ぐらをつかんだまま、ミクは固まってしまった。メイコはすぐにつかまれた手を振り払った。
「絶対勝てるように、一撃であの狂音獣を仕留める技を作り出すことね。でも、いつまでも待てないわよ」
「……」
「3日以内に何とかして頂戴。私達も、多少は努力してみるわ」
そう言い残して、メイコは部屋を出ていった。
「何よ、やってやるわよ!!」
ミクは、彼女の後を追いかけるように部屋を出ていった。
「メイコ……もう少し考えて言葉をかければいいのに」
ハクは頭を抱えてしまった。同様にルカも深刻そうな顔をしている。リンとレンは先ほどの事で言い争いを始めていた。
「…………そういうやり方も、ありかな」
現状の深刻さとは対照的にカイトは笑みを浮かべた。
「何よ、ついてこないでよ」
トレーニングルームに入ったメイコを見て、ミクはすぐさま吠えた。
「あら、貴方がどんな技を身につけるか、見届けてあげようと思ったのに」
「貴方に見られると、できる事も出来なくなるの。すぐに出て行って」
メイコに敵意むき出しのミクは、拳を握りしめていた。
「勢いだけは一人前ね。でも、実力はどうかしら?」
「何ですって!!」
ミクの拳がメイコの顔面めがけて飛んできた。
バシッ
「ウソでしょ!?」
メイコは片手でミクの拳を受け止めた。そして、ミクの腕をひねり間合いを取った。
「少し、手合わせしてみましょ? 貴方の実力を見せてくださる?」
完全に頭に血が上ったミクは、がむしゃらにメイコめがけて拳を繰り出すが、すべてことごとくかわされた。
「当たれば威力ありそうだけど……まだまだね」
「う、うるさい!!」
もはや、怒りにまかせて繰り出す拳は、むなしく空を切るだけだった。やがて力ない拳が弱弱しくメイコに向かってくるだけであった。
「そろそろ、終わりにしましょ」
ミクの拳をかわしたメイコは、強烈な蹴りを繰り出した。その蹴りをまともに受けたミクは、そのままリングから飛ばされ、近くに設置されていたベンチまで飛ばされた。
「……よくそれで気合とか言えたわね。もう少し、自分が弱い事を自覚したら?」
「……う、ウソ……どうして」
立ち上がる事が出来ないミクは、顔を上げるのが精いっぱいだった。
「貴方は、今までリーダー気取りで自分が強いと思い込んでいたの。いい加減、その事を理解しなさい」
メイコの宣告に、ミクは頭を垂れた。悔しさから、涙がとめどなく流れる。
「何よ!! 私一人じゃあの狂音獣は倒せないっていうのよ!!」
「残念だけど、そうみたいね」
メイコの言葉に、ミクは思いっきり床を叩いた。
「どうして、私は弱くなんかない。私一人でも……」
「まだそんな事を言うの? どうして私達は立場を越えて仲間になったの」
「…………」
メイコの言葉に、ミクは涙でぬれた顔をあげた。
「何よ!! そんなに私に恥をかかせたいの!! リーダー気取りだからって、そんなに私の事が嫌いなの!!」
叫び声を上げるミクの眼前にメイコの手が差し伸べられた。
驚いて顔を上げるミクに、メイコは穏やかな表情を浮かべて見せた。
「貴方は、もっと強くなれる。私を超えるくらいに……だから、一緒に頑張りましょう」
「…………」
「貴方は、私のかけがえのない仲間だから」
しばらく間があって、ミクは声をあげて泣いた。そんなミクを見守るように、メイコはやさしく抱きしめた。
光響戦隊カナデンジャー Song-10 メイコVSミク Bパート
光響戦隊カナデンジャー第10話です。
内容はコラボにアップした物と同じです。
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