ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#02】



 出がけに、「せっかくのお出かけなのに、こうもじとじとした雨では気が滅入りますね、お譲様」なんて、声をかけられて出てきたのだが、正直、雨の日は嫌いじゃない。雨に打たれた草木の生き生きとした発色も、ちょっとだけ鼻につくなまなましい生物の匂いも、暗く翳っているせいでいつもと違って見える街並みも。このところ晴れが続いていたぶんを取り返すように降る雨は、なにもかもきれいさっぱり洗い流してくれるような気さえする。……なんて思うのは、汚れた自覚があるからかしら?
 赤色の唐傘を、雨が滑り落ちていく。滑り落ちた雫は地に落ちて、すこしだけ土をえぐり、地面へしみ込んでゆくのだろう。その泥が着物の裾に跳ねないように注意しながら、私は若干の急ぎ足で道を歩いている。約束の時間に間に合わないかも知れない。
 約束の相手は、私が時間に遅れても、約束の時間なんて気にしなくていい、と言ってくれるだろう。優しいひとだから。でも、それは私の律儀さが許さないし、第一、相手は私なんかとは比べ物にならないほど多忙な身だ。こうして会う時間を割いてもらっているだけでも、ありがたいことなのに、これ以上気を遣わせるのも申し訳ない。
 相手が相手だから、と、めかしこんでいて遅くなってしまった、なんて、本人を目の前にしては言えないけれど。きっと会った瞬間にわかってしまうわね、聡いひとだもの。久しぶりに会うのだからと、身なりに気合いを入れたのはいいものの、結局いつものスタイル――紅地に桃色の糸で花模様の刺繍が施されたお気に入りの着物に、山吹色の帯――に落ち着いてしまった。気合いを入れてこれか、と思われるかも知れない。そう思われたら恥ずかしいことこのうえない。それでも、きっと笑って喜んでくれるという確信があるからこそ、こうしてお洒落に頭を悩ませるてみるものなのだ。
 そう、これから会いに行く人は、たとえば家に客人が来たとしても、身なりを整えることにそれほど頓着しない私が、きちんとした格好で会いたいと思うひとなのだ。

 どうやら時間には間に合ったようで、その家の門まで行くと、約束の相手は綺麗に微笑んで待っていた。
「めいこは律儀ですわね。雨でも雪でもいつでも、時間通りになるように急いできてくれる。今日はいつもよりおめかしの時間もかかったでしょうに」
 ほら、やっぱりわかられている。息もあがっていないし汗もかいていないはずなのに、どうしてこのひとは、私が急いで来たことがわかるのだろう。装いに時間をこらしたとはいえ、このひとと会うときの格好にさほどの変化はないはずなのに、どうして時間がかかったことがわかるのだろう。
 ほんとうに、不思議なひとだと思う。醸し出す雰囲気は落ち着いているのに、どこか有無を言わさぬ強さがあって、朗らかな人柄の中にも憂いを帯びた部分が垣間見える。人生経験の差だろうか。それほど歳は違わないはずなのだが、このひとの前ではなぜか自分が子どものように思えてしまう。
「ご無沙汰しておりました、るかさん」
「いらっしゃい、めいこ。どうぞ上がって。雨の中大変だったでしょう」
 そう言って、大財閥の若奥様は、私を座敷へと招き入れた。
 私が敬愛してやまない彼女とは、父さまの事業関係の誰かの披露宴かなにかで初めて顔を合わせた。なぜ連れていかれたのかは、いまいちはっきりしない。あれが世に言う「社交界デビュー」だったのか、はたまた「箱入り娘のお披露目」のつもりだったのかは、私にとってはどうでもいいし、そういえばその会の主役の顔も、会って挨拶をしたえらい人の名前すらも覚えていない。覚えているのは、るかさんに関係するエピソードを除けば、西洋風に仕立てたのであろうお料理がそんなに美味しくなかったことだけだ(大勢のひとが呼ばれている会に出ているお料理は、だいたい美味しいものだと思っていた私にとって、それは衝撃的だった)。
 その会に出席しているのは大人ばかりで、とても居心地が悪かった。父さまには手洗いに行く、と告げて、会場の外でぼんやりしていたところ、通りがかったるかさんに声を掛けられたのだ。
 こういう会は、たいくつですわね? 開口一番の彼女の言葉に、まるでこころを見透かされたような気になって、思わず目を見開いた。年の近い女子が同じ会場にいたことにも驚いたし、すこし話をしてみたら、その朗らかな笑顔の彼女が既に嫁入り済だった、ということにも、私は大変驚いた(そして、その亭主が大財閥の若旦那だということにもすくなからず驚いて、そしてその亭主というひとをみて、すくなからず落胆した。「若旦那」という呼称をされるひとはそれほど若くないひとが多いということを、その頃の私は知らなかったのだ)。
 思えば、妙な縁だと思う。そうして知り合って、歳が近く、家が近いという理由だけで、他人に警戒心を抱きやすい(と、るかさんにも言われた)私が、こうもあっさりと仲良くなって、一緒に遊ぶ仲になってしまうのだから、世の中わからないものだな、と思う。
 座敷で一息ついて、最近のこと――最近出会った方の噂話や、お稽古ごとでの出来事や、愚痴なんか――をつれづれと話をしていると、時間の経つのを忘れてしまう。るかさんは博識で、中立的で率直な意見と並外れた審美眼を兼ね備えた女性だ。教えられることも多いので、話が次々と展開していく。
「そうだわ、遠方のお客様から美味しいくずまんじゅうを頂きましたの。お茶室でご一緒しませんこと?」
「もちろん喜んで。るかさんのたてるお茶も久しぶりだわ」
 立ち上がりながら、自分でたててもあまり美味しく感じないもの、と独り言のように言うと、るかさんも大きくうなづいて、ただ苦いだけの気さえしますわよね、と相槌を打った。
 そのままふたりで離れの茶室に向かう間も、おしゃべりに興じる。ふと庭の垣根から、大きな荷を抱えて走る人影が見えた。
「荷配りの方かしら? 雨の日まで、大変ですこと」
「そうですね……」
 こんな雨の日でも、彼は仕事をしているのだろうか。根がまじめだから、仕事に妥協なんてしなさそうだ。きっと、自分が雨に濡れるのも構わずに、働いているのだろう。風邪をひいたらどうするのかしら、重い風邪をひいたとかいう話はきかないけれど、もし動けないほどの病気にかかってしまったら、誰か看病してくれるような優しいひとはいるのかしら(できればそれは女のひとでなければいい、とまで思うのは、不毛だろうか)。
 そんな考えが頭を過って、語尾が不自然に途切れてしまったのを、るかさんは聞き逃さなかったようだ。
「手紙の彼も、荷配りのお仕事をしているのでしたっけ?」
「な、なんですか急に!」
 思わず声を上げると、るかさんはさも面白そうにくすくすと笑った。……やっぱり、このひとは千里眼でももっているのではなかろうか。
 手紙の彼――かいとのことを知っているのは、私の周りではこのるかさんだけである。家の者には男性と文通しているなんて言えないし、ましてやそれがかいとだなんて知れたらどうなることやら。
 「咲音家のお譲さま」として育てられていたせいか、彼と一緒に遊んでいるのが見つかると、強制的に家に連れ帰され、叱られたものだ。お稽古事の用事をすっぽかして遊んでいたので、余計に父母(特に母)の怒りを買ったのかも知れない。いわく、「男の子と一緒に遊ぶなんてはしたない」「あれほどお稽古は休むなと言ったのに」「その男の子に連れ出されているのでしょう」「見るからにあさましそうな子でしたもの」……子どもながらに、自分に非があると理解できていた。でも、その叱責の言葉以上に、彼への蔑みが多い母の言葉を覚えている。そのことに違和感を覚え、幼いながらに反発しようと試みたこともあったが、母はそういうひとなのだとわかってからは、無駄な抵抗はしなくなった。母も、それほど身分の高い家の出じゃないというのに、いわゆる玉の輿にのった女はこうも丈居高になれるものかと、別の方向に感心してしまう。それを野放しにしている――もとい、溺愛して甘やかしている父も父だが。
 思いだされたものごとは、複雑な気分にさせる思い出ばかりだったが、私の前を歩くるかさんは上機嫌な風で話を続ける。
「めいこは可愛いですわね。手紙の彼は幸せ者だわ」
「そんな……身分も違う、会えもしない女に懸想する男なんているでしょうか」
 手紙の端からですら、そんな気配も感じないのだ。るかさんは、私が鈍感なだけだと言うが、実際に手紙を見せるわけにもいかないので、私が鈍感なのか彼にその気がないのかは、いまいちわからないところである。
「あら、会えもしない男に懸想する女の子がいるんだから、逆があってもおかしくないわ。すくなくとも、これだけ長く文が続いているなら、相手も憎からず思っていることでしょうよ」
 自分のことを女の子、と、言われると、すこしくすぐったくなる。「お譲様」ではない、階級や貴賎にとらわれない、ひとりの人間として扱っていてくれるようで、とても嬉しいきもちになる。
 茶室に着いて、傘を畳むと、るかさんがふと雨を見ながらつぶやいた。
「わたくしも、長らく文を交わした殿方がいらしたものですわ」
「そうなのですか? 初耳ですね」
「旦那さまに会う前の話ですけれどね」
 るかさんは、あまり過去のことを語らない。少し茶化すつもりで訊いたが、その纏う雰囲気がいつもと少し違うことに、次にるかさんが口を開くまで気付けなかった。
「……わたくしの旦那さまには秘密にしておいてくださいね、めいこ。叶わぬ恋でしたけれど、男のひとは、そういった歴の話は好みませんから」
 さあ、お茶をたてますよ、と、るかさんらしからぬ急な話題転換に戸惑いながらも、私たちは茶室に上がった。
 るかさんの「叶わぬ恋」の話は、それ以上語られることはなかったが、彼女の雨を眺める瞳の底には、私では計り知れない痛みが潜んでいるような気がした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#02】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、るかさんとまったりするの巻。

ところで、第一段落書きながら「もしかしてかいとに会いに行くんじゃね!?」って
思ってくれる方がいればいいなと思ってたんですが、たすけさんは見事に騙されて
くれませんでした。そりゃそうだ。筆の遅さと表現力のなさを! どうにかしたい!

相変わらずメールのたびにニヨニヨしているわけですが、こうも投稿に間があくのは
つんばるの遅筆のせいなのだと気づきました……(いろいろと遅いよ
たすけさんは2作品同時進行だというのに、なんという体たらく……!

でも、自重なんてどこかに置いてきたのでこれからもがんばりますよ^p^

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かいと視点の【青犬編】はたすけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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つづくよ!

閲覧数:463

投稿日:2009/07/31 15:54:54

文字数:4,281文字

カテゴリ:小説

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