<我が世誰ぞ 常ならむ>
神威 楽歩は、元は伊田寝家が召し抱える那須衆と呼ばれる忍びの一人であった。
忍びの中にも侍階級も居ればそうでない者も居る。更にその中で、上忍、中忍、下忍と細かく分けられるのだ。
そのなかでも神威家と言えば、忍びの差配を司る侍の一族の一つであり、那須衆のなかでも大きな影響力を誇る家柄であった。
神威 楽歩はその嫡男であった。
その神威家は、五年前、取り潰された。
理由は藩主の許可なく、嫡男楽歩が、隣国の倶利府家の臣下から嫁を貰ったということであった。
主君への忠誠が命よりも重い封建時代、婚姻一つとっても主君の意向に従うのが常の世である。
ましてや立場ある家の嫡男が、勝手に他国の家と姻戚を結ぶことなど言語道断とも言って良い。
そのうえで、神威家お取り潰しは止むなしと言えた。
だが実際は、神威家の婚姻は主君の意向を受けて結ばれたものだった。少なくとも、神威家ではそう信じていた。
那須衆の党首直々から、大殿の密命と言う形でその意向が下されたのだ。
大殿とは伊田寝家の先代領主であり、現領主の叔父にあたる。
その伊田寝家は当時、大殿派と現領主派に分かれて政争の真っただ中にあり、神威家を含む那須衆は大殿派に属していた。
その大殿派が力を得るために拠り所としたのが、隣国の倶利府家であった。
大殿派は倶利府家の後ろ盾を得るため、忍びの一族同士の婚姻を目論んだ。
それが、神威家嫡男・楽歩と、そして倶利府家の忍び、巡音家の娘との婚姻だった。
きな臭さ漂う政略結婚であったが、実際に嫁いできた娘・瑠花はそれにもかかわらず、楽歩の良き妻として尽くしてくれた。
(瑠花殿……)
楽歩は今でもときおり思い出す。
美しく気高き妻であった。
両家の橋渡しとなるだけでなく、ひとりの女として、楽歩を愛してくれた。
だがその妻ももういない。
二人の蜜月は短かった。
伊田寝家の政争は現領主派の勝利に終わり、敗れた大殿派は凄まじい粛清の嵐に見舞われた。
特に那須衆は忍びの集団として大殿派の中核として働いており、時に要人暗殺などにも関わっていたことから、現領主派の恨みも深く、その粛清はいきおい苛烈なものとなった。
このままでは那須衆そのものが滅亡しかねんと焦った彼らは、その責任の全てを神威家におっかぶせることで事態の終息を図ろうとした。
すなわち、伊田寝家の政争の原因は、神威家が倶利府家と手を組み、大殿を煽動したことで生じたと訴えたのである。
その一方で、那須衆は現領主派に徹底した忠誠を誓い、一門の生き残りを図ったのである。
結果、大殿は隠居同然ながら一命を永らえ、那須衆も勢力を減じながらも存続を許された。
引き換えに根絶やしにされたのが神威家であった。
神威家の一族は勿論のこと、家臣、下働きの下男下女にいたるまで磔獄門にかけられ、河原に首を曝されたのである。
そしてその首の中には、楽歩の愛妻、瑠花の首もあった。
神威家は救国の犠牲どころか、亡国の売国奴の汚名を着せられて滅亡したのである。
だが、楽歩は生き延びていた。
楽歩は、忍びを指揮する一族の嫡男でありながら、己自身もまた稀代の忍びであった。
屋敷に籠もり下忍に下知するよりも、自ら戦場を駆け回ることをよしとする男だった。
その忍びの体術は、荒事を主にする下忍たちをも凌駕するほどであったが、なによりも楽歩を忍びたらしめていたのは、その性根であった。
いかなる手を用いても目的を完遂する非情さ。
目的のためなら手段を選ばず、生き恥をさらそうとも、それを果たす。
生き恥をさらすくらいなら潔く死を選ぶという侍の美学とは、真逆の信念。それが、忍びの性根であった。
神威家滅亡の日、楽歩はたった一人、逃げのびた。
(瑠花殿……許せ)
妻を見殺しにしてでも生き延び、復讐を果たす。
侍としての意地が一族の復讐を誓わせ、忍びの心がそのために愛さえも捨て去った。
侍でありながら忍びと化した男の、壮絶な覚悟だった。
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