3.幸せの終焉

 森の野鳥たちがにわかに騒ぎ出した。
やがて遠くの方から、地を揺らすような低い地鳴り音が聞こえてきた。
その音はどんどんこちらに近づいてくるのがわかる。

森の木々の隙間からその音の正体が確認できた。
たくさんの動物たちだ。種類を問わず色々な種類の動物たちがこちらに駆けてくる。

シンデレラとロミオ、二人の双子を気にも留めず、動物たちは走り抜けていく。
よく見ると森の動物だけではない。家畜として飼われているはずの動物も混じっている。
シンデレラはたくさんの動物が走ってくるその方向が、村のある方角であることに気がついた。

「ロミオ 行くよ!」
何が起こったのかと慌てているロミオの手を握って、
シンデレラは動物たちの流れに逆らって村の方へと走り出した。

 真っ黒な煙が上がっているのを月の照らす薄明かりの中、二人は高台から確認した。
その出所はまさに自分たちがいつも優しい母と暮らしている村からだった。

「かあさーん」
叫んだ瞬間、ロミオの体から黒く重い色の雷が放出される。
次の瞬間にはその黒い雷が村に向けて薄暗い空間をものすごい速さで放たれた。

少し遅れて、シンデレラも真っ赤な雷を放ちながらそれに続いた。
しかし、ロミオの速さはすさまじく、シンデレラはあっという間に距離を離されてしまった。

 弟に遅れて、シンデレラはようやく村に着いた。そこはいつも見慣れた村ではなくっていた。
崩れた家の壁、燃える屋根、鼻につく嫌なにおい、
いつも優しいパン屋のおばちゃんも、いつも元気な村の子どもたちも、みんな地に伏している。
家に向かう見慣れたはずの道も変わり果てていた。息を切らせながらその道を走っていく。

「ロミオ!」
シンデレラは我が家の前で立っている弟の背中を見つけた。
「ロミオ?」
こちらの呼びかけに応じ、振り返ろうとしないロミオに近づいていく。

――!!!
ロミオの目の前にはうつ伏せに倒れている女性と、
物騒な武器を握ってまま死んでいる異国の兵士がいた。

女性の顔は見えないがその姿には見覚えがあった。……いや、毎日見ている。
そこで倒れている女性は、いつも自分たちにまばゆい笑顔を見せてくれる。
――おかあさん

シンデレラは力なくその場にへたり込んでしまった。
ポタッ ポタッ
体を支えるために地面についたシンデレラの手に温かい液体が落ちてきた感触――
ふと目をやる。それは赤い色だった。それは血だった。
それはロミオの左手からしたたり落ちていた。

「ロミオ、怪我してるじゃない?」
姉は心配してとっさに弟の左手をとろうとした。

バチッ
「えっ!?」
シンデレラの手に刺すような痛みが走り、反射的に手をひいてしまった。

見ると二人の手の間には火花が走っていた。
――反発 ショート?
いままでそんな経験はなかった。
二人の間に限ってはどれだけ電圧を上げた状態でも、普段と変わらず接触できるはずだった。

再び弟の左手をよく見てみる。手には傷ひとつない。
視線をゆっくりと左に流す。
異国の兵士の腹部には大きな傷がみてとれた。

いままで閉じたままだったロミオの口がゆっくりと開いた。
「あ あ あ――」
眼球は、す速く小刻みに動き続けている。

シンデレラは何度も弟の名を呼び続けている。
しかしロミオの耳には届いていないようだった。

やがて、小刻みに振動していた眼球はある一つの方向を向いて制止した。
その表情はいつもいたずらしてばかりの悪ガキロミオの面影はなく、
激しい憎しみの色しか読み取ることはできない。

再び、シンデレラがロミオの名を呼ぼうとしたその刹那――
ロミオの体から強烈な真っ黒な雷が放たれる。
次の瞬間、シンデレラとロミオの間には激しく大きな火花が散る。
あっ という間もなく、少女の体は後方に吹き飛ばされてしまった。

 砂埃が舞う中でシンデレラはその砂のスクリーンの向こうに光る人影を見つけた。
その人影は地の束縛から解き放たれ、
シンデレラよりもはるか高くに浮かんでいるように見える。
その重く光る人影は一筋の線を描き、どこかへ飛び立ってしまった。

「ロミオ……」
その人影の正体をもちろんシンデレラは分かっていた。
シンデレラは光の飛び立った方向へ迷わず荒野を駆け出した。

――自分はどうしたいのか? 母親の死 異国の兵士 弟の変容
少女はこれまで経験がないほど混乱していた。
いくつもの言葉が意味を理解する間もなく脳内を流れ去ってしまう。

「あーーーーーーー」
荒野に少女の叫びが響く。
そして、とめどなく流れていた言葉の中から少女の心は、ある言葉だけを掴み取った。
――ロミオ!!

少し冷静さを取り戻したシンデレラは全速力で闇を切り裂きながら、
頭をフルに回転させ現在の状況を整理していく。

――村を襲ったのは?  異国の兵士。
――たった一人で?  それはいくらなんでも無理。
――じゃあ、他の兵士は?  おそらくロミオの目的地に。
――目的は?  わからない。
――ロミオはどうなったの?  わからない。
――お母さんは?  ……今は考えない。
――他には?  今はロミオに追いつくことだけ考えよう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

紅のいかずち Ep0 ~シンデレラストーリ~ 第3話 幸せの終焉

紅のいかずちの前章にあたる、エピソード0です。
この話を読む前に、別テキストの、まずはじめに・・・を読んでくれると
より楽しめると思います。
タグの紅のいかずちをクリックするとでると思います

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閲覧数:158

投稿日:2009/11/21 22:27:56

文字数:2,155文字

カテゴリ:小説

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