初音先輩。優しげで笑顔が眩しくて、
その日先輩を見られるだけで俺は幸せになれた。
振り返る仕草にドキドキした。
白い首筋に目を奪われた。
決して足は速くなかったけれど、
走ってるフォームはとても綺麗だった。
この世界の醜さなど何も知らないであろう無垢な瞳。
鈴を転がしたような可愛らしい声。
誰に対しても真摯で、誰からも慕われていた。
この人が傷つくくらいなら、
その傷のすべてを俺が引き受ける。
「ネル・・・おまえに従うよ・・・」
亞北を下の名前で呼び、
俺は着衣のすべてを脱ぎ捨て全裸になった。
股間も隠さなかった。
「ギャハハハハ! 丸出し超ダセェ!」
思春期の体を同い年の異性に笑われる恥辱は、
一生消えない傷になるだろう。
「じゃあ撮影会を始めまーす」
亞北はケータイのカメラを向けてきた。
死にたいほどの惨めさ。
棒立ちの俺を下から煽るようなアングルで。
「ちっちぇ~」
とニヤニヤ薄笑いを浮かべ、
血走った眼でシャッターを切っている。
「いいよいいよ~♪ ピースしてみようか~」
言われるままに俺は力なく指を二本立てて見せる。
この女に屈した俺に打てる手は、ただ、廃人のように
無気力に、苦痛の時間が過ぎ去るのを待つのみ。
「今日はレンくんにいいもの持ってきたよ。
レンくんの超好きなもの! 当ててみてよ」
ろくでもないものに決まっている。俺をイビッて悦しむための道具。
「ジャ~ン! 女物のパンツ! 察しのいいレンくんなら、
誰のパンツかわかるよね?」
ここで反応するのは羊が狼に腹を向けるようなものだったが、
俺は動揺を隠しきれない。
「そう、レンくんの大好きな初音先輩の、あのパンツだよ。
洗ってない先輩の恥ずかしい臭いが染みついたパンツ!」
やめろ、先輩をおまえの汚れた思考で愚弄するな。
「これ、履いてよ」
憎悪と不快で総毛立つ。この異常者め。
俺はギリギリと歯を食いしばりながら縞柄の女性用下着を受け取った。
「どうしたの? パンツハンターレンくん。さっさと履けよ」
視界が歪む、上手く呼吸ができない。
言われるがままそれを履くと、
いやがうえにも反応している下半身に自己嫌悪した。
「うわ~、すっごいビンビンじゃん!」
清純無垢な先輩を最低の性的行為で侮辱してしまった。
俺はもう明日から先輩のいる学校へなど行けない。
「そんな状態じゃツライでしょ? いいよ、処理しなよ」
床にしゃがみ込む俺を、ベッドに腰掛けて見下ろす魔性の女。
「いつもしてるんでしょ? ひとりエッチ。ほら、視ててあげるから♪」
俺は先輩のパンツを履いたまま自分のものを擦った。
この世でもっとも醜悪な姿を曝している。
泣きながら、一部始終を亞北に撮影され、精神は崩壊していく。
「勝手にイッたらダメだよ。イキそうになったら教えてね」
悔しい。すぐに俺は限界が近いことを伝えた。
「早! 若いね~レンくん。じゃあ最後は私がしてあげる」
そういって亞北は俺の股間を無造作にぐりぐりと踏みつけてきた。
「うぁ、あ、、」
痛みと、痛みに近い別の感覚が全身を突き抜ける。
もうダメだ、爆ぜるその直前。亞北は言った。
「そうだ、イク前に教えておいてあげるけど、
本当はね、それ、私が履いてたパンツなんだよ」
このパンツは、先輩でなく亞北の・・・
「あぁあああぁーーー!」
俺は絶頂していた。
「あ~あ、バレちゃったね。これってさ、
結局レンくんは、初音先輩でもアタシでも、
どっちでもよかったってことだよね?」
快感に感電している俺を眺めて亞北はため息をついた。
ガチャ…
玄関から音がする。
「ただいま~」
リンの声だ。
「あれ~、リンちゃん帰ってきちゃったね」
亞北は気味の悪い微笑のまま、
その視線で果てた俺を舐め回している。
「こんな姿、リンちゃんに見られたらどうなっちゃうのかな」
やめてくれ、頼む、リンは、リンだけは・・・
誰に嫌われても、誰に気持ち悪がられてもかまわない。
リンにだけは、リンだけには見捨てられたくない。
どんなに落ち込んだときも、さり気なく俺を励ましてくれた。
本当の俺を信じてくれている最後の救い。
もしも、リンに見限られれば、俺はもう生きていけない。
「レン、いる? 亞北さんも一緒? 入っていい?」
ドアが開く。リンが俺を見る。
ダメだ。
見るな。
泣きはらした顔で、
女ものの下着を履き、
股ぐらを汚している。
それも家族の男がだ。
終わった・・・。
俺の人生は終わったんだ。
つづく
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