!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
煌く雫が零れ落ちたのは、マスターの目。
呆然といった様子でマスターは少し下の方を見つめている。表情は暗くはない。いつも通りではないにしても、それが悲しみに彩られるということはなかった。だが、溢れてくる涙は止まらない。
今までのことを話してくれた男性は、マスターの様子を見かねたようにゆっくり距離を詰め、その目の前で屈んだ。伸ばされる手は、マスターの頭の上へ。
「すまんかったな。おっちゃんたちが突っ込んだから見れなかったんだろ?」
彼の言葉に、パトカーが俺たちの行く手を阻むようにタイミングよく現れたことを思い出した。パトカーの乱入で、俺やマスターは隆司さんたちを追うことができなくなった。もちろんそれだけが原因ではないが・・・今思えば、俺もマスターも酷い興奮状態にあり、冷静には判断できなかっただろうし、隆司さんたちに追いついたとしてもおそらく何もできなかっただろう。そう考えれば、あそこで保護されたのは正解だったのかもしれない。だが・・・あれまでもがあの男と隆司さんの計算だとしたらと考えると・・・末恐ろしい。
マスターが軽く首を横に振りつつ男性の言葉に応えているのを見ながら、俺も近付いていく。行かない方が良いかもしれないと思ったが、衝動が抑えきれないままマスターの背中をさすった。
「まあ、何にしても・・・二人とも擦り傷があるぐらいで大事はないってよ。
一応意識がなかったから病院に搬送されたんだがな」
俺もルカさんもマスターも、誰もが最悪の結果を思い浮かべていた。だからこそ、この言葉を聞いた時の安堵感には、言い知れないものがあったのだ。
男性に頭を撫でられながら、マスターは目をこすっていた。目が赤くなるだろうと思うほど強く。そうしていると、マスターから漂っていた悲壮感が消えていくような気がした。それは、俺の中に積もっていた何かまで一緒に溶かしていく。
男性はマスターから手を離して立ち上がると、穏やかな笑みを浮かべた。
「今は意識も戻ってるしよ・・・二人とももうこっちに来るはずだ」
その言葉は、マスターの中から不安を取り除くために放たれた言葉だったのだろうが、お礼を言うマスターの笑顔はまだぎこちなかった。無事だと聞いても、自分の目で見るまでは安心できないのも無理はない。マスターにとって二人がかけがえのない存在であることは、何があっても揺るぎないことなのだから。
そう考えた時、ふと筐体が悲鳴を上げないことに気がついた。以前ならば強く軋んでいたはずだが・・・マスターのことを諦められたということなのだろうか。いや、そんなはずはない。それなら、今の自分の立場に・・・現状に満足しているということなのか。
何気なくマスターに視線を移すと、何故だか穏やかな気持ちになれる。それが偽りのものであれ、俺の中にそれがあることだけは間違いない。そしてそれは俺にとっての真実であり、全てなのだろう。おそらくボーカロイドではなく、人もそうなのだ。誰かから与えられたものでも、自分の中で生まれたものでも、自分の中にある限りそれは自分にとっての真実。人の言葉で揺らぐことはあっても、結局選択するのは自分自身。何が大事で何が正しいものなのかは自分で決めればいい。
だから、俺の中の気持ちは終わったのではない。これはきっと、始まりなのだ。
一つ長めに瞬きをした時、インターホンが鳴り響いた。すっと視線を玄関に向けると、マスターが瞬時に立ち上がって慌てた足音を響かせながら玄関へ走り出す。
「・・・寂しいか? ボーカロイドの兄ちゃん」
行ってしまったマスターを追いかけようとした時、男性に声をかけられた。少し前の俺なら、少し、と答えていただろうか。
「いいえ、二人に比べれば俺はまだここへきて間もないですから」
今は不思議なことに、そう落ち着いて答えることができた。男性は「そうかい」と頭を掻くと、歩き出した俺の後ろからついてくる。清々しいのは、全てがひと段落したからだろうか。
少し先に見える玄関には既に隆司さんとあの男がいて、ルカさんの横を通ったマスターが靴も履かずに飛び出し、二人に抱きついたところだった。珍しいこともあったもので、隆司さんが隣にいる男と一緒に驚いた顔をしている。ただ、それも一瞬でいつも通りに戻ったが。
二人はマスターに応えるように穏やかな表情で、抱きついてきたマスターに腕を回していた。
「・・・律、心配かけたね」
「悪かったな、律」
二人の穏やかな声からは、マスターを安心させるような優しさが感じられる。マスターがどれほど自分たちのことを心配していたかをちゃんとわかっているからなのだろう。
ぎゅっと二人に抱きついたままのマスターは、何も言わずにただ少し震えていた。
不意にルカさんが壁際から離れてマスターの後ろに立ち、軽く頭を下げる。
「心配しました、マスター・・・ご無事で何よりです」
ルカさんが顔を上げた時、マスターは振り返って彼女に視線を移した。その視線は俺の隣で壁に背を預けている男性、そして俺へと動いて、また隆司さんたちへと戻っていく。
「心配したって割には平気そうな顔してるじゃねぇか」
にっと笑う隆司さんは、そう言いながら離れたマスターの頭を撫でた。ルカさんが弱いところを見せまいとするのは、おそらく隆司さんの影響だと思うのだが、本人はそうとわかっているのだろうか。いつもの調子で笑い合っている二人にはそんなことどうでも良いことのようだが。
「お帰りなさい、隆司さん」
「ああ、ただいま」
すっと隆司さんがマスターの横を通り、家へと上がって俺の方へ拳を突き出してくる。その拳と隆司さんの顔を虚をつかれた。暫く交互にそれを見ていたが、数秒後にそれがどういう意味なのかようやくわかり、自分も拳を作って差し出された拳に当てる。隆司さんは、それに満足そうに笑ってくれた。
この人はあんな出来事の後だというのに、何故ここまで人のことばかり心配していられるのだろう。全く、隆司さんには敵う気がしない。
「話は中でしよう。待ってくださっているからお茶ぐらい出したいしね?」
ふと聞こえた声に視線を向けると、マスターがその人の視線を追ってこちらへと振り向く。その目が少し悲しそうだったのは気のせいだろうか。
今頃動き出したような時間の流れに任せて、誰もが歩き出すタイミングで自分も部屋へと歩き出す。
これからおそらく、マスターの過去を知ることになるのだろう。ずっと知りたかったことではあるのに、何故だろう・・・妙に胸騒ぎがした。
この重たい空気は何だろうか。発生源はおそらくマスターだと思うが、どうもそればかりではないらしい。張り詰めた空気は肌にぶつかって、弾けるような痛みを与える(と言っても俺に痛覚なんてものは存在しないから気のせいでしかないが)。
あの男・・・竜一さんがお茶を入れようとしていたのだが、積もる話もあるだろうと俺と隆司さんでその仕事をかってでたのだが・・・結局誰一人としてその間も口を開こうとはしなかった。
紅茶を全員分並べて俺たちが席についた頃、そんな沈黙を破ったのは隆司さんだった。
「説明、竜一さんがしますか? もし話し辛いなら俺が話しますけど」
自分が話すわけでもないのに、隆司さんの言葉に筐体が締め付けられた気がした。話を振られた竜一さんは微笑んで「自分で話すよ」と一言。
「まずは・・・自己紹介した方が良いかな?」
その声に、名前はもう既に知っています、とは言えなかった。この場にいるルカさんはきっと知らないだろうし、この空気だ・・・俺がここで口を挿んではいけない気がした。
「――僕の名前は、竜一。
僕の中のもう一人は竜二と言って・・・本当なら竜一であるはずの、僕の兄なんだ」
竜一さんのその言葉に、俺は思わず隆司さんに視線を向けていた。隆司さんは曖昧に笑みを浮かべただけで、何も言おうとはしない。意味がわからず首を傾げると、竜一さんが深く息を吐き出す。
「胎児内胎児という言葉を、聞いたことはあるかい?」
その言葉に俺が顔をしかめたのを、男性は苦笑しながら見ていた。今から一体どんなことが語られるのだろう。そんな言葉から始まるなんて誰が予想しただろう。
筐体内で何かが恐怖に震えた。
→ep.42 or 42,5
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